第5話 友達練習
夕方、自宅で俺はソファに座りスマホを触って時間を過ごしていた。
両親は島にいて一人暮らしだというのに、浴室からはシャワーの音が聞こえている。
「はあ、急に雨降るなんて聞いてへんわ。シャワーだけやのうて、服までありがとうなあ」
しばらくして、風呂上がりのほのかな香りを漂わせながらリビングに入ってきた彼女。
黒髪に緑のインナーカラーが入ったショートヘア、目尻が釣り上がった鋭い猫目がどこか挑発的な雰囲気がある。
彼女の胸元は、俺が貸したTシャツが破けんばかりに張っていた。
「今夜は寝かさへんよ?」
彼女はこちらを見定めながらゆっくりと舌舐めずりをする。
唇が艶かしく輝き、口元にあるほくろが妙に色気を放つ。
しゃなりしゃなりと近づいてきて、ついには俺の隣に腰掛けた。
そして耳元で彼女は官能的に囁く。
「じゃあ、ヤろっか」
「はいはい。ゲームを、な」
俺がやれやれと肩をすくめながらいうと、それまでの湿っぽい空気が霧散する。
全く、なんでややこしい言い方をするのかね。
これも俺が【ラブコメ体質】だからだろうか。
今のはちょっとエッチな展開と思わせておいて実は全く別のことをするあれだ。
変な声出してるけど、実はマッサージだったりくすぐったりしててエロ方面に勘違いさせるやつも同類だ。
「寝かさないとかいってるけど、俺普通に寝るし」
「やぁん、いけずやわぁ。一晩中付き合ってくれたかてええやん」
「一晩中って……、夜遅くなる前には帰れ。それに俺たちは『友達練習』中だからさ。そんな仲良くないやつを泊まらせる訳にはいかないだろ」
ほんまいけずやわあ、と体にしなをつくりながら俺をみているのは、七つの大罪のうちの一人『色欲』の壇ノ浦潤。
なぜ彼女が俺の家に上がり込んでいるかというと。
手紙をもらったあの日の放課後。
手紙には『花壇に来て』と呼び出されていた。
ギャルゲー世界から帰ってきた日、けばけばしい女の子と言い合いをしていた京美人が彼女だった。
彼女はその豊満な体系と妖艶な容姿のため、日頃から男子からやらしい視線を浴びていた。
体目的の男子も少なくなく、彼女がいながらも狙われたり、男子の中で下世話な話題になることが多かった。
それで知らないうちに男女のもつれを引き起こしてしまうことも少なくないんだとか。
そんなことから、友達だと思っていた男は最初から体目当てで友達にはなれないし、女からも警戒されて友達ができなかった。
介入して助けた俺が、見返りとして迫ってこないことから、友達になれるんじゃないかと思ったようだった。
そこで、俺は『友達練習』の申し出があったわけ。
ここまでくると断ろうとする気も起きず、了承したのだった。
おかげでアラームが鳴ることはなかった。
そして今日、彼女は俺とゲームするために家に来たのだった。
つーか、俺が一人暮らしだからって良いように使うなよな。年上とはいえさ。
「こーんなにエロい体の女が横に座って誘うような言葉言うたのに、これっぽちもどきどきせんなんて……。ほんま、うちが見込んだ男なだけあるわぁ」
壇ノ浦は嬉しそうに顔をあげた。
こいつ俺を試すためにわざとしていたのか?
てか、ヤるとか寝かせないとかそんなんで反応するなんて男子中学生じゃあるまいし。
ギャルゲー世界に行く前の俺ならドキマギしてたんだろうけど、いまは女に対する免疫はバッチリだからなあ。
「というかあんたその格好なんやの?」
「ただの部屋着スタイルだけど」
言われて俺は自身の格好をみる。短パンにタンクトップにパーカー。
ギャルゲー帰りで体が成長した俺は服がきつくなったから服を買いなおしたした。
締め付けが嫌になったのでオーバーサイズだ。なにも変ではない。
ギャルゲー世界では【ファッション】のパラメーターがあってセンスも身についているからそこは間違いない。
「胸筋ちらちらさせていやらしい……」
「は? なにってんだよ」
男の胸筋なんて誰も興味ないだろ。
「いいからゲームしようぜ。ほらよ」
俺は壇ノ浦に向かってコントローラーを投げる。
「っとと。こんな乱暴なことせんと手渡してくれたらええのに」
「全然乱暴じゃねえよ。別にこれくらい男友達には普通にするから」
「へー、こんなもんなんや。えらい新鮮やわ」
こいつ、よっぽど女扱いされてきたんだな。
異性として、恋愛感情や性欲をむけられる対象でしかなかったのかもしれない。
だからこうして男友達と同じように扱えばラブコメ展開にはならないだろう。
ぶっちゃけ俺の友達って朝陽しかいないけど、友達ってこんなもんだよな?
「んじゃ、やりますか」
俺はこの間発売した最新型のゲーム機を起動する。
そして液晶にうつるプレイ画面を見ながら壇ノ浦に尋ねる。
「壇ノ浦が持ってきたけどさ、ほんとにこのゲームでいいのか? 『浦島太郎電鉄』って」
『浦島太郎電鉄』は日本列島を盤面とした双六ゲーム。
最終的に一番お金を持っていた人が優勝者だ。
「ええんよ。うちはこれを誰かとしたことないんやから」
「ふーん、一人でならしたことがあるような口ぶりだな」
「CPU達と100年した話、聞く?」
虚ろな目でこちらをみる壇ノ浦。
普段彼女がまとう色気とかそういった空気はなく、悲壮感が漂っていた。
「長くなりそうだからまた今度な。……お、そうだ。テーブルに置いてるやつ食べていいぞ」
いたたまれなくなった俺は話を変えた。
FPSやアクションゲームならお菓子は邪魔だけど、双六ゲームはゆったり鑑賞しながらする都合上、口寂しくなるからな。
テーブルには500mlのペットボトル2本と、チョコやスナックが並んでいた。
「用意ええやーん。ありがと」
壇ノ浦が俺の腕を掴んでぎゅっと体を寄せてくる。
暴力的な胸が押しつけられる。
さすが【色欲】と呼ばれるだけあってご立派なものをお持ちで。
「おい、ベタベタするな。そういうところだぞ」
無遠慮な壇ノ浦に、頭を押して注意をする。
距離が近いせいで勘違いさせてるんだろうな。
「んふふ、意識してもうてるん?」
「別に、ただ痛いなってだけ」
「うそやん。うちそんな強く抱きしめてへんよ?」
「違う違う。距離感間違った女のスキンシップがイタイってこと」
これくらいなら頭のアラームは出ないらしい。
軽口の一つだと思われているからだろうか。
「なんやのそれ!」
「だから友達いないんだろーなって。ほら、さっさと始めるぞ」
軽口を叩きつつゲームを進める。
壇ノ浦はぶーぶーいってるけど本気で怒ってる様子もないし、ラインを見極めながら話すのは気を使うぜ。
年数やCPUの設定を終えてスタート。
「はーい、うちのゴール。お金はもろうていくで」
1回目のゴールにたどり着いたのは壇ノ浦だった。
にやにやと自信満々な笑みを向けてくる。
「伊達に一人で100年やってた訳じゃないな」
「ぐ、それはうちに効く……。あ、次のゴールもうちから近いみたいやなあ。そんな意地悪いうからやでえ」
それからゲームを続け、喉が渇いた俺はペットボトルに手を伸ばす。
プレイ開始から時間が経っていた事もあり、飲み物はもう空になっていた。
「あー、高橋、うちの飲むぅ?」
壇ノ浦が微笑みながら自分の飲みかけのペットボトルを差し出してきた。
「ありがとさん」
「へ?」
俺はすぐさま受け取るとキャップを外して、飲み口から自分の口を少し離して流し込む。
「間接キス気にしてんの?」
「違う。他人が口つけたところはなんか嫌だろ」
間接キスとかしょうもねえ。
「うちが口つけたところはご褒美やろ!」
「そう思わんやつもいる。それに男友達となら飲み物飲むときはこうするぜ?」
男同士だと口付いたところは飲むのは躊躇うだろ。
まあ、朝陽はその飲み方が下品だと思ってるのか普通に口付けていたけど。
小さい頃もそうだったし、俺だから気を許してるんだろうな。
「へー、そうなんや、うちもやってみる! ……ぶはぁっ!!」
俺からペットボトルをひったくった壇ノ浦が顔にジュースをぶちまける。
顔だけでなく服にまでかかっていた。
元から張っていたカットソーがぴったりと身体に張り付く。
下着のレースがくっきりと浮かび上がる。
おいおい、インナー着ろよ!
そっか、インナーも雨で濡れて、いま乾かしてんだっけか。
「ったく、これだから初心者は」
あの飲み方は角度や出す量の調整など結構難しい。
小学生のとき初めてやったら俺もこうなったなぁ。
「あーん、ベタベタやわ。服濡らしてごめんなぁ。でもこれはこれでエロいとか思ったり?」
壇ノ浦が上目遣いでこちらを見てくる。
「馬鹿言え、風邪引く前に着替えろよ。タオルと服持ってきてやるから」
「堅物やなぁ」
「壇ノ浦の身体に興味がないだけだ」
仕切り直したあと一時間でほどでゲームを終えて、壇ノ浦を玄関で見送る。
「あそこでボンビーが出るとは残念だったな」
玄関先で俺は壇ノ浦を見下したようにしてにんまりと笑う。
しかし壇ノ浦はどこか楽しそうだった。
「それは残念やけど、勝敗は別としてゲーム楽しかったわぁ。ほな、またね」
「おう、じゃあな。明日から学校だけど、学校では分かってるよな」
「うん。学校では話しかけへん、やろ?」
それでいい。
壇ノ浦潤と仲良く話してるところなんてみられたら俺の平凡な高校生活も終わりだからな。
壇ノ浦が帰り、一人になった部屋でソファにへたり込む。
あー、疲れたー。
チートボディでも一日に女の子三人相手にするのは疲れるわ。
こうして慌ただしい休日が終わった。
お読みいただきありがとうございます!
面白そうと思っていただけましたらブックマークと⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎での評価をいただけるととっても嬉しいです!
よろしくお願いします!!




