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花咲く頃に  作者: 瓜葉
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4月14日


杏子の誕生日。

あいにく平日で一緒に祝うことは出来ないが、日付が変わった瞬間にメールを送る。


直ぐに「ありがとうございます」と返信が来た。


―― 15日は東京に行きます ―― と続いている。


15日は俺の誕生日。平日が休みの杏子が東京に来てくれることになったのだ。

女将さんが次の職場に挨拶もして来なさいと連休にしてくれた。


俺も午後から休んで杏子を圭介氏の店に連れて行くことになっている。


本当は今日、渡したかったプレゼントの包みをなでる。

指輪を贈りたいと言ったら姉から止められた。


「独占欲丸出しの物、最初に贈るなんて最低よ」


なんて怒るのだ。


「じゃあ何が良いんだよ」

「私は圭介が買ってくれたネックレスが嬉しかったわ」

「ネックレスか……」

「圭介が選んでくれたってことが大事なのよ」


そう言われる。

何となく納得。


だから渾身の勇気を振り絞ってジュエリーショップに足を運んだのだ。

でも、そういうお客は多いらしく丁寧にアドバイスをしてくれて、このプレゼントを手に入れたのだ。

気に入ってくれると良いなと思いつつ眠りについた。


杏子のことを考えていたために寝坊して、寝癖を呪いながらバイクに乗った。

学校に着いて、慌ててトイレに駆け込む。

ロッカーに置いてあるワックスを付けた。

ホッと息つく間もなく朝の職員会議の時間だった。


そんなことでバタバタと一日が始まった。

昼休みに携帯をチェックすると杏子からメールが来ている。


―― あんずの花が咲いています ――


写真が添付されている。

ピンクの花が一面に咲いているのだ。


―― 一緒に見たかったな。杏子の杏は「あんず」だもんな。花も誕生日を祝ってくれてるよ ――


そう返信しながら俺は杏子の名前の由来はきっとこの花に関係するのではないかと思う。

本人は知らないらしい。


そう思いながら杏子の送ってくれた写真を眺める。



夕方からの職員会議は4月の慌ただしさで長引いた。

やっと終わったかと思えば、学年主任から飲みに行かないと誘われる。


「すみません。ちょっと予定があるので」


と答えるとあっさり諦めてくれた。

ホッとして帰宅した俺は、部屋の掃除を始める。


「俺の家に泊まれば良いだろう」


東京に二日滞在できることになった時にそう言って誘った。

不純な動機ではないと言い切れるほど余裕はない。

杏子にもその気配が伝わったのか、かなり間をおいてから

「泊めてください」

と返答が来た。



だから明日の晩は二人でここに帰ってくるのだ。

狭いワンルーム。


もう少し何とかしないと行けないと思いつつ片付け下手なので進まず、もう明日だと言うのに雑然としたままだ。

母親の小言が甦る。


「ったく、どうしてこんなに物があるんだ!」


ちっとも片付かない部屋に腹が立つ。


テーブルの上に置いてあった携帯が鳴る。

杏子からのメロディ。


慌てて出ようとしてテーブルの角に足をぶつけた。


「いてっ……もしもし杏子?」


顔をしかめながら耳に携帯を当てる。


「先生、今、大丈夫ですか?」

「えっ?あ、いや、大丈夫。ちょっとテーブルに足をぶつけただけだから」

「大丈夫ですか?」


杏子は電話で話していても大丈夫かと訊ねてくれたのだ。

バカだ、俺。


「ごめん、大丈夫だよ」

「良かった。先生、今日、旅館の皆さんから誕生日ケーキをいただきました」

「良かったな。今日で二十歳だから、もう大人だ」

「はい」


クスクス笑う声が聞こえる。


「お酒飲んだのか?」

「はい、女将さんがワインをご馳走してくれました。でも、美味しいのかどうか良くわかりません」


ちょっとがっかりした声がおかしい。


「先生、今、笑ったでしょう!」

「笑ってないよ」

「笑ってました」

「拗ねるな。そのうち美味しく思えるようになるさ」


それから俺たちは翌日の待ち合わせを確認して電話を終えた。



明日のこと思い、片付けのスピードが上がる。

日付が変わる頃になって、ようやく見られる状態に近づいた。


喉が乾いていたのでビールの缶を開ける。

一口飲むと生き返る気がする。


その瞬間、携帯がなった。メールだ。

時計を見ると12時を指していた。


―― お誕生日おめでとうございます。出会えて良かった。――


絵文字の入った可愛いメールに身悶えする。

おめでとうとメールが来るのではと期待してたけど、思っていた以上に嬉しい。


―― ありがとう。杏子の夢を見られそうだ。おやすみ ――


寝るのが遅くなったら大変だと思い慌ててメールを送信してベットに寝転がった。

待ち受けにした杏子の写真を見つめる。


まだ杏子からは『先生』と呼ばれる。

俺的には先生と呼ばれるのは辛い。

二人の関係を早く対等なものにしたいから……


明日、名前で呼んでくれたら、それが一番の誕生日プレゼントだと思いつつ眠りについた。









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