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「服は脱いだら洗濯機のところに持ってきてってお願いしたじゃないですか!」
もう何度目かのお小言。
汗をかいて帰ってきたら、小さな玄関で脱ぎ捨てて、冷蔵庫からビールを取り出してグビグビ飲む。
これが夏の楽しみなんだ!
脱いだまま放置すると臭う。
臭うと余計に触りたくなくなったりで、週に何度か訪れるてくれる杏子に見つかってしまうわけだ。
「ごめん」
杏子がいろいろやってくれるのに甘えている。
甘え過ぎだと自覚はあるけど、、、怒ってる杏子も可愛いって言ったら不味いよな。
「マッサージしてあげるから」
そういう時は杏子の喜ぶことをして機嫌を直してもらう作戦にでる。
花屋の仕事は結構力仕事らしい。そのために腰痛に悩まされている、俺が大学時代に部活で覚えたマッサージ役に立っているのだ。
杏子が作ってくれた夕食を食べ、食後の皿洗いは二人で行い、そして二人でマッタリと過ごす。
マッサージはそんな時にやってあげるのだ。
最初は遠慮してたけど、腰痛には勝てないようで、素直にベットで横になる。
疲れている時にはそのままウトウト寝てしまうこともある。
それでも次の日のことを考えて送って行く生活。
もっと一緒にいたいと思う。
もっと触れたい、もっと甘えさせてやりたい、もっと、、、
もっと近しいものに…
月日はあっという間に流れ、師走になった。
2学期になってから密かに画策していた計画を実行する日ークリスマス。
ベタだとは思うけれど構わない。
8時に店の前に向えに行く。
志津子さんにはそれとなく伝えてあるから笑顔で送り出してくれる。
「着替えたの?」
コートを手にした杏子がいつもよりオシャレしていることに気がついた。
「うん、志津子さんが着替えておいでって言ってくれたので、、、」
「似合ってるよ」
本当に綺麗だ。杏子は道行く人が振り返るのを知っているのだろうか?
自分の存在を誇示するように手をつなぐ。
杏子が俺に寄り添ってくれる。その甘えた仕草が可愛い。
大通りからタクシーで予約した店に向かう。
雑誌で見つけた女の子に人気のイタリアンの店だ。
クリスマスの特別メニューにお薦めワインを頼む。
料理もワインも美味しくて二人で楽しく食べた。俺は内心ドキドキだったけど。
デザートをニコニコと口に運ぶ杏子の顔を見つめて、ずっと考えてた言葉を口にするための勇気を奮う。
「杏子」
「何?」
口が渇いている。舌が貼り付いたような気がする。
「あのさ」
「うん」
「あー緊張する」
「えっ?」
「結婚、俺と結婚してください」
「良いの?本当に私で良いの?」
じっと杏子を見つめ、ゆっくり大きく肯く。
「一緒に暮らして夫婦になろう。何が起こっても一緒に乗り越えてやるから、俺と結婚しろ」
「命令形だ……でも、嬉しい」
「返事は?」
「うん」
「うん?」
大粒の涙が頬に落ちる。
「結婚します。私、吾郎さんを信じて一緒に生きて生きたい」
杏子の手を取り用意していた指輪をはめる。
ダイヤモンドは小さな輝きだけど杏子は笑顔だ。
嬉しいと何度も言う。
俺も嬉しい。ずっと思っていたことをようやく口にできた。
杏子が受け入れてくれなかったどうしようと心配したけれど杞憂だった。
記憶に残るよう店を見つけ、杏子に似合う指輪を探した。
彼女の両親のことも未解決のままだけど一緒に向き合って行こう。
嵐が来ても、きっと大丈夫だと思える。
それは二人だけで乗り越えて来た訳ではないから。
周りの多くの人が支えてくれた。
それを忘れてはいけない。
二人で一緒に生きていくために、春、ささやかな式をあげた。
杏子が働いていたあの旅館で。
俺たちを見守ってくれていた多くの人が集まってくれた。
「おめでとう」の言葉がくすぐったくてありがたい。
ウエディングドレスを来た杏子は眩しいくらいに綺麗で俺は何度も見惚れてしまう。
皆からのお祝いの言葉に涙ぐみ、時には笑い、これからの決意を新たにしたのだ。
この人達への恩返しは二人で幸せな家庭を築くこと。
式の後、みんなで撮った記念撮影の背景にはアンズの花が咲いていた。
彼女の名前と同じ杏の花だ。
花咲く頃に君を見つけ、花咲く頃に君を娶る。
幸せになるために。
やっとラストです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。




