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第3話 恋人ごっこ



 噴水広場。

 俺は待ち合わせの時間より二十分早く着いていた。


「ねえお兄さん。かっこいいね」


「私たちとカラオケとか行かない?」


「ごめん。待ち合わせしてるから他を当たってよ」


 割と可愛い二人組に声をかけられる。

 だけどギャルゲー世界ではこの二人ではサブヒロインにもなれないだろう。

 現実のレベルってこんなもんだ。


 それに俺が待ち合わせしていたのはこの二人じゃない。


「ええー、いいじゃん」


「お兄さん結構前から待ってるけど誰も来てないよね? ねえちょっとだけ」


 しつこいな、どっか行けよ、と口に出そうとするとビービーと頭の中でアラームが鳴る。

 

 首輪のせいで女の子相手に俺は強い言葉を使って否定することができないみたいだ。

 チッ、と心の中で舌打ちすると背後から声がかかった。


「お待たせ、待った?」


 振り返るとそこにはピンク色のロングヘアに毛先には黒のエンドカラーの入った派手な髪色の女の子。

 髪に合うようにファッションも派手で、ジャラジャラとしたピアス、ぴっちりとしたヘソだしのトップスにネックレスを重ね付けしてワイドなデニム。

 Y2Kファッションがばっちり似合うくらいに顔が整っていた。

 つまりはまごうことなき美少女ってこと。


「全然。俺も今来たとこ」


「良かったー。家出る寸前にスズがじゃれついてきちゃって、もー、かまわないと行かせないぞーってかわいくて。スズって飼ってるワンちゃんね。わしゃわしゃってしてあげてたんだけど、気づいたらヤバっ、もう行かなきゃじゃん! ってギリギリになっちゃってさあ。急いできたってワケ。間に合って良かったー。あ、そだ、髪変じゃない?」


「綺麗に巻かれてるよ」

 

「ありがとー。てかさ、健くんこの人たち知り合い?」


 泉さんが俺をナンパしてきた女子二人に睨みをきかせると、女子二人は顔を青ざめていた。

 

「いやや、違う。誰だろね」


「そっか。じゃあ無視していいね。行こー」

 

 彼女は俺の手を握って歩き出す。

 

 その光景に女子二人が「彼に釣り合うならあれくらい可愛くないとダメか」と意気消沈しているのが聞こえた。


「泉さん、なあ、なあってば」


 ずんずんと前を行く泉さんに俺は尋ねる。


「な、なに?」

 

「耳まで赤くするなら手を繋がない方がいいじゃない?」

 

「これは、『恋人ごっこ』に必要なことだから!」


「そうかなぁ……?」


 疑問符を浮かべる俺の隣を、顔を赤くして歩く彼女は七人の大罪のうちの一人【暴食】の(いずみ)里香(りか)


 なぜこんなことになっているかというと。


 手紙をもらったあの日の放課後。

 手紙には『校舎裏に来て』と呼び出されていた。


 そこで彼女から『恋人ごっこ』をして欲しいと申し出があった。


 断ろうと思ったんだけど、そうしたら頭のアラームがビー、ビーとけたたましく鳴り響くので渋々了承したのだった。


 試しに断る? そんなこと恐れ多くてできない。

 ここは現実の世界でゲーム世界じゃないんだ。

 いっぺん死んでみるか、と死んでそのままだったらどうするよ?

 

「それにしても泉さんが高校デビューだなんてね」


「ちょっと大きい声で言わないでよ」


 誰が見てるか分からないじゃない、とふるふると周囲を見渡す泉さん。

 強気なファッションとは違って、怯える姿はギャップがあって可愛らしい。

 


 そう、こう見えて泉さんは高校デビューだった。

 高校生活に憧れた泉さんは入学前の春休みのタイミングで垢抜けを頑張ったそうだ。

 見た目だけでなく振る舞いもギャルを意識して頑張っているらしい。


 泉さんは数々の男をとっかえひっかえして貪り食べ漁るという噂とは裏腹に、男性経験がゼロだった。


 女子同士の話で『めっちゃモテてきたんでしょ?』と言われ『あ、当たり前じゃん!!』と見栄を張ってしまったようだ。


 それで引くに引けず七人の大罪のうちの一人に選ばれるなんて、期待の大型新人のような鮮烈なデビューだな。




 経験がないことを友達や本当に恋人ができた時にバレたら恥ずかしいから、俺でデートや恋人っぽいことをして勉強したいそうだ。



 ーーーーだから『恋人ごっこ』。

 


 俺が本当はイケメンなのに普段はモブの振りをして生活していると勘違いしたあげくに、恋愛経験豊富だと見込まれて指名されたというわけ。

 

 『君のためのハーレム』の世界で散々デートしてきたから問題はないけど、人と関わるのって疲れるんだよな。

 できるとできないの間に、できるけどしたくないって感情ってあるじゃん?


 爆発して死にたくないから『恋人ごっこ』には付き合うけどさ。

 

「高橋ってさ。本当はかっこいいんだね」


「どういうこと?」


「待ち合わせにきたらナンパされてるし。学校ではあんなんだったから……幻かと思って」



 あー、学校ではメガネかけてたな。

 長い髪もできるだけボサボサにしてたし。

 本当はイケメンっていわれてもギャルゲー帰りでこうなっただけで、本当の意味では地味メンなんだけどな。

 


「今日は『恋人ごっこ』ってことだしきっちり整えてくるよ。どうかな?」



 今日は長い髪をハーフアップにセットして、派手な泉さんの隣にいてもいいようなカジュアルな雰囲気のファッションに身を包んでいた。

 

「イケイケのアイドルみたいで今っぽくていい感じ」 


 合格点、みたいだな。

 向こうの世界ではヒロインの系統に合わせたファッションも超重要だったから服装にもぬかりはない。

 ここらへん間違えるとファーストコンタクトで見るからにテンション下がるからなぁ。



「ありがとう。泉さんも今日の服似合っててとってもかわいいよ」


 ラブコメならおどおどしながらかわいいと告げるとこなのだろうけど、俺はラブコメを壊していくぜ。

 

「か、かわいい!? と、とーぜんでしょ! いちおー頑張ってるんだし」

 

「うん、努力してるのが伝わるよ。俺のために準備してくれてありがとう」


「別に高橋のためじゃないっつーの」


「そう? 放課後見たときとメイクがちょっと違うなって思ったんだけど」 


「細かいとこみるなー! そりゃあ、仮にもデート? だから? 整えただけだし?」


 ぷんすかと泉さんが怒っている。

 よし、順調に好感度が下がっているな。


 ふっ、計画通り。

  

 俺は平凡な恋愛がしたいんだ。

 『恋人ごっこ』というラブコメイベントからの恋愛は勘弁願いたい。


 当面の方針は、自分のラブコメ体質からくるラブコメ展開を避ける。

 そして首輪が爆発しない程度の発言をして彼女の好感度を下げて行こうと思う。

 

 はは、細かいメイクを見てるなんてウザいだろ!

 そして、このまま攻めるぜ。

 

「そういえば泉さん、健くんって呼んでくれないんだ?」


「え! だって知り合ってまだ一日くらいだし……」

 

「『恋人ごっこ』だったらお互い名前で呼び合うのも必要なんじゃないかな? ほら、待ち合わせであったときは呼んでくれたじゃん」

 

「それはナンパを追い払うために仕方なく……。ま、まあ? 高橋が私のこと泉さんじゃなくて里香って呼んでくれたら考えないこともないわよ」 

 

「里香」


「へにゃ?!」


 泉さんの顔がぼふん、と顔が一気に赤くなる。


 本当に耐性ないんだなあ。

 俺は女の子を下の名前で呼ぶのなんてギャルゲー世界で履修済みだぜ。


「声良すぎぃ……」


 なにやらいってるが、いくら『恋人ごっこ』とはいえ急に名前を呼ばれたら嫌なはず。



「里香」


「な、なによ……た、健、くん……」


 里香は嫌がるという俺の予想とは裏腹に里香は俯きながら、小さな声でもにょもにょと名前を呼んだ。

 

 しまった。俺は今はイケメンなんだ。

 それに顔も人気若手声優のようなイケボ。

 

 そりゃ赤面してしまうのも無理はない。

 これではただ喜ばせるだけになってしまう。

 ここはもう少しうざく絡むぞ。


「なに? 聞こえない」


「絶対聞こえてたでしょ! あぁ〜、もう。健くん、健くん、健くん! これで満足?!」


 彼女は恥ずかしさを紛らわすように勢いに任せて俺の名前を何度も呼ぶ。


「ぷはっ、里香、俺の名前呼びすぎな」


「〜〜っ! 健くんが呼べって言ったんじゃない」


「そうだけどさ。ははは」


「もう、笑わないでよ。男の人の名前呼ぶの初めてなんだから」


「ごめんごめん。でも、よくできました」


 俺は里香の耳元でとどめのセリフをいう。

 

 ひいい、寒い! 寒すぎる!

 よくできましたなんて、少女漫画の読みすぎだろ!


『恋人ごっこ』に選んだ相手を間違えたと思うくらいにはさぞ、引いたはず……。

 

 俺の激キショ発言を聞いた里香は、片方の手で髪をくるくると弄びながらまんざらでもない表情を浮かべていた。

 え、引いてない感じ?! うっそだろ?!

 作戦失敗だ。


 しばらく黙っている里香だったが、歩いていて心を落ち着かせたのか戸惑いながら口を開いた。

 

「ねえ、たかは……、健くんって結構遊び慣れてる感じ?」

 

「んー、どうだろう」


 ギャルゲー世界では色んなヒロインと結ばれたけどそれを遊び慣れるとカウントするかどうかは微妙なので、俺は微笑んで誤魔化す。

 

「内緒ってことで」


「……っもう!」


 はぐらかされたからか、里香はまた顔を赤くして怒っていた。うんうん、その調子で怒ってくれよ。

 

「着いたよ」


 恋人ごっこは俺が予定を組むことになっている。

 経験のない彼女はどうやら俺にリードして欲しいようだ。


 そして到着したのは今っぽい外観のオシャレなカフェ。

 

「わ! ここSNSで話題になってるからめっちゃ来たかったの。みんなカップルで来てるから無理かなって思ってたんだけど……って、あれ?」


 店前には賑わいはなく、扉には無機質に『close』と書かれた札が下がっていた。

 うーん、と里香が残念そうに落ち込んでいる。


 臨時休業か。

 ちゃんと休みの日は確認してたのに……、これは【ラブコメ体質】が働いてるな。


 ラブコメなら、ここから候補の目的地がことごとく閉まっていて思ったデートができなかったけど、二人で別のことをしてより楽しい思い出ができましたーみたいな展開だろう。


 しかし、そんな展開にはさせない。


「よし、今日はあそこに行こう」


 俺が指差したのは大手ハンバーガーショップ。


「え、あそこ……?」


「うん、そうだ」


 俺は鷹揚に頷く。

 オシャレな喫茶店からのテキトーに選んだファーストフード店、これは好感度下がったか?


「あー、良かった。実はオシャレなところ憧れてたけど、私って結構緊張しいだから楽しめるか不安だったの。だからハンバーガーショップだと安心する。私のこと思って選んでくれてありがとね?」


 にへら、と顔を綻ばせる里香。

 

 そんなわけないだろ、と突っ込もうとするとビー、ビーと頭にアラームが鳴る。


 ここでかよ! 基準が分からん。


「う、うん。そうだね……」


 そんなつもり全然なかったんだけど!

 なに? イケメンだとなんでも肯定的に捉えられちゃうの?


「オシャレな喫茶店はまた今度行こ」


 そして、俺たちはハンバーガーショップへと入って行った。


「馴染みの場所に友達とじゃなくて、男の子といるのって変な感じ。ちょっと嬉しいかも、へへ」


 注文したセットを食べながら話していると、里香のスマホがポンと鳴る。


「やば、『ToTrue』だ」


『ToTrue』とはランダムなタイミングで届く通知から2分以内に、内カメラと外カメラで同時に撮影した写真を投稿するSNS。

 加工なしのトルゥーな写真を撮って交流するのが良いという、陽キャ御用達アプリだ。


 ここで俺が写ったらどうなるんだろう。

 結構邪魔できるんじゃないか?

 

「『恋人ごっこ』だし、一緒に撮ろうよ」


 俺はぐいっと里香の肩を寄せてピースサインをとる。

 困惑する里香だが、無情にもシャッターが切られる。


 これでどうだ?

 

「……ありがと。これで友達たちに疑いの目が晴れる」 


 里香はスマホをぎゅっと大事そうに抱えていた。

 

 どうなってんだよおお!

 全然好感度下がんねえ!


 セットを食べ終えて俺は店を出ていう。

 

「じゃあ里香、今日はここまでだね」

 

「え、もうちょっと居たいんだけど。ダメ?」


 里香は小首を傾げて俺を見つめる。

 タイトな服が胸を強調する。


 気弱なモブならイチコロだろうけど、俺はその手には屈しない!

 ギャルゲー世界で過ごしたおかげで耐性がついているからな!


「今日は昼までの予定って伝えてたよな? だから延長はできない。それに恋人練習はまたできるからさ」


 恋人練習には付き合うけど短めに切り上げる。

 ふ、これが約束を守りながらも好感度を下げる作戦だ!


 これくらいの言動なら頭のアラームも鳴っていないし大丈夫だろう。

 ポケットに入れていたスマホが震え、手にとって確認する。


『約束の時間、忘れないで』


「ごめん、俺行かないとだからさ」


「あっ……」

 

 物寂しそうな里香を残して、俺は次の目的地へと向かった。



予定より遅れてすみません!

お読みいただきありがとうございます!


面白そうと思っていただけましたらブックマークと⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎での評価をいただけるととっても嬉しいです!

よろしくお願いします!!


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