初章
この作品に登場するアニメ、また登場人物はすべて架空です
「また必ず戻って来るから」
友達にその言葉を吐き捨てて、僕は田舎町から東京都という都会に上京した。
東京の大学に進学すると共に僕は「みずき荘」という築34年二階建ての古いアパートに住んだ。
こんな部屋でも家賃は意外と取るから驚いた。
一階には老人の方が2人くらい住んでいて、僕が居る二階には誰ひとり住んでいないらしい。
まぁ、それもそうだろう。
ここに住んで約2年が経つ。
大学で友達なんていない。講義中に出会って、講義中に少し会話するくらいの男はいるが、友達ではない。
高校の時も友達は少なかった。
いつもいじめられっ子や女子にモテなそうな奴と一緒だった。
こう見えて顔はブサイクではない。
ファッションにも興味があって、毎月発売するファッション雑誌も買って学んでいる。
おそらく僕のこの性格、人見知り?いや人とのコミュニケーションの仕方を知らないだけなのかもしれない。
その結果、学生時代は女の子とろくに話したこともなく、付き合ったこともない。
そんな僕が今、密かにハマっていることがある。
これこそ東京と言う舞台に住んで良かったと思う事。
それはヲタクの聖地と呼ばれる秋葉原に毎日通い、とあるアニメのグッツなどを見て回ることだ。
そのアニメの名は「ときめき絶対無敵少女隊」という今、流行っているアニメで僕はその中に出て来る一人のキャラに恋をしてしまったらしい。
気付いた時には、部屋中そのアニメで埋め尽くされていた。
欲しい物があるときは、親に電話して振り込んでもらっている。
人間としても現実の恋愛にしても、もうダメなのはわかっている。
でも、すでにこの生活が終わることが想像つかないでいた。
蒸し暑い7月の夏の早朝、今日も授業があるため早めに起床し、世間的にはダサくない服を身にまとい玄関のドアを開けた。
この時、いつもと変わらない一日が始まるんだと無意識に考えていた。
しかし、下に引っ越し業者のトラックが一台停まっていることが、まさかこれからを変えるとは予想も出来なかった。
この日の夕方、秋葉原でお目当てのグッツを親の金で買い、電車に乗り自宅に帰った。
最近、コンビニのバイトをクビにされ落ち込んでいたから、例のアニメの動画でも見て癒されようと女性が聞いたら引きそうな妄想をしながら、家の扉を開けようとした瞬間、隣の部屋からいい匂いが漂ってきた。
「カレーだ」
朝の引っ越しは隣かっと納得するとドアノブを再び握り自分の空間へと戻って行った。
それから数分後、突然玄関からノックの音がする。
僕は小走りで玄関に行き、ドアを開けた。
その瞬間、僕の心は一瞬停止し、そして僕の恋は始まった。
目の前には僕の好きなアニメのキャラクター「ミユキ」が現実世界に飛び出したかのようにそっくりな女性が小さなタッパに入れたカレーを持って立っていた。
その女性の髪は見ただけで分かるくらいサラサラの金髪で大きな黒い瞳、身長も女性にしてはあり、やせ形のぷるっとした唇が魅力的だった。
でも、僕から言わせると一つだけ欠点がある。
それは、アニメのミユキは活発で元気のある子なのだが、今目の前にいる女性は大人しそうというより呆然としている感じで走り回るような活発な子ではなさそうだ。
その女性は僕にカレーを差出し、僕はそれを受け取った。
女性から物をもらう事が少ない僕の手は震えていた。
「それ余ったので、食べてください」
そう言って女性は自分の部屋に戻って行った。
この時、僕の心は動揺することもなく冷静というわけでもなく、どうしたらいいか分からないでいた。