違和感
第1部 違和感 です。
目覚まし時計が甲高い音を鳴らす。
いつも通り、この時計は俺が起きる5分前に鳴る。
小さい頃からの習慣。
6時起床。7時朝ごはん。7時半、家族各々出勤、登校。
偶然なのか、小学校から高校まで、登校時間は同じだった。
そのせいもあってか、中学に入る頃には、目覚ましが無くても6時より少し前に起きることができるようになっていた。
制服のボタンにかけていた手を止め、目覚まし時計の頭を軽く叩く。
急に静まり返る部屋に、母親の声だけが響いてきた。
「翔ー、朝ごはん作るの手伝ってくれるー?」
「はいはい、今行きますよ、っと。」
ボタンを全て止め終わり、ベッドに置かれたブレザーを掴んで1階へ降りる。
「今日はなにすればいい?」
「じゃあ……、とりあえず目玉焼きとウィンナー焼いてくれる?」
「りょーかーい」
6時に起きてもご飯まで特にすることもなく、初めて朝食の手伝いをした小学校3年生以来、朝食のおかずを作るのは、俺の仕事になっていた。
しばらくして、良い焼き目のついたウィンナーと半熟に焼けた目玉焼きが、フライパンに出来上がった。
3人分の皿にそれぞれを平等に分け、それをダイニングテーブルまで運ぶ。
ここまでが、俺の仕事。
時計を見ると、長針は6時10分を指していた。
ご飯が炊けるのは、毎日決まって6時半。
しばらくの間暇になるこの時間、俺はこの時間を、丁度始まるニュースの占いを見て過ごす。
しかし今日は占いはやっていなかった。
画面の上部には、白い文字で控えめに、『緊急速報』と書かれている。
30代後半くらいの女のニュースキャスターが、横から伸びてきた手から紙を受け取り、その内容を伝え始める。
『昨夜、今年卒業の東京大学の学生が、両親を殺害する事件がありました。事件は、昨夜の10時頃に起きたとみられ、警察は近隣の住民に聞き込み調査をしている最中のようです。また、新しい情報が入り次第、お伝えします。 では、次は今日のわんこ特集で──』
一応最後までニュースを聞いてみたものの、結局占いは中止のようだった。
チャンネルを他に変えてみても、たいして興味を引くものは無かった。
ソファでくつろいでいると、炊飯器からリズムのいい曲が流れ始めた。
時計の長針は、20分を指している。
「母さーん、今日は早めに設定したんだ?」
「ええ、今日は行く所があってね。」
「こんな朝早くに?」
それ以上、母さんは何も言わなかった。
父さんが起きてきて、3人で朝食を食べた後、部屋に上がり登校の準備をする。
家を出てから、数百メートルくらい歩いた所で後ろから声をかけられる。
これも毎朝のこと。習慣。
「よお、翔。」
「おぉ、おはよう。」
軽い挨拶を済ませ、歩くスピードを緩めて声の主に並ぶようにする。
「なぁ、力。お前の母さん、今日は行くところがあるって言ってなかったか?」
「さぁなー、聞いてはないけど。なんでだ?」
「いや、俺んとこの母さんがそうだったから、力のとこもそうかなー、と思って。」
「ふぅん……。まぁ、いつも一緒ってわけじゃないだろ。」
「まぁ、ね。」
こいつは江津 力
小さい頃からの友達。こいつとは家族ぐるみの付き合い、というか親達の方が仲が良いくらいだ。
だから、久々に出かける俺の母さんは、力の母さんと一緒なのかと思ったんだけど……
もしかしたら父さんの方とか……。
と、考えてからそれは無いとすぐにその考えを捨てる。
「どうした、翔?」
「ううん、なんでもないよ。違うならいいんだ、別に大したことじゃなかったし。早く学校に行こう。遅刻だけは嫌だしな。」
話しを変え、実際に遅れそうだった学校への道を急いだ。
ありがとうございました。
第1部 違和感 でした。