事後処理しちゃいました
とりあえず助けた一団の人達と協力して盗賊を縛り上げる。街まで歩いて半日ほどらしいので後は街の警備の人に連絡して任せてしまうことにした。ここに放置して魔物に襲われたりしても寝覚めが悪いので氷の壁を作っておく。
縛る時はしっかり口も塞ぐ。口を塞げば魔法は使えない。魔法を使うためには言葉が必要だ。言葉を用いずに魔法を使おうとすると頭の中に思い浮べた魔法が自分の体内の中で発動してしまう。魔法は言葉を発して初めて自己の外側に発現させることが出来る。(お婆ちゃん談より)
セツナはちゃんと手加減していたらしく、盗賊達は皆多少の火傷はしていても命に関わるような傷を負っているものはいなかった。全員を縛り終えて一段落ついたので互いに紹介し合う。
「危ない所を助けて頂きありがとうございました。僕はこのラッチ楽団の団長をしているラッチです。マントの下が女性と分かった時は驚きましたが…。いやはや、人を見た目で判断してはいけないと痛感しましたよ」
人懐っこい笑みを浮かべた青髪の男性が感心した風に頷く。細い目が笑顔になると更に細く、線のようになっている。
「いえ、こちらもギリギリまで黙って見ていてごめんなさい。…失礼ですが護衛の方などは連れて無かったんですか?」
「とんでもない!あの人数では慎重になるのも当然です。護衛の件については私達もこの辺りの魔物からなら自衛出来るくらいの力はあるのですが…。なにぶん多勢に無勢で…」
なるほど。ラッチ楽団の中には小さな子供の姿も見えるので下手に手を出すことも出来なかったのだろう。
「そういうことでしたか…。ところで楽団?というのは何をするんですか?」
私の質問にラッチさんはニヤリとすると後ろに控えていた団員に目配せをする。すると、団員は手に持った道具を構え、ラッチさんの合図とともに音が溢れだす。ラッチさんの手の動きに合わせ音は鳴り響き、ラッチさんが手を閉じると同時に演奏も止まる。ラッチさんは私に向き直り陽気な声でいう。
「寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!歌って踊る僕らがラッチ楽団!旅して磨いた僕達の音楽を楽しんでいってね!」
『おぉ…!』
「か、かっこいい…!」
大人しくしていたセツナも演奏を聞いて興奮している。たった数秒の演奏だったけれど物凄く引き込まれた。
「皆さん凄いです!皆さんが持っている道具は綺麗な音が出るんですね!」
「ありがとうございます。これは楽器といってご覧のように色々な種類を組み合わせて演奏すると美しい音色を奏でるんですよ。アリア!オカリナを持ってきてくれ!」
アリアと呼ばれた青髪の少女がラッチさんの言葉の意図を察したのか、背負っていた荷物から赤い楽器を取り出し、何かが入った袋と共に渡してくる。
「アリアといいます。エレノアさん、助けてくれてありがとう。オカリナと少ないけれどお礼を受け取って」
小さな少女が持ってきてくれた袋の中には少なくないお金が入っていた。私は慌てて受け取るのを辞退する。
「私、お金なんて貰えないよ」
「…?エレノアさん、さっきと話し方変わった?それに目の色も青色に…?」
「え?えぇと…」
言葉を濁す私を見てさらに訝しげな視線を向けてくるアリアちゃんに必死に言い訳を考えながらセツナに助けを求める。
『どうしようセツナ!《同調》すると見た目まで変わってるっぽいんだけど!?』
『さっきの言葉からするに瞳の色だけだろう?見間違いで押し通せる』
『喋り方は?!』
『エレノアよ。少しは落ち着かんか。我の事を知る人間はもはや好き好んで歴史を学んだ変わり者しかおらんのであろう?簡単にバレたりせんよ』
私は旅をするにあたってセツナの存在は他人に知られないようにしようと決めた。普通の人はそもそも意思を持つ剣なんて信じないと思うが、仮に信じた人がセツナを求める可能性を考えると隠しておいたおくのが最善と思ったからだ。
『とりあえず話を逸らして誤魔化すのだ。こちらが勝手にとはいえ救った相手のことを根掘り葉掘り聞こうともしまい』
『うぅ〜。やっぱり鋼の心臓が欲しいよ…』
私が黙り込んだのを見てラッチさんが助け舟を出してくれる。
「アリア、エレノアさんを困らせたらいけないじゃないか。エレノアさん、お金は私達の感謝の気持ちです。受け取って頂けませんか?」
ラッチさん助かった!話しを逸らしてくれたことに感謝するも、アリアちゃんがバツが悪そうにしているのを見て罪悪感を感じてしまう。
「やっぱりお金は受け取れません。代わりにこのオカリナと皆さんの演奏を街でたくさん聞かせてくれませんか?」
「分かりました。エレノアさんの為の特等席をいつも空けておきますからいつでも見に来てください」
『エレノア!特等席だぞ!絶対行くぞ!』
演奏を気に入ったのかセツナは大はしゃぎだ。私もしっかり聞きたいので勿論了承する。
「アリアちゃんありがとね。お礼にこれあげる。甘くて美味しいよ」
アリアちゃんからオカリナを受け取る。お返しに私の肩にようやく背が届くくらいのアリアちゃんに持っていた果物をあげ、頭を撫でる。
「それにしてもラッチさん。アリアちゃんみたいな子供でも凄く上手い演奏でしたね。どれくらい練習してるんですか?」
「くくっ…」
「…?ラッチさん?」
何故か必死に笑いを堪えているラッチさん。何か可笑しなことを言っただろうか。
「…じゃない」
「あ、アリアちゃん…?」
「私は20だ!子供じゃないぞ!」
「嘘!私より年上!?」
「え?エレノアさんっていくつなの…?」
「私は18だよ」
「うがー!なんで私はこんなに小さいんだぁぁ!」
『行動まで子供っぽいなこやつは』
えぇと、セツナもたまに子供っぽいよ?どこからどう見てもアリアちゃんは10歳くらいに見えるんだけど…。セツナの言う通りプリプリ怒るアリアちゃんの様子がより子供らしく見えて微笑ましい。
「くっ…。そんななりですがアリアは本当に20ですよ。くくくっ…」
「ラッチ!いつまで笑ってるんだよ!私だって好きで小さいわけじゃないんだぞ!」
「あ、アリアさん…?取り敢えず落ち着いて…?」
「ふん!ラッチの奴め…。…ふぅ。見苦しいとこ見せてごめんね?私のことはアリアでいいよ」
「では、私もエレノアって呼んで下さい」
『アリアは面白いやつだな』
セツナの評価に苦笑いしながら私とラッチ楽団はともに街道を進む。
困ったときのお婆ちゃん