出発しちゃいました
セツナと契約してから一夜明け、外は既に朝日によって照らされている。一晩考えて私はこの家から出て街に行こうと決意していた。
お婆ちゃんが死んでしまった後もここに残っていたのは剣を探すという目的もあったが、やはり見知らぬ土地に行くことの不安が大きかった。
けれど、今は1人じゃない。生まれ育った山にも思い出はたくさんあるけれど外の世界も見てみたい欲求のほうが強かった。
「という訳で。セツナ、出発しよう!」
セツナと一体化していると考えたことがそのまま伝わるから便利だ。
『エレノアの思い切りのいい性格を我は好きだが、もう少し慎重になった方が生きていく上では重要だと思うぞ』
「うっ…。善処します」
セツナに有難い言葉を頂戴しながら旅の支度をする。お婆ちゃんが残してくれていたお金を借り、保存の効く食料を鞄に詰めていく。こんな時に空間魔法が使えたらなぁ…と思うが、ないものねだりをしてもしょうがない。
動きやすい格好にマントを羽織る。このマントはブラックベアーの毛皮で出来ており、防水と耐寒を備えた優れものだ。夜には暗闇に紛れることで視認されにくい毛布にもなる。以前、ボア用に仕掛けていた落とし穴にかかって打ちどころが悪く死んでいたブラックベアーからつくったものが旅では大活躍するだろう。
旅の準備を終え最後にお婆ちゃんのお墓に挨拶をしにいく。お墓の掃除をして花を供え手を合わせる。
「いってきます」
私の挨拶が終わったあとはセツナの番だ。長年探し求めていた相手と話せてお婆ちゃんが喜ぶ姿が目に浮かぶ。
『我を探してくれた其方のおかげでエレノアと出会えた。感謝する。エレノアは我が守る故、安らかに眠っていてくれ』
「ふふ。頼みにしてるね?」
『ああ、任せておけ』
お婆ちゃん。私に素敵な友達が出来ました。
するべきことを終え、街道に出るために森を抜ける。手に持つ地図は古いものだが大きな道までは変わってない…よね?
『心配せずとも街の位置さえ分かれば我は方角を把握できるから、最悪道がなくとも街には着くはずだ』
「やっぱり旅に必要なのは話ができる剣だね!」
『話ができる剣が我以外におれば、の話だがな』
我ながら行き当たりばったりな計画だがそれも旅の醍醐味と前向きに考える。小動物しかいない長閑な森をセツナと話しながらのんびり歩く。すると森の切れ目が目に入る。どうやら無事に街道に出れたようだ。
「とりあえず森は抜けれたね〜」
『そうだな。…む、エレノアよ止まるのだ』
言われて遠くの気配に気づく。セツナと一体となってから私の体は色々と変わった。その一つに生物の気配を強く感じることが出来るという能力がある。けれど、今の私は気配を感じ過ぎて素早く正確に判別することが出来ない。
「結構離れてるけどたくさんの人がいる…?」
『そうだ。問題は片方の集団がもう一つの集団を取り囲んでいるということだ』
「離れてるのにそこまで分かるんだ。円形になって休んでるだけじゃないのかな?」
『そうならいいんだがな…。厄介事の匂いがする』
「とりあえず近づいてみる?」
『あぁ。だがいざ危なくなったら体を借りるぞ?』
「分かった。それにしてもセツナはすごいね」
セツナと契約するだけで凄い力が手に入る。話し相手にも方位磁針にもなるなんてさすが伝説の剣。
『言っておくが我と契約することはそんなに簡単なことではないぞ?並のものが我と無理に契約しようとすると魔力を全て吸われてしまう。魔力が空になる前に契約を破棄すれば助かるが、意地でも我を離さんかった者の末路は…』
セツナはそこで言葉を切ったが頭にセツナが思い浮かべた光景が流れ込んでくる。…うぇぇ。人が蛇の抜け殻みたいにカラカラになってた。
『…とまぁそんな風になる者が少なからずいたのだ。だから命を吸う魔剣などとも呼ばれていた』
「今更だけど契約出来てるから私は平気なんだよね?」
『あぁ問題ない。エレノアは元の魔力が高い上に魔力の回復速度も速い。我を3本同時に契約できる量はあるぞ』
セツナの言葉を聞き安心する。カラカラになってしまうのは勘弁してほしい。
話しているうちも例の集団は動きを見せていない。マントで体を隠し、森の中を移動して慎重に近づく。
男が言い争う声が聞こえてくる。セツナが意識を張り詰めるのを感じ、私もセツナを取り出し強く握りしめた。
「だからよぉ!てめぇは俺が選んだ後に残った奴を恵んでやるって話だったろうが!すっこんでろ!」
「なんだとぉ!てめぇが俺のおこぼれにありがたくあずかってればいいだろうが!」
何に使うのかよく分からない色鮮やかな物を手にした十人程の集団を三十人近い武器を持った男達が取り囲んでいる。揉めている原因は少し豪華な格好をしている二人が同じ女性を欲しがっているようだ。
「おめぇ子供が好きだったろうが!そこの青髪やるから大人しくしてろ!」
「うるせぇ!それとこれとは別だ!今回は譲れねぇ!」
子供と言われた青髪の小さな女の子がプルプルと震えている。怯えているのかと思ったら、よく見ると怒っている。こんな状況で怒る余裕があるとはたくましい。
そして争いの元となった女性を見る。なるほど、確かに美しい。艶のある黒髪を腰のあたりまで伸ばし清楚な雰囲気を醸し出している。身体の起伏に富み、露出が大きい衣装が色っぽい。今は優しげな表情を恐怖に染めている。
「ちっ!埒があかねぇ…!《地縛》!」
「っ!?てめえ!ふざけやがって!」
痺れを切らした片割れがなんと、味方に魔法を行使した。地面が盛り上がり四肢を拘束する。拘束された男が喚くのを無視して下品な笑みを浮かべて男が女性に近づく。
「へへっ…。邪魔者もいなくなったし俺と楽しいことしようぜ」
「いやっ…!」
これ以上は見ていられない。セツナを握る力が強くなり足を踏み出そうとした時声が響く。
『エレノア。我に任せてくれ』
「…うん。分かった。セツナに任せる」
『よし。行くぞ。《同調》』
そして、私達は足を踏み出した。