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第2話 大罪の美少女


「あなた本当に(たける)なのねえ」


「だからそうなんだって。何度言えば分かるんだよ」


 母さんは頬に手をあてて、未だに納得できない顔を浮かべている。



 あれから自分が高橋健である証明に苦労したよ。

 最初は所持品を出したけど盗んだ可能性もあると言われ、これまでの家族との思い出を話して徐々に納得してもらい、最後には成長期ということで無理やりこじつけた。


「男子三日会わざれば刮目してみよっていうけど、高校生って一日の間に変わることもあるのねえ」


「そうそう、あるんだよ」


 いや、ねえよ。


 母さんは「これが私の息子ねえ。ふふ、かっこ良すぎるから自慢しちゃおうかしら」とかなんとかいってるけど信用してもらえたのならそれでいいか。

 

 そして俺は久々に自分の部屋に戻った。


「これが俺……」

 

 改めて鏡で確認すると、顔はどこか陰を感じさせるイケメンになっていた。いわゆる沼らせそうそうな感じ。


 声までイケメンになっている。

 まるで売り出し中の男性声優のようだった。


 身長も前は160前半くらいだったのに、今では170cm半ばくらいまで伸びている。

 おかげで袖や裾が寸足らずだ。

 やけに風を感じると思ったらそういうことかよ。


 窮屈な制服を脱ぐ。

 くっきり浮き出たシックスパックに、頼り甲斐のある胸筋。

 ミケランジェロの彫刻のような肉体美が現れた。


「やっぱり」


 足が速かったのはテンションが上がってたからじゃない。

 運動能力が上がっていたからだ。


 それに、この体には見覚えがある。

 前の世界『君のためのハーレム』での(あまね)(とおる)だったとき、【運動】のパラメーターがカンストしたらこんな肉体になった。

 

「ステータスオープン」


 なんの反応もない。

 くそ、恥ずかしい。

 イケボなのが余計に悲壮感漂うぜ。


 ギャルゲー世界ではステータス画面でパラメーターを確認できたから、【魅力】や【肉体】以外のも確認したかったんだけどな。


 しかし、これはきっと前の世界のパラメーターが現実世界で反映されているんじゃないかと思う。


 顔は、元の俺、高橋健の顔の系統を超絶イケメンにしたようになっていたし。

 


 (あまね)(とおる)のキャラのまま、こっちの世界にきたわけじゃなさそうだ。


 

「待て待て待て待て!!」

 


 俺はいつのまにか身につけていた黒い首輪に手を触れる。

 なんだ、こんなの転生前はつけてなかったぞ。

 

 しかし、これにも見覚えがある。

 ギャルゲー世界でつけていた首輪と同じだ。

 この手触り、重量は間違いないだろう。



 冷や汗が背中をたらりと流れる。



 この首輪はヒロインの攻略を補佐する為の道具だった。

 ヒロインへの言葉や行動が明らかに間違っていると、頭に警報を鳴らして教えてくれる代物だ。


 ただのモブの俺が転生したところで女の子と接するのは困難だったから、非常に役に立った。


 しかし、ただのお助けアイテムじゃない。

 一度、この警報を無視して行動したらどうなるだろうと思って試したことがある。


 するとどうなったと思う?



 首輪が爆発して死亡だ。

 そして入学式からリスタートすることになった。


 嘘じゃない、本当に爆発するんだ。

 たまに即死じゃないときもあって、意識があるせいで首から上がない自分の姿を何度か見ていたから本当だ。

 

 発動条件は他にもあって、ヒロイン攻略がミスったら爆発して死亡する。

 これもまた同じく入学式からリスタート。



 そうして、何度も死に戻ってどうにか元の世界に戻って来られたんだ。

 これが俺が『君のためのハーレム』というギャルゲー世界が地獄だったという理由だ。

 

「ちくしょう! なんでこんなもんまで持って帰ってきてんだよ!!」


 最悪だ。

 これがなかったから、ただのハイスペックイケメンになれたのに!

 

 恋愛するために死と隣り合わせなんて、もうごめんだぞ……。

 いやいや、この首輪がそうと決まったわけじゃない。

 

 ……てか、思い返してみれば今日やけにイベント多くなかったか?!

 俺は部屋で頭を抱えた。

 

 帰り道を変えるくらいしか日常を変えることしかできなかった俺の前に、ナンパ現場や迷子の幼女、女子同士の言い争い。


 一日の内に色んなことがあった。

 まじでイベントの大渋滞だ。

 

 しかもそれを俺は、あっちの世界の名残でうっかり色々解決してしまったし……。

 ギャルゲー世界に転生し初めの頃は一世一代の勇気を振り絞っていたというのに、慣れというのは恐ろしい。



 まあ、助けてしまったのは仕方ない。

 それに関しては後悔していない。



 今後、下手にルートに入らないためにもこれからは大人しく過ごそう。

 うん、そうだ。地味なモブとして生きよう。


 ここは現実世界だから、ルートなるものがあるのかわからないけど。

 


 

 ◆




「母さんが写真送ってきたときはAI生成と思ったけど本当なんだな」


「父さん、信じてくれてありがとう」


 夜、仕事から帰ってきた父さんと食卓を囲んでいた。

 母さんいつの間に写真送ってたんだよ。

 まあ、そのおかげで話はスムーズだったけどさ。 



 てか、他の人に写真送ってないよな……?



 一抹の不安が頭を過ぎる。


 

「最初は本当に驚いたけどな。そうだ、父さんもみんなを驚かしてやろう」


 父さんは渋いイケオジでもなく腹が出てる汚いおっさんわけでもない、ただのメガネをかけた細いおじさん。細おじだ。

 日常をかき乱すような破天荒なことはしないし、割と物静かな方なんだけど、なんか今日は上機嫌だ。

  

「みんな……、良い話と悪い話がある」


「良い話? もったいぶらないで聞かせてちょうだい」


 母さんが突っ込むことなく話を急かす。

 したり顔だった父さんがうなだれていた。

 咳払いをして気を取り直す。

 

「父さんな、ついに課長になったぞ!」


「まあ、おめでたいじゃない!」


 まじか、昇進なんてあるんだ。


「悪い話はな、父さんは転勤することになったんだ。それも場所は島だ」


「島暮らしいいじゃないの。憧れてたわ」


 そうだろう、と父さんが頷く。

 でも、島暮らしの何が悪い話なんだ?

  

「そこはな周辺に高校がないんだ」


 ん、雲行き怪しくなってきたぞ。


「母さんは連れて行くが、健お前はここに残ることになった」


「は?! 俺、一人暮らしってこと!?」

 

 それから通信制とかも提案したけど、親の都合に子どもを巻き込む訳にはいかないと却下された。

 そして、今通う高校に合格したことを当時えらく喜んでいた両親は、どうやらこの高校を卒業して欲しいようだ。

 地元での評判も高いしな。面子があるらしい。


 急ピッチで準備が進み、俺は週明けからこの家で一人暮らしをすることが決まった。


 ベッドで大の字になって叫ぶ。

 

「まじでなんでなんだよ!」


 なにかが変だ。


 とんとん拍子にラブコメだったら都合の良い展開になっている。

 普通に過ごしたい俺にとっては都合が悪いことだが……。

 

 これはなにかの強制力が働いているとしか思えない。







 週明けの朝。

 両親のいなくなった静かな家で、登校の準備をしていた。

 洗面台には惚れ惚れするようなイケメンが映っている。

 

 どうしたものか。

 首を傾げるもその姿でさえ絵になるから困る。


 この見た目で高校に行ったら大騒ぎになるだろう。

 これは自惚(うぬぼれ)じゃなくて事実だ。


 ギャルゲー世界『君のためのハーレム』では散々ハーレムしたから、こっちではなるべく普通に過ごしたいんだけどさあ。

 


 首輪の件もあるし、余計な恋愛要素は増やしたくない。

 それに助けるときに何人かに顔を見られたから、今後は隠したいところだ。



 ひとまず、週末の一人時間は最高だった。



 休みの間に電話がかかってくることもないし、デートを一日の間に何人とするわけでもない。


 ハーレムってまじ大変だから!

 時間とヘイト管理の鬼だから!


 そして、一人で過ごしている中で俺は気づいた。

 もしかして、パラメーターだけじゃなくてラブコメを引き寄せるようになっている?



 だって、一日にあんなにイベントが起きるのもおかしいし、急遽一人暮らしになるなんてもっとおかしい。


 

 俺はそれを【ラブコメ体質】と名づけた。

 俺の変化を、母さんがやけにすんなり受け入れたのもきっとそれだ。


 

 俺はラブコメじゃなくて平凡な恋愛がしたいんだ!



 分かりやすい大きなイベントが立て続けに起こるようなやつじゃなくて、たまに目があうだけでドキドキして、ちょっとしたボタンの掛け違いで上手くいかなくてやきもきする、そんな純情なやつが。



「しかし、髪は長いけどこれだけでは顔を隠しようがないな」


 モブゆえに顔を出したくない俺は髪を長くしていた。

 しかしそれだけではこのイケメンは隠れてはくれない。むしろ陰があってカッコよくなってしまっている。

 

 しばらく考えた後、これでいいか、と俺は父さんがいらないと置いていった眼鏡をかける。

 

 おぉ、度が強いからめっちゃ目が小さくなった。

 少し頭痛がするけど変装にはもってこいだな。

 普段はメガネをかける方向でいこう。

 

「おはよう」

 

 教室に入って、声をわざと変にして挨拶をかわす。

 変な声にしてるのは声だけで惚れる人が出てもおかしくないくらいかっこいいからだ。


「おはよう健、どうしたんだい、そんなメガネかけてさ」

 

「目が急に悪くなってさ」


「はは、夜にエロい動画でも見過ぎたとか?」


「ばか、そんなんじゃねえよ」


 朝っぱらからバカ話をしているのは俺の友達の三井(ミツイ)朝陽(アサヒ)

 王子様系のイケメンで、ギャルゲー帰りの影響で身長が伸びた俺よりも高身長だ。

 幼少期に遊んでいて小学校に入るタイミングで朝陽が転校した事をきっかけに離れ離れに。

 そして高校に入って再会した。


 昔馴染みでもないと地味メンの俺が、こんな目立つ人物と話せる訳ないからな。


「なんだか体がでかくなってないかい?」


 新しい制服は間に合わなかったのでパツパツなのは変わらない。


「昨日食べ過ぎた」

 

「嘘はよくないよ」


「まじだって。二郎ましましし過ぎたわ」

  

 ほんとうだろうね、と朝陽はじろじろと見てくるもそれ以上の追求はなかった。


 やっぱりメガネは最強の認識阻害アイテムだな。

 これも俺の【ラブコメ体質】が働いている影響だろう。

 でなければ説明がつかない。

 

 ラブコメではメガネをかけた微妙な女の子も外せば美人になったりするからな。

 現実にいたらメガネをかけた美人なんだが。


 しかし、声に対する疑問が飛んでこないとは、元々の俺の声って……。

 

「それよりも健、聞いたかい」


 内心落ち込む俺のことなんかつゆ知らず、朝陽が話題を振ってくる。


「どうした? 女の話か?」


「ふーん、耳が早いんだね」


 ちょっと不満げな朝陽。


 朝陽は王子様系イケメンでありながら、いつも話すことは女子の話ばかり。

 そんな話をするのは幼馴染である俺だけみたいだけどさ。

 イケメンとはいえ年頃の高校生だ、気を張っていることもあるんだろう。


 それで、今回は俺が早く女の子の情報を掴んでると勘違いしたのか朝陽は不服そうだった。

 情報通の意地というやつかな?


「いや、お前がテンション高めに話しかけてきた時点で女関連だと思っただけ」


「じゃあ聞いてないんだね!」


 不満げな顔がケロッと変わり、キラキラとした笑みを浮べる。

 おお、俺もイケメンになったけどさ、こいつのは真のイケメンって感じの明るさがあるな。

 

「あのね、僕たちの高校にいる七人の大罪のうちの(いずみ)さん、桐山(きりやま)さん、壇ノ浦(だんのうら)さんの三人にそれぞれ気になる人ができたんだってさ」


「ちょっと待て、七人の大罪?」


 聞き慣れないワードだ。

 ギャルゲーかラブコメの世界かよ。


「おおっと、そこからかい? 呆れたものだね」


 いいかい、と朝陽は説明してくれた。


 【傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲】といったキリスト教に由来する人を死に至らしめる罪を七つの大罪という。

 

 それらを人に当てはめたのが七人の大罪だ。

 

 どの女の子も可愛かったり美人だったりで男をダメにするからとかなんとか。うまく言ったもんだな。



「あー、この学校にそんなのあったけ」


 

 ギャルゲー世界で過ごした時間が長くて忘れてたわ。



 そして、その中のうちの三人に気になる人ができたとのこと。



 なぜそれがわかったか。

 それは告白の断り文句が『誰とも付き合うことありません』だったのが『気になる人がいる』という内容に変わったからだった。


 

 にしても朝陽はこの手の話が好きだよな。

 誰と誰が付き合ってるとか女子の情報をすぐキャッチするし。

 俺なんて交友関係狭いからそんなの耳に入ったことがないってのに。


 

「なあ朝陽、もう一回その三人の名前を教えてくれ。フルネームで」


「え、健が興味持つなんて……」 


「いいから教えろよ」



 物珍しそうにこっちをみる朝陽を、俺は急かす。

 


「あぁ、ちょうどいいところに来たね」



 朝陽が教室の入り口を見たので、つられるように俺も目をやった。

 

 ピンク色のロングヘアに毛先には黒のエンドカラーの入った派手な髪色の女の子。

 パッチリとした瞳に着崩した制服が垢抜けた印象を与える。

 

「あの子は(いずみ)里香(りか)。数々の男をとっかえひっかえして貪り食べ漁ることからついた称号が【暴食】」


 彼女は教室に入るや否や、ギャルっぽい集団の輪に入って談笑していた。

 たしかにあの見た目なら遊んでそうなのも納得だ。

 

「桐山さん、今日もクールかわいいなあ」


 窓際で男子たちが集まってなにやら騒いでいた。

 行こうか、健、と朝陽に呼ばれ窓際に移動する。


 眼下には登校する生徒たちがいた。

 その中でも一際目立つ女子生徒がいる。


「あの銀髪の子が桐山(きりやま)・フォーリン・レナ。その見た目通り外国人と日本人のミックスだ。男嫌いで男が近寄るだけで睨みつけ、話しかけても無視。そこからついた称号が【憤怒】。学年は僕らの一つ下だ」


 日本人離れした透き通る肌の白さに銀髪、モデル顔負けのスタイル。

 その見た目にことかいてお高くとまっているというわけか。


「桐山さんもいいけどよ男は壇ノ浦(だんのうら)先輩っしょ。あのむっちり感、朝からたまんねえ」


 男子生徒が鼻の下を伸ばして力説する。


「あちらの制服の上からも分かる立派なものをお持ちなのが壇ノ浦(だんのうら)(じゅん)。あのダイナマイトボディかつしっとりとしたただならぬ雰囲気で、溢れ出る妖艶さからついた称号が【色欲】。学年は僕らの一個上だ」


 立派なのは胸だけでなく、一歩歩くごとに太ももがむちむちと音を立てそうなくらいのボリュームだった。

 グラビアアイドルにも負けず劣らないだろう。

 


 ふむ、それぞれ七人の大罪と呼ばれるだけのことはある。

 ギャルゲー世界にいてもおかしくないほどの美少女だ。

 その美貌に魅了された男が数多くいるのだろう。


 

「ご丁寧に説明までありがとな」

 

「あぁ、いいさ。この三人の気になる人って誰なんだろうね?」


「しらねー」


「そこは興味ないのかい?」


 

 苦笑している朝陽をよそに、俺はブレザーの胸ポケットに入っているある物に触れる。


 この三通の手紙の差出人とそれぞれ名前が同じなんだが?


お読みいただきありがとうございます!


本日3話投稿予定です。

次話は夕方の18時頃に投稿いたします!


面白そうと思っていただけましたらブックマークと⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎での評価をいただけるととっても嬉しいです!

よろしくお願いします!!


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