探偵ごっこ
少し時間空いちゃいましたが、5部です。
第5章 探偵ごっこです。 と、言いたいですが。バカ丸出しでしたね。章ではなく部に変えました。
改めて、第5部 探偵ごっこ です。
追加完了しました。 下からスクロールバー2個分くらい上からです。
『ライフ株式会社』という聞いたことのない保険会社が家に来てから、少し母さんの様子がおかしい。 具体的には?、と聞かれるとうまく答えられないけど、俺と話すときの母さんは少し、演技がかっているように見えた。
あの日、佐藤と名乗った会社の社員は俺が家を出る時間になっても母さんと話しをしていた。
その日の放課後のことだった、帰宅途中の道中 力が口を開いた。
「なぁ、『ライフ』っていう名前の企業知ってるか?」
「え? お前、どこでその名前聞いたんだよ?」
「知ってるのか、『ライフ』のこと。」
少し驚いたけど、よく考えればそこまでおかしい話じゃない。 力がとある保険会社の名前を知っていても不思議ではないから。
力の話しを聞くと、今日の朝突然家に来たということだった。 つまり、俺と同じだ。
それを言うとさすがに力も驚いていたけど、その話はそこで終わった。
まだ俺が調子を取り戻していないと思った力は、最近毎日俺に気を使ってくれた。
少しでも明るくしようとしているのだろう、俺に積極的に色々な話題を振ってきてくれる。
力自身も少し困惑しているのか、途中で話しを終わらせすぐに新しい話題に移行してしまうことが多かったけど。
今もそれのせいか、力は先日発売されたゲームの話を始めてしまった。
なんだか、逆に俺が力に気を使っている今の状況が少し楽しかった。
楽しくて、うれしかった。 空回りしてしまう程俺に気を使ってくれる友達がいるということが。
「でも、少し慌てすぎじゃないか?」
力に見えないように苦笑しながら、ぽつりと呟いた。
それから毎日、力はずっとこんな感じだった。 俺が何度「もう大丈夫だから。」と言っても変わらない。 心配してくれるのはありがたいんだけどな……。
俺は本当にもう大丈夫だ。 婆ちゃんとの別れの辛さはもう引きずっていない。
それを説明しようとしても、力はすぐに別の話題を切り出す。
何度も言うように、心配してくれてるのは嬉しい。
でも、
少しだけ、本当に少しだけ、
疲れる、と思ってしまった自分がいた。
朝、いつものように力と一緒に学校へ向かっている時のことだった。
力に元気が無いことに気が付いた。
最近のように口を開かない。 いつもならずっと声が聞こえてくるくらい喋っているのに、今日は元気がない。
朝はあまり口数の多くない俺は、それについて力に聞くことはなかった。
しばらくの無言の中、口を開いたのは力だった。
「なぁ、翔。」
俺の名前を呼ぶその声はいつもの張りのある声ではなかった。
「ん?」
「『ライフ』っていう保険会社のこと、この前話してたよな?」
「あぁ、俺の家にも来てたやつか。 それがどうかしたか?」
「最近、そこの社員がよく母さんとどっか行ってるみたいなんだよ……。」
最初に浮かんだ考えは、浮気。
でもその考えは次の力の言葉で消された。
「浮気、とかじゃないんだよ。 その社員、女の人だしな。」
「あ、あぁ。 そうなのか、一瞬まさかと思った。」
笑い混じりで話す俺に対して力はいつも以上に真剣だった。
「だから、俺だってあんまり詮索したくは無いんだ。 でも、ほぼ毎日だぞ? 聞いたことも無いような会社の社員と、女とはいえ毎日一緒にどこかに行ってるんだ。 そして帰ってくる度に元気が無くなっている。 しかも俺達に優しいんだ、いつも以上に!」
話している途中から興奮し始めた力を落ち着かせ、近くの公園に移動した。
ブランコの傍にあるベンチに二人で腰掛ける。
「で、お前はどうしたいんだよ? 自分の母さんが何してるのか知りたいのか? それとも詮索はしたくないのか?」
「あぁ、だからそれについては昨日の夜考えたんだ。」
「で? どうする?」
「その女を尾行してみる。」
「はぁ!?」
思わず大きな声が出てしまい、近くを歩いていた人に奇異の目を向けられてしまった。
立ちあがって軽く会釈をし、再びベンチに座る。
さっきよりも少し小声で力に問い詰めた。
「尾行って、お前探偵ごっこでもするつもりかよ? もしバレたらどうする? 下手したら警察に捕まったりするかもしれないんだぞ?」
「じゃあお前は気にならないのか? 『ライフ』のこと。」
気になる。
正直すっげぇ気になるんだ、『ライフ 株式会社』
最近色々あったせいであまり深く考えたことはなかったけど、よく考えればおかしいかもしれない。
普通、朝から保険会社が家を訪ねるか? いや、そういうこともあるのかもしれないけど、でもあんまり無いだろう。
ましてや家に上げる程本格的な話しなんかあるか?
婆ちゃんのことについてなら、俺が偶然聞いてしまった深夜のあの時だけで足りるんじゃないか? おそらくあの深夜の時の話しも『ライフ』の社員との話しだっただろうし……。
俺は保険会社についてなんか詳しく知らないけど、力の言葉を聞くとなんでも怪しく感じてしまった。
それに力の母さんと毎日出かけている……。
力には悪いけど、俺は少しワクワクしていた。
小さい頃は、火遊びや空き家探検みたいないわゆる、「あぶない遊び」をよくやっていた。 高校生に入ってからはもちろんそんなことは出来なかった訳で……
つまり、久しぶりの「危険感」に子供のように心躍っていた。 だから、
「わかった、俺も付き合う。」
当然こういう結論に至る。
「何言ってんだ、俺一人で行く。 今のお前は色々あって頭もよく働かないだろ、足手まといにしかならない。」
これも、俺を気遣っての言葉、だよな?
それでも、腹が立った。
「は? そんな言い方ないだろ。 それに俺は何度も「もう大丈夫」って──」
「いいんだよ、お前は来なくても大丈夫だ。 俺一人で出来る。」
そういうことじゃない、来なくていいとか、そうじゃなくて……!
たしかに面白半分っていう理由もあるけど、それだけじゃなくて!
「そうじゃない! 俺の話しを聞け──」
「だから、いいって言ってるだろ? お前の言ったように危ないんだ、警察沙汰になるかもしれないしな。 だからお前は──」
いい加減に……、
「俺の話しを聞いてくれよ!」
しろ。
もううんざりだ……、
何度言っても、何度言っても聞かない。 気遣いと自己中は違うんだよ……!
「な、何また大声出してんだよ?」
「もう大丈夫だって俺が何度言った!? お前が言ってることが危険だなんて知ってる、少なくともそれがわかるくらいには回復してる!」
力の顏は、本当になんで俺がこんなに怒っているのかわからない、というような顏だった。 その顏がすぐに申し訳なさそうな顏に変わる。
「悪い……、大きなお世話だったってことだよな、悪かった……。」
え?
「でもやっぱり俺の個人的な好奇心にお前は巻き込めない、何かわかったら連絡はするからよ、待っててくれ。」
そんなこと俺がいつ言った?
聞こえるはずも無い俺の心の声を無視するように、力は立ち上がると一人で学校とは逆の道へ向かった。
それを黙って見送ることしかできなかった自分は、まだ大丈夫じゃなかったのかもしれない。
世界史の先生の雑談が始まった。
雑談が始まった途端にほとんどの生徒が教科書をしまい始める。
俺は元々教科書を出していなかったから、さっきまで同様、肘を付き窓から校庭を見下ろす。
斜め前の席は空いている。
今頃例の女の人を尾行しているのだろうか。 見つかって無ければいいけど……。 まさか、通行人に怪しまれて警察を呼ばれてるとか……?
こんなことばかり考えていたせいで、この授業の内容はまったく頭に入ってこなかった。
校庭を見下ろしながら授業時間が過ぎるのを待っていると、教室の後ろの扉が音をたてて開いた。
「ちっす、すんません、遅れました。」
軽い挨拶と共に入ってきたのは力だった。
「どうしたんだよ、〝探偵ごっこ″するんじゃなかったのか?」
昼休憩、力の席の隣に行き軽い皮肉をぶつける。
「いや、その……な。 『ライフ』の社員が家に来る時間とか、わかんねぇし……。 だからその……。」
思わず笑ってしまった。 吹いた途端に力の眉間にしわが寄り「笑うなよ!」と突っ掛ってきたけど、それでも笑いが止まらなかった。
力は『ライフ』の社員が今日来ることを知っていて、それで今日尾行をしようとしていたのだと思っていたけど、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。
「お前、勢いだけで『尾行してみる』なんて言ったのか? いつ来るかも知らないで?」
「あ……あぁ……、そうだよ!悪いか!?」
「悪くないよ、ただ……、くっ……くく……っ」
「っ!!」
それからしばらくは俺が笑って力が声を張り上げる、という無限ループが完成していた。
「はぁ……はぁ、とにかく、まずは社員が来る日時を知らないとな。」
笑い疲れた俺が言葉を投げる。
「あぁ、そうだな。」
力は俺とは反対の方向を向きながら答える。 まだ少しいじけているのだろう。
「じゃあ、日時がわかったら知らせる。」
「え? 俺は連れて行かないんじゃなかったのか?」
「うるせぇ、やるんだろ、〝探偵ごっこ″。」
「ははっ、あぁ。」
面白くなりそうだ。
ありがとうございました。
次回はついに潜入です……(ドキドキ




