地上の扉
「天空の扉」とリンクしています。
こんな夢を見た。
私は小さな家の前に立っていた。
扉を開ける。
目の前に広がったのは、温かな室内。
そうして自分を見る子供達の笑顔。
「おかえりなさい!」
そう言うと子供達が私にしがみ付いた。
女の子と男の子。
女の子の方が幼い。
私は思わず微笑んだ。
そうして子供達の頭を撫でる。
「ただいま」
私はそう言うと室内を見渡した。
室内には子供達の他には誰もいない。
「お母さんは、今ご飯を作っているよ」
女の子が私を見上げて答えた。
抱っこして、と両手を私に突き出す。
私は抱き上げた。
女の子は嬉しそうに私の首にしがみ付いた。
「ずるい!」
男の子が抗議した。
私は空いた左手で男の子を抱き上げた。
子供達が嬉しそうに笑う。
柔らかい温もりが私を満たす。
私は子供達を愛おしく思った。
私は子供達を下ろし、いい匂いのする台所に向かった。
扉のない台所でリズミカルな包丁の音がする。
私はそっとその背中に近寄った。
後姿で分かる、彼女だった。
かつて天空の扉の中で出逢った彼女だった。
いつか地上で出逢うのだと約束をした。
私はそっと抱きしめる。
彼女の髪に頬を寄せる。
「あら、帰ってきたの?
早かったのね」
彼女が笑いながら言う。
「ああ、ただいま」
トントンと包丁を動かす彼女。
「日傘は買ってきてくれた?」
そういえば頼まれていた。
忘れた、と私は答えた。
「もう、買ってきてって言ったのに!
今度は忘れないでよ」
私はあいまいに答えた。
私は恐れていた。
日傘を買えば、また彼女は天へと帰ってしまうのではないかと。
彼女は包丁を置き、私の手を体からはがした。
そうして私の顔を見て微笑んだ。
「大丈夫よ。私は地上にうまれたの。
もう天へ帰ることはないわ」
その言葉に私は彼女を強く抱きしめた。
「愛しているよ」
私は彼女を愛おしく想い、告げた。
「変な人ね」
彼女がクスクス笑う。
今更そんなこと言わなくても分かっているわ、と。
「ねえ、お鍋がこげちゃうわ」
私は彼女の言葉を無視して、彼女を抱きしめていた。