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翻弄ゲーム番外編・バレンタインゲーム 〜叔父×姪のバレンタイン〜

作者: 美典

ムーンライトノベルズで連載中の『翻弄ゲーム 〜叔父×姪は恋愛もHもダメですか?〜』の番外編です。

本編よりも少し前、バレンタインのお話(短編)となります。

桜木聖亜(15)、桜木知己(27)。

小悪魔姪とヘタレで変態叔父の物語。

「あの…っ! 桜木先輩…じゃなくて、聖亜(まりあ)さんはご在宅でしょうか?」


ジムに行こうと自宅の門扉を出たところで、桜木(さくらぎ)知己(ともき)は突然見知らぬ中学生男子三人にそう声をかけられた。

日曜なのに制服。しかも、その胸元に光る校章を見る限りこの学区の公立中、姪の聖亜が通っている中学校のものに違いなかった。


「姪の聖亜に何か用ですか?」


知己は冷ややかに問いかけながら睨むように三人を見下ろす。その瞬間、三人は反射的に息を呑んで背筋を正した。

教師という職業に就いていながら中学生にそういう態度を向けるのは如何なものかと自問しながらも、知己はますます眉間の皺を深くする。

整った風貌の知己が冷徹な表情を浮かべれば凄みが増して三人はますます萎縮し、それはまるで蛇に睨まれた蛙のようであり。

何故こんなにも睨まれなければいけないのかと戸惑った様子で、彼らは小さく「すみません…」と繰り返した。

彼らの目的は明白だった。

手には不似合いな可愛い小さな紙袋が下げられている。

今日は2月14日、バレンタインデー。

最近は逆チョコという言葉もあるくらい、男から女へ告白してチョコを渡すということも珍しくはないらしい。

知己は嘲るように肩を竦めて息を吐くと、


「ちょっと待ってて」


仕方なく聖亜を呼びに自宅へと引き返した。

何故自分の想い人に他の男の橋渡しをしなければならないのか。

不本意な思いに捉われながらも、知己は聖亜の私室のドアをノックする。


「なに?」


開かれたドアから現れたのは長い黒髪に綺麗な顔立ちをした少女。中学三年だというのに発育が良く長身で巨乳。それは長兄の娘であり、一回り年下の姪である。最愛の。

同じ屋根の下で暮らし毎日顔を合わせているというのに、その姿を見ただけでいつでも胸が高鳴ってしまうほど、愛しい。


「聖亜ちゃん、門のところに客が来てるよ」


「客?」


訝しげに聞き返しながら聖亜は小首を傾げる。そんな些細な仕草でさえ愛らしくて、思わず抱き締めたくなる衝動を堪えるのに必死になる。


「聖亜ちゃんの中学の後輩くんみたいだね。どうやらチョコを渡しに来たらしいよ」


聖亜がモテるというのは知っている。この美少女ぶりならそれも当然の事である。


「なんでわざわざ家まで来るの?」


独り言のように呟きながらそれがまるで気持ち悪いとでもいうように表情を歪めて、聖亜は階段を降りて玄関へと向かった。

その後ろ姿を知己も追う。聖亜が門を開いて外へ出たところで、知己は門の内側の死角になる場所に身を隠した。ここならば距離は近く会話も聞こえる。少し身を乗り出せば様子を窺うこともできる。


「桜木先輩…!」


聖亜の姿を見るなり彼らは駆け寄って取り囲んだ。


「あの…っ、先輩! いきなりですみませんっ。俺たち、ずっと先輩のことが好きでした」


「先輩…もうすぐ卒業だから…、どうしても伝えたくて」


「これ、チョコです。受け取ってもらえませんか?」


矢継ぎ早にそう言われ差し出された紙袋に目もくれず、聖亜は腕を組んでため息を吐いた。


「悪いけど、こんな風に休みに家に来るとか困るんだけど?」


「すっ、すみませんでした。でも…っ!」


「私、好きな人いるから」


「え?」


驚愕したのは彼らだけではない。門の内側で身を(ひそ)めている知己も聖亜の台詞に思わず喫驚して固まった。


「でも、先輩っ。告白全部断ってるじゃないですか! 有名ですよ、絶対誰とも付き合わないって」


耳に届いたそんな台詞に、知己は我に返る。

よく考えれば、聖亜のそれが効率的な口実であるとすぐに分かったはずなのだ。

聖亜の身持ちの硬さは心得ている。それは幼い頃からそうだった。

ーーーだけど、俺にだけは。

そんな自負が優越感を呼び起こす。ゲームと称した遊びとはいえ、彼女は自分にガードを取り払ってくれている。


「とにかく、チョコは受け取れない。ごめんね」


そう言い捨てて三人へ目礼してから、聖亜は門扉を開けて敷地に足を踏み入れると身を隠していた知己の姿を捉えて歩み寄ってきた。


「立ち聞きしてたの、知己? ああ、私があの三人に何て言うか不安だったんだ?」


あの三人には愛想の欠片も見せなかったというのに、彼女はただ唯一知己にだけ小悪魔の片鱗を見せる。

愉しげににやりと唇を歪ませて目を細めるその表情は、あどけなさの中にどことなく大人の雰囲気を滲ませた思春期特有の色香そのもの。

思わず生唾を飲み込むと、それを察した様子の聖亜が不意に知己の手を取ってそのまま自分の頬へと導いた。

僅かに赤みが射した頬の白い肌の滑らかで瑞々しいこと。指先が躊躇ってしまうほどの質感に、知己は狼狽えた。


「聖亜、ちゃ…?」


「心配してたんでしょう? 俺の大事な聖亜ちゃんがあんなガキどもに触られたらどうしようって」


含みのある物言いに艶を含ませ、背伸びをして顔を近づけてくる。胸に柔らかな感触を押し当てられて、全神経が胸と指先にだけ集中する。

如何に相手を翻弄させられるかーーー二人の秘密のゲームの手段の一つに過ぎないはずなのに。

分かっているのに、止まらない。

感情が勝手に心拍を速まらせ、幼稚な色仕掛けに簡単に煽られる。

恋情を逆手にとって弄ぶような言動を繰り返され、それにすら快感を覚える自分はドMだと毎度確信するのだ。


「私が誰かにこんな風に触られてたら、嫉妬する? 知己?」


知己の手を掴んだまま頬の質感を堪能させるかのように小刻みに揺らし続け、あからさまな動揺を見せる知己の様子を見て聖亜は完全に楽しんでいる。


「好きな人がいるって聞いて、びっくりした?」


「当たり前だろ」


「ふぅん」


満足そうに微笑みながら知己の手を離す。それでも頬に這わされたままの手に聖亜は頬を押し当てるようにしながら瞳を閉じた。


「でも、聖亜ちゃんが好きになるのは俺だって決まってる」


そう告げられた言葉に瞳を開くと、聖亜は射抜くように知己を見つめた。


「聖亜ちゃんのファーストキスと処女をもらうのは俺だから」


真摯な眼差しが交差する。

姪が好きだと自覚して10年。

血族の領域という概念などとうに捨てた。


「まだそんな馬鹿みたいなこと言うんだ?」


「馬鹿みたいなことじゃないよ。いつか絶対、現実にしてみせる」


「へぇ、それは楽しみだね」


嘲笑いながら身を離してくるりと翻すと、長い黒髪が目の前で煌めいて棚引く。

漂うシャンプーの芳香に眩暈がするほどの欲情がこみ上げて、知己は思わず聖亜から目を背けた。


「それよりさ、今日バレンタインだよ。知己は出かけないの?」


些細な抵抗さえ許さないとでもいうように知己の視界に入り込んで無邪気に聖亜が問いかけてくる。

一体どんな答えを期待しているのか。彼女の心中は計れない。


「いくつもお声はかかっているんだけどね。俺が欲しい本命チョコは一つだけだから。それとも、他の女からの本命チョコを俺がもらってきたら、聖亜ちゃんは嫉妬してくれるの?」


自分こそどんな返答を期待してそんなことを問うのか。

探り合うようなやり取りが己をたまらなくさせる。


「どうだろうね?」


あっさりと躱されて落胆するが、それに浸る間もなく。


「昨日友達とチョコ作ってきたから、あとで知己にもあげるね」


義理だと分かっていても、その笑顔で気持ちが浮上する。

我ながら単純である。


「聖亜ちゃんの本命チョコ! すっげー嬉しい♡」


「ば…っ、馬鹿じゃないのっ? 義理に決まってるでしょっ!」


確実に負けているのは自分だけど、そもそもそれが嬉しかったりするから厄介だ。

たわいない会話。些細な駆け引き。翻弄ゲーム。

叔父と姪という間柄だけではなく、ほんの少しだけそれをはみ出した関係。

今はまだそれで満足していてあげる。

だけど。

いつか絶対。

ーーー俺は君を手に入れる。


「好きだよ、聖亜ちゃん♡ ホワイトデーのお返しには俺をあげるね♡」


「調子に乗んないでよねっ、馬鹿知己っっっ!」



〜fin〜

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