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口うるさいやつほど、心はやさしい

それから2日が経つが、鈴本が描こうとしている絵は浮かんでこない。


「まぁ・・・ゆっくりでいいんじゃないですかね?」

鈴本はパレットを置き、ため息を吐く。


「そういえばトオル君って一人暮らし?」

「はい、一応ボロいアパートですが・・・」

「そこって空き部屋ってない?」

「えーっと全部で8個あって下の階には管理人のおじいさん、おばあさんが一緒に住んでいて二階には僕と隣に女性が一人住んでるだけと思うんですが・・・どうかしたんですか?」

「いやー今日の朝、大学の掲示板見たら空き部屋を探してるような紙が貼ってあったから」


そうして2人はその紙が貼ってある掲示板を見に行った。


「ほんとだ・・・」

「ねぇ、この乱雑な字を見る限りかなり焦ってる感じじゃないかい?」

突然、2人の背後から1人の男が現れる。

「だずけてくださ~い」

「うわっ!だれ?」

茶髪のワックスで髪の毛をツンツンに立てて背は170cm前後でいかにもチャラそうな男がお腹を空かせた音を鳴らしながら現れる。

2人は無視しようと思ったが仕方なく食堂でご飯を与えた。

その男はガツガツと箸を止めることなく食べ続けた。


「いや~ホンマ助かりました」

「ちゃんとお金返せよ」

「で、おたくら名前なんて言いますのん?」

「話を聞け!!」

「俺はここの3年の鈴本和義」

「ちょっと鈴本さんっ!」

その男はトオルのことを見る。

「まったく・・・僕は桜井と・・・」

「いや~ホンマに感謝してますわ~」

「だから、話を聞けって!!」


「俺は大阪から来た一年の猿井サスケって言います。まぁ~サルとでも呼んでくださいよ!先輩さん」

「サル君は家でも探してるのかい?」

「そーなんですわ!住んでいた所を追い出されて、まぁ原因は俺の声らしいですけどね!わっはははは」とサルは大笑いした。

「そりゃー追い出されるだろ」

「それじゃ、トオル君が住んでいるアパートを紹介してもらったらどうだい?」

「ちょ、鈴本さん!!」

「そりゃ~ええわ!是非、紹介してもらいたいわ」

トオルは嫌な顔をしたが、断っても話を聞かなそうなのでいやいや承諾した。

「その代わり、ちゃんとご飯代返せよ」

「分かってますがな~うるさい兄ちゃんやな~そんなんだと女の子にモテへんで!」

トオルは顔を真っ赤にし大声で「うるさいっ」と叫んだ。


この日の午後、3人はトオルが住む「みずき荘」を訪れた。

「うわー味がある良いアパートだね」

「ちょっと古すぎやしませんか?」

トオルはナツの住むドアを見て、ナツの事を考える。

「そういえばあれから会ってないな・・・もしかして嫌われたのかな」


鈴本はトオルに声をかけ、目を覚ましたトオルは一階に住む管理人の元へ向かった。

ノックをするとしわくちゃな顔のおばあさんが出てきた。

トオルが説明すると、おばあさんは喜んで鍵を持って、二階にあるナツの隣の部屋を見せてくれた。

「うわ~ほんまっ古い感じやな~」

標準語ではないサルにおばあさんが「どこから来たの?」と問いサルは「大阪やで」と答えるとわざわざ東京に来て感心したのか孫のように接したのか分からないが、今の家賃よりも安くしてくれるようになった。

サルはその言葉を聞いて、すぐにここに住むよう決めた。

トオルはその言葉を聞き、すぐにおばあさんに抗議した。


「どうして、こいつは僕より安くなるんですか!?」

「わざわざ遠いところからきて、それに学生だからな~」

「おばあさん!僕も学生ですよ!!」

「あれ?そうだったかのぉー」

結局、トオルの家賃も安くなった。もちろんナツのも・・・


「ほな、この部屋の鍵もらいまっせ」

「ちょっと待て!」とトオルが止めに入る。

「なんやの?」

「いや・・・その・・・ナツさんの隣はダメというか・・・」と小声で言った。

「はっ何?」

「その・・・うるさいお前と同じ階は嫌なんだよ!下に行ってくれ!下に!」

「なんやのそれ」

トオルのわがままに仕方なく、サルは下の階を選んだ。


「あの子は変わったね~最初と時は自分の意見も言えなかったのに・・・」というおばあさんの小声をサルだけが聞いた。

みずき荘の元で色々話していると、そこに「ナツ」が買い物袋を持って帰ってきた。

それを見たトオルの顔は一瞬で真っ赤になり、心臓の鼓動は早くなった。

そんなトオルにいち早くサルが気付いた。

「はじめまして」とナツに鈴本があいさつしている後ろでサルはトオルの肩に手を置き、小声で言った。

「はは~ん、あんさんあの子に恋してはるな~」

「な、なにバカなこと言ってんだよ!」と動揺するトオルにサルは言った。

「安心しーや、うちはそんな相手の女の子に手を出す奴やないで」とトオルの背中を押し、ナツに近づけた。

トオルとナツの瞳がしばらく見つめ合う。

トオルは頭を掻きながら言った。

「ははっすいません。なんかこんなにはしゃいじゃって」

ナツはトオルの顔に近づき言った。

「今日はまたカレーなの・・・良かったら皆で食べて」

トオルの顔は真っ赤になり過ぎて、まるで火山のように火を噴きそうなほどだった。


「カレーええやん!みんなで食べようや!」

「あなた・・・だれ?」とテンションが高いサルに対しナツは冷静に尋ねる。

「わいはサル言うねん!今日からここに住むからよろしゅう」

「さる・・・?」

ナツはサルに買ったばかりのバナナを剥いてあげる。

サルは猿の真似をしながら、そのバナナを受け取り食べる。

「バナナをやるな!」

トオルのツッコミにナツはクスっと笑う。

トオルはその笑顔を見て、一気に魂が抜ける。


トオルの心の中にはすでにナツに対する恋心という名の芽が生えていた。

それが育つか枯れるかどうかは、まだまだ先のことになる。


こんな和気藹々な様子を見ていた管理人のおじいさんは家からカメラを持って来て、みんなで写真を撮るよう提案した。

みずき荘を背景に管理人2人も入れて6人でカメラスタンドを立て、一枚の写真を撮った。

無表情なナツの隣で緊張のあまり硬直しているトオルが写っている写真は今、トオルの部屋の壁に貼られている。


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