落っこちちゃいました
「弓とナイフ持ったし、よし!準備完了!」
今日は朝から雲一つ無い絶好の狩り日和だ。山菜と、果実それに出来ればお肉を食べたいなー。
おっといけない。挨拶しなきゃ。
「いってくるね。お婆ちゃん」
玄関を出る前に誰もいない家に声をかけて山に向かう。
私はエレノア。物心ついた時には両親がいなかった。お婆ちゃんから聞いた話によると、流行り病にかかって亡くなったそうだ。以前いた村の中でも私が流行り病からの唯一の生き残りらしい。
無人の村に佇んでいたところを、私はお婆ちゃんに拾われた。お婆ちゃんは旅の魔法使いで色々な場所を巡って研究をしていた所、偶然村を通りかかった時に私を見つけてくれた。
その後は、山奥に小屋を建て、2人でひっそりと暮らした。そこで私は狩りや魔法など、生きていくために必要なことをお婆ちゃんから学んだ。残念な事に私には魔法の才能が無かったが、生活に使えるレベルは必死に修行して物にした。
お婆ちゃんの話によると、魔法の適正は髪の毛に現れる。
赤色なら火属性
青色なら水属性
緑色なら風属性
茶色なら土属性
黒色なら無属性
原色に近く鮮やかな色ほど使える魔法は強力になり、同じ属性の人と子を成す事によってその色は濃くなる。
また、違う属性の人と子を成すと通常は両親で強い方の属性を受け継ぐが、稀に2属性や新たな属性の魔法が使えるようになることもあるらしい。
私の髪の毛の色は銀色だ。お婆ちゃんも見たことが無いらしく何の魔法適正なのか分からなかったようだ。
魔法適正が分からなくても、お婆ちゃんが褒めてくれたこの銀色の髪を私はとても気に入っている。適正が無くとも私は魔力が多い(らしい)ので、無理やり魔力を流し込めば初歩の初歩である魔法は使えた。(お婆ちゃんには呆れられたが)
だけど、そもそもなんでこんな山奥にお婆ちゃんは住み始めたのだろう?
大きくなって街の存在を知ってからお婆ちゃんに訪ねてみると、この山のどこかにある洞窟に封印された剣がある…らしい。
古い書物でその剣の存在を知ったお婆ちゃんは、何とか現代の地図と照らし合わせてこの山にあると絞り込んだそうだ。そして、この山に向かう途中で、疫病で崩壊した村の中で私を見つけてくれた。なので、私はその伝説の剣にとても感謝している。
もし、この剣の話がなかったら誰もいない村の中で私は餓死していたに違いない。
結局、お婆ちゃんが生きている間に洞窟は見つからなかったが、お婆ちゃんの話によると、伝説の剣は意思を持っているそうなので、見つけたら是非お礼を言いたいものだ。
色々と考えに耽りながら山の中を探索していると、生き物の気配を感じた。こっそり気配の方を覗いてみると、草を食んでいる雌鹿がいた。
「やたっ!今日はシカ肉だ!」
思わず声が出て、慌てて鹿の様子をみるがどうやら気づかれてないらしい。ホッとしつつも弓を構える。動きが止まるのをじっと待ちそして矢を放つ。
「《風よ》」
魔法によって威力が上がった弓は見事に雌鹿の頭を打ち抜き、一瞬で絶命させた。うん。今日も調子よし。
緊張感から開放され、無事仕留められた事に安堵して周りの警戒を怠っていた。そして、そいつはやってきた。
グルルルルル
バッと振り向くと黒い巨体が目に入り、思わず息を呑む。
「嘘!?ブラックベアー!?」
その巨体は私の身長を優に超え、丸太のような太い腕と鋭い牙と爪が簡単に私の命を奪えることを暗示させた。
夜行性のブラックベアーに合わないために朝から山に入ったけど、タイミングが悪かったらしい。
体に嫌な汗が流れるのを感じながら、ジリジリと後退する。
(狩りはし終えた後が一番危ないって言い聞かされてきたのに…!)
自分の未熟さを攻めながらどうすべきか必死に頭を回転させる。自分が使える魔法ではブラックベアーに傷をつけるとことは出来ても、倒すことは出来ない。
手負いの獣は危険だ。下手に手を出すのもまずい。まずは考えながらブラックベアーから視線を外さないようにしながら距離をとって…
ガラッ
「ッ!しまった!」
考えに気を取られすぎて足下が疎かになっていた。体を浮遊感が襲う。気を失う前に最後に目に入ったのは、迫り来る水面だった。