Mission 1 下準備
ここからサブタイがしばらく「Mission~」となることをお知らせします。
第6部 Mission 1 下準備 です。
物事には段階があると思うんだ。
そしてそれの一番初めが「発案」、かな?
「よし、~をしよう!」とか、「~がしてみたいな。」から始まる。
そしてそれをする為になにが必要かを考え、集める。 それが準備。
大事だよな、準備。 準備もせずに何かをしようなんて、先走りすぎて見てられないよな。
気持ちだけあっても何もできないんだ。 ましてや、準備をしてないのに「行ってくる」なんて言って、少ししてからすごすごと帰ってくるなんて恥ずかしすぎる。
「な、力。」
「そろそろいいだろ……、それ以上心の傷を抉るな……。」
力がげんなりした様な顏でベッドに仰向けに倒れ込む。
今は力の家の力の部屋だ。今日は尾行の準備をする為にここに集まった。
昨日、つまりは力が盛大な遅刻をした日、力はなんの考えも無しに自分の家に向かったそうだ。
そして途中で気付く、「『ライフ』の社員と母はもう出かけているし、仮に出かけていなくても尾行してその後はどうするのか。」と。
尾行する理由は一つ。 『ライフ 株式会社』の正体を暴く。
どうやって?
これも、「……それも考えてなかった。」らしい。
ただ尾行することしか考えていなかったらしい。
まぁだから、つい先ほど俺がゆっくりと言ってやった皮肉に、力は今ベッドに倒れ込んですねているのだ。 あの力が。 あの力がこの短期間で2度もすねた。 子供みたいに。
そしてさらなる追撃。
「お前さ、最近キャラ崩壊してきてるよな。」
「るせぇ。」
短く返事をしたその声にもいつもの張りはなかった。
このままからかい続けるのもいいかとも思ったけど、今日はその為に集まったんじゃない。 まぁ、集まるって言うほどの人数じゃないんだけどね……。
「で、準備って何すんだよ?」
力が顔を少し傾けて聞いてきた。
何も考えずに集まろうなんて言ったんじゃない。
役に立ちそうな物に心当たりがあったのだ。
「これだ。 使えそうじゃないか?」
小さめのナップサックから取り出した物を力に見せる。
「へぇ、トランシーバーってやつか?」
「使えるだろ?」
「こんなものどこで手に入れたんだよ、まさか買ったのか?」
俺からそれを受け取った力は興味津々といった風で眺めている。
これは家にあった物だ。 昔、というか今もだけど、父さんの趣味が『サバイバルゲーム』なのだ。 だから父さんの部屋を探せばこういった物は山ほど出てきた。
明らかに「これエアガンの重さじゃないだろ……」と思う程重いエアガンもあったけど、それはあくまでエアガンだと自分に言い聞かせたりもしてたけど……。 「手触りも絶対金属っぽいし……」とか思ってもあくまでエアガンだと。
見なかった物以外を力に説明した後、「そういうことなら俺も使えそうなやつ、あるぞ。」と言って一階に降りて行った。
それにしても……、楽しい。
よく、本番より準備の方が面白い。なんて言うけど、それは本当に上手い事言ったもんだと思う。 今回の場合は本番イコール尾行なんだから、緊張感は当然持たないといけないけど、そうじゃなくてもやっぱり準備の方が楽しいんじゃないかな?
本番の、その時が訪れるのをドキドキしながら待つ。 そしてその時までにできるだけの準備と心構えをする。 そんなことをするのが楽しいんだな、と思う。
現に今、俺がそうなんだから。
窓の外に見える電柱の上部。 何気ないそんな日常の風景をぼーっとして見るのが好きだ。
今もそうしている内に力が帰ってきた。
ドアを開けて入って来た力の手には、箱が在った。
「なにそれ?」
「はっはっは、驚くなよ?」
自信ありげに箱を開ける。 中を見るとそこにはシューズが入っていた。
ただの靴? 特に変わった所は無い。 白ベースに黒いラインが何本か入ったような、ありきたりな物だ。
そんな俺の考えを悟ったのか力が説明を始めた。
「こいつはな、簡単に言えば音を立てずに歩くことができる靴だ。 まぁ、メーカーもそんな目的で作ったんじゃないだろうから、偶然音を立てない靴ができちまったんだろうけどさ。」
そこから長々とした説明を掻い摘んで言うと、地面と接する部分が特殊なゴムでできていてほぼ素足と同じように歩けるらしい。 その為コンクリートなどでは少し『ペタペタ』という音がするそうだけど、それも気にならない程度だとか。
素直に感心する反面、変な物を持っているな、と可笑しくなった。
でも、これで後は『ライフ』の社員が来るのを待つだけだ。
第一目標。 警察に捕まらない……。 なぜかため息が漏れた……。
ありがとうございました。
少し短いですけどこれで終わりにします。
次回は第7部です。