第6話 知らない女子
週明けの朝、ベッドに突っ伏して枕に向かって叫んだ。
「だぁ〜〜〜! 『恋人ごっこ』『お兄ちゃん契約』『友達練習』ってなんだんだよ。んもー! ラブコメがありあまるわ!!」
ぼふんぼふんと俺は布団を叩いた。
わかってる。俺がしても全然かわいくないよな。
「つーか、彼女たちなんで俺の名前知ってたんだよー」
助けたときはイケメンの姿だったから、これまでの学校での俺と結びつかないはずだろ。
ギャルゲー『君のためのハーレム』の世界から帰ってきて初登校した日はメガネかけてたし、謎だ。
次会った時にでも聞いてみるか。
女の子たちと遊んだせいで休みの日が一瞬で過ぎてしまった。
はあ、今日も学校だ。
ベッドから這い出ていそいそと準備をする。
おっとメガネも忘れずにつけないとな。
これだけで認識阻害になるなんて便利だぜ。
通学路にあるコンビニに寄る。
自炊はギャルゲー世界で【料理】のパラメーターをカンストにしたからできる。
なら、すればいいじゃんと思うだろう。
しかし、できるとできないの間に、できるけど面倒という感情があるのだ。
おにぎりとお茶、プロテインを手に取る。
セルフレジで会計を済ます。
朝から店員さんとのやりとりすらしたくないからな。
セルフレジ便利すぎる。
『レジ袋いりますか』『いりません』『〇〇円です』『QR決済でお願いします』『ありがとうございました』『あっ、すー』
これだけでこっちは三回発言しないといけないんだぞ?
俺は元来モブなんだ。
ギャルゲー世界で経験を積みハイスペックになったとはいえ、人と関わらないで済むなら関わりたくないし、目立たないで済むなら目立ちたくない。
平凡かつ、その平凡が幸せだったねーなんて将来ベッドの上で振り返るくらいでいい。
「健、君がそんな積極的な人間だったなんて僕知らなかったよ」
「ん、どういうことだ?」
「七人の大罪のうちの三人に告白したんだってね」
「はっ?! なんだよそれ!」
登校して早々に、朝陽の発言により俺の平凡な生活は脅かされる危機を感じとった。
朝陽は「僕に相談くらいしても良かったじゃないか」と俺の顎をくいっとあげる。
朝っぱらから顔がいいなぁこいつは。爽やかな良い匂いもするし、さすが根っからのイケメンは違うぜ。
てかこういうのは男じゃなくて女にやってあげてくれ。
そして耳元で問う。
「隠しても無駄だよ。校舎裏や屋上、花壇前でみたって目撃証言があって話題は持ちきりだからね?」
「いや、それは……」
俺が呼び出して告白したんじゃなくて、彼女たちに俺が呼び出されたんだけどさぁ!
そんなこといっても誰も信じないよなぁ。
つーか俺、告白したことになってんの!?
あちらは七人の大罪といわれる美少女、かたやこっちはメガネをかけた陰鬱なモブ。
その二人が学校内で二人っきりでいればこちらが告白したと思われるのも無理もない。
「いいからいいから。だからあのとき三人について詳しく聞いてきたんだって合点がいったよ」
ふむ、と朝陽は形の良い顎に手をやって思案顔を浮かべる。
「おい、勝手に合点がいくな」
俺のつっこみも虚しく朝陽は続ける。
「しかし誰か一人に告白するなら日常茶飯事だけれど、一日のうちに三人まとめては欲張りすぎやしないかい?」
「そうなるよなぁ」
三人に告白なんて、誰か一人と付き合えたらラッキーみたいな考えの節操のないやつと思われるよな。
「自分のことなのにどうして他人事なんだい。全く、おかしなことをいう。それで、結果はどうだったんだい」
「うーん……」
なんか今後関わるようになった、とは言えねえよなぁ。
彼女たちの関係は好感度を下げていい感じに自然消滅を目論んでるから、他の人に言わずに済むならそれがいい。
「なるほど、その様子を見ればわかったよ。親友としては応援したいところだけど、ここでひとつ残念なお知らせだ」
にっこりと朝陽は微笑む。
その笑顔、俺じゃなくて周りの女子に見せてやれよ。
ほら、こっちをチラチラ見てるぞ。
「全然残念そうじゃないんだけど。なんだよ」
「【暴食】の泉さんだが、この間の休みに男と遊んでたらしい。それも陰のあるダウナーな、かなりのイケメンときたもんだ」
あ、それ俺だ。
「ポカンとしてるところ悪いがこれだけじゃない。【色欲】の壇ノ浦さんもオシャレして出かけてたらしいよ。きっと男との予定なんだろうな」
それも俺だ。
「【憤怒】の桐山さんはまだ情報はなにも掴めていないけど、なにか分かったら情報を伝えるよ」
「おう、たのむよ」
彼女たちとイケメンの姿の俺との情報は知っておくに越したことはない。
イケメンの姿っていうか、メガネを外した今の俺の素の姿なんだけどさ。
ギャルゲー世界から戻ってきて自分の見た目がイケメンのことにまだ慣れない。
こうして髪をボサボサにしてメガネをかけてる方が落ち着くわ。
メガネの度が強くて眼痛いけど。
朝陽ってほんと女の子の情報詳しいよな。イケメンだから色んな女の子と話す機会が多いとかあるのかな。
教室のドアががららと開いて、里香が入ってきた。
制服を着崩したりピンクヘアに黒のエンドカラーの派手髪だから分かりやすい。
ぼーっと視線をやっていると、ふいっと顔を逸らされてしまう。
「健、随分と嫌われてるみたいだね。三人に告白したやつなんて軽蔑されるのも無理ないか」
朝陽にぱんぱんと肩を叩かれる。
「ほんと身の程知らず」
「鏡見たら?」
こちらを見てひそひそと囁きあう女子たち。
やけにこっちを見てるなと思ったけど、イケメンの朝陽じゃなくて俺のことを見てたのか!?
「俺は健が良いやつってこと知ってるよ。噂なんていつか消えるからさ、気を強く持つんだね」
周囲から軽蔑の眼差しを向けられている。
くそ、目立つのも嫌なのにこれじゃ悪目立ちじゃねえか!
最悪だあああああ!!
◆
昼休み。
昼食を食べようにも一日で三人に告白したと思われて教室には居場所がない。
だから食堂に来たんだけど、それでも好奇の視線に晒されることには変わりなかった。
朝陽のやつ、部活で呼び出されてるからって俺を一人にするなんてよ。
それに俺と違って朝陽は人気者だ。
いつもべったり一緒にいるわけじゃないけど、今日はいて欲しかったぜ。
「おーい、こっちこっち」
席もないし食堂から出ていこ。
「どこいくの、こっちだよ」
呼び止められた気がして声がした方向をみる。
女の子とバッチリ目があう。
俺? と自分の顔を指さすと、うんうん、と頷く彼女。
二人がけのテーブルの空いている向かいの席をぽんぽんと叩く。
他に食べる場所もないし、俺は導かれるままに座った。
知らない女子だ。
呼んでくるから知り合いかと思ったけど違った。
てか、そもそもこの学校に女の子の知り合いいねえわ。
お世辞にも美少女とはいえない、平凡な女の子。
俺に何の用だろう。
「君、有名人だね」
「そうなの?」
「うん。七人の大罪のうちの三人に告白したヤバいやつって一躍、時の人だよ」
不名誉すぎる。
「どうしてそんなヤバいやつに声をかけたんだ?」
「君が食べる場所なくて困ってそうだったからだけど」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
彼女は、なにを聞いてるの、とでも言いたげなあっけらかんとした表情をみせるのだった。




