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一人一人が持つ色彩(前編)

朝からサルの笑い声が真上の部屋に住むトオルの耳に強く響く。


「あ~もううるさいんだよ!!」

今日のトオル、いや最近のトオルは悩んでいた。

トオルはベッドの上に寝転び、天井を見つめる。

そして大きくため息を吐く。


それは今の自分自身に不満を持っていた。

毎日、ただ過ぎて行く24時間の退屈な日々。

やりたいことができず、アニメの世界に浸り現実逃避をする日々。

そんなことを考えてるとどこからかストレスが湧き出り、周りをもまともに見れなくなって行った。


サルの声に我慢できなくなったトオルは、大学にある鈴本が絵を書いている部屋に向かい悩みを伝えた。

「今日は休日なのにどうしたんだい?」

「最近、自分でも分からないんです」

鈴本はしばらく静かにトオルの言う事を聞き、話し終わると鈴本は口を開いた。


「まぁ、俺が言えたことじゃないけど、今は高校生より悩める時期じゃないのかな?」

「鈴本さんはいいですよね。やりたいことがあって、毎日それをして過ごせるんですもん」

「本当にそう思うかい?」と鈴本は真顔で答える。

トオルはその質問に心から答えることができなかった。

「大学3年にもなって、大して上手くない絵を書き、美術の専門学校を通っているわけではないのに将来有名な画家になれるかも分からない俺が決して今、一日も悩んでない日があると思うかい?」

トオルは2度目の質問にも答えることが出来ずにただただ鈴本を見つめるしかできなかった。


「まぁ、今をどうしようなんて考えてもそれを実行できる勇気もないからただ自分の好きな事をしてるだけなんだけどね」と笑顔で言い、道具を片づけながらトオルに提案する。

「そうだ、今からちょっと見せたいものがあるんだけど・・・」

2人は大学を抜け、ある公園へと向かった。

そこには猫に餌をあげるナツの姿があった。

2人は遠目からその姿を見る。


「トオル君は彼女がどんな毎日を送っているか知ってるかい?」

「あ・・・えーと、カレーを毎日食べているイメージしかわかないかな」

「ナツちゃんは毎日、夕方になるとここに来てあの野良猫に餌をあげてるんだよ」

「へぇー知らなかった」

「それからサル君の将来の夢って聞いたことあるかい?」

「え?サルの・・・ですか?」

「あの子はねお笑い芸人になって、将来は冠番組を持って、笑いだけでご飯が食べていけるのが夢なんだってさぁ」

「だから、あの笑いは・・・あいつ毎日バラエティー番組見て、研究してるんだ」

「それだけじゃないよ、夜な夜な誰もいない公園で一人だけども漫才の練習してるんだ」

「あのー鈴本さんはなんでそんなに知ってるんですか?」

「俺が知ってるんじゃない・・・トオル君、君が知らなさすぎなんだよ」


トオルはその言葉を聞いて、自分が自分で作った甲羅の中に閉じこもりすぎなのに気づく。

「別に他人の事なんて気にするほど自分に余裕がある訳じゃないんだけど、日々自分の事をしていると自然とこういう情報は入って来るんだよ。トオル君の好きな事ってなんだい?」

「え・・・そ、それは・・・」

トオルはすぐには言い出せず言葉に詰まる。

そんなトオルに鈴本は優しく声をかける。

「答えはすぐに出さなくてもいいんだよ。君はまだ生まれてから20年しか生きてないんだよ。もう20だと思ったときは焦りだ。その焦りを素直に受け入れ、目の前にある状況を見るんだ」

「もし受け入れられない場合は?」

「その時は、目の前ではなく周りを見るんだ。きっと何かがそんな君を支えてくれるよ」


トオルは鈴本の言葉すべてを脳裏に焼き付けみずき荘に戻った。


「自分がしたいこと、したいことが無い人間なんていないんだ」

そう自分に言い聞かせ周りを見た。

そこには今のトオルを支えているのか、はたまたそうではないのかは分からないが部屋を埋め尽くす物があった。


「ミユキ・・・」


トオルは小声でその名を呼ぶと一瞬にして脳にある事が浮かび上がった。

その瞬間、玄関のドアがゆっくりと開く。

そこにはサル、さっきまで一緒だった鈴本そしてナツが立っていた。

「トオル・・・カレー作ったから一緒にご飯食べよう」とナツがゆっくり喋るとトオルは笑って言った。

「僕やりたいことができたんです!」

サルとナツはポカンッとした顔ををしたが鈴本は笑顔で言う。

「それはなんだい?」

トオルは部屋に貼ってあるポスターを指差し言う。

「僕を救ったこのアニメのような作品を作りたい!」

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