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第1話 帰ってきた


「帰ってきた」

 

 茜差す裏路地で、俺は仰向けの状態で目が覚めてつぶやいた。

 頭をさすりながら立ち上がり、足元にあるネジを拾う。

 

「くっそ、これのせいで」


 放課後、高校の帰り道に刺激を求めて裏路地を通ったのが間違いだった。

 刺激を求めての行動が帰り道変えるだけとか、しょぼい、だなんていうなよ。


 普通に生きてたらイベントなんてまず起きない。

 これが俺にできる最大の行動だったんだよ。


 

 そのせいで足元にあるネジに気づかず転んで、地獄を見ることになったんだけどさ。


「もう終わったんだよな」

 

 忌々しいネジをぽいと投げる。


 実は、俺は異世界に行っていた。

 剣や魔法といったファンタジー世界じゃない。


 『君のためのハーレム』というギャルゲームの世界だ。


 俺はその世界のモブキャラに転生した。

 最近流行っている転生先のギャルゲー主人公が実はヤバいやつで、ヒロインを主人公の蛮行からモブとなった転生者が救う、あれだ。


 最初の頃は自分の知っているゲームの中に転生した喜びと、ヒロインのためにと張り切っていた。

 しかし、そこで地獄を味わうことになる。


 このゲームは、『君のためのハーレム』という作品名の通り、ハーレムを作ることが前提のシナリオ。

 ある一人のメインヒロインとのトゥルーエンドを迎えるためには、他のメインヒロインやサブヒロインを全員おとしてハーレムを作らないといけない。


 なぜなら、そのメインヒロインは人気のある男に惹かれる頭のおかしな性質だったからだ。


 気にせず普通に好きなヒロインと過ごせばいいじゃん、と思うだろう。

 しかし、そのメインヒロインと結ばれないと高校を卒業をすることができず、入学式から始まる。

 つまりクリアするまで、高校生活をループする世界だったんだ。



 初めはそりゃ、ずっとこの世界にいたいだなんて妄言もいっていたけど、途中からは戻りたくて仕方なくなった。

 だってずっとずっと繰り返すんだぜ?


 ゲームでは魅力的に思えたハーレムも、強いられることになると別だ。

 ギャルゲー世界の中では前の世界で、モブとして適当に生きてる時の方が幸せに思えたんだ。

 


 ま、攻略し終えたから、こうして俺は元いた世界に帰って来られた訳だけど。

 


 やったぜ!

 もうハーレムやラブコメ、ギャルゲー世界ともおさらばだ!

 普通に生きて、平凡な恋愛をして、真っ当な人生を送るんだ!


「あの、これ落としてますよ」


 裏路地で喜びを噛み締めていると女子高生に声をかけられた。


「それ俺の学生証です。……はっ!!」

 

 俺はその女子高生をみて息を呑む。

 制服が紺色で変わったデザインもない、下着が見えそうになるほど足を出していないし、谷間が見えるほど胸を出していることもない!


 顔は一度みただけじゃ覚えられないほどの平凡。

 言ってしまえば、めっちゃ普通。


 まじ、感動だ!

 

 ギャルゲー世界ではピンクの制服だったり、胸の大きさが分かるほどぴったりとしたシャツがスタンダードだったからなぁ。

 

 この様子なら雨の日でも下着が透けることもないだろう。


 てか女の子ならさ、透けないためにインナーを着てるよな?



 ギャルゲー世界ではそんな常識はなかった。

 プレイヤーのためのサービス精神旺盛すぎるだろ!



 俺は渡された学生証を確認する。



「よし、『(あまね)(とおる)』じゃないぞ」

 

 学生証には『高橋(たかはし)(たける)』と書かれていた。


 『(あまね)(とおる)』は転生先のキャラの名前だ。

 漢字を並べたら普通になるなんて名付けた親の感性疑うわ。



 顔写真の地味で冴えない男をみて、元に戻ったんだなと安心する。


 

 ギャルゲー世界にはパラメーターがあって、それはヒロインを攻略するために必要だった。

 パラメーターが一定の数値に達していないと話しかけても無視されたり、発生しないイベントがあったからだ。

 

 その中のパラメーターのひとつの【魅力】を上げると、それに従ってどんどん顔が変わっていったのだ。

 モブに転生した俺へのチートみたいなもんだ。ゲーム世界ってすごい。


 これがハイスペックな悪役に転生だったら話は違って、元からイケメンだったんだろうけどさ。


 

 モブに転生したけど最後の頃にはパラメーターはカンストしていて、顔はこの世のものとは思えないほど整っていた。


 だから、この芋っぽい自分の写真をみると落ち着くわ。

 

「どうかしましたか?」


「いえ、なんでもありません。ありがとうございます」


 前にいた世界のこと考えてました、なんて正直に理由をいう訳にもいかず、俺は一言感謝を告げた。

 なにか好奇の視線を浴びせられたけど、気にせず俺は路地裏から大通りに出る。



 うっわ! 高校生が黒髪だ!

 いてもせいぜい茶髪寄りって感じ。

 地毛ってそうだよな、と俺は腕を組んで頷いた。



 生まれつき髪の色が赤や緑や青なんて変わった奴らがいない!


 普通バンザイ!


 この平凡ともいえる光景に俺は帰ってきたんだなと実感する。


 これからどうしようか。

 帰り道だったから特に予定もないし、ひとまず家に帰るか!



 思いついた俺は走った。

 一歩で、ぐんっと推進する。

 袖と裾から風を感じる。



 くぅ、帰ってきたテンションで帰宅する足も速くなっているぜ。

 てか、なんか制服がキツい気がするなぁ。


 走っていると、通り道に男女がいた。


「お前色んな奴と遊んでんだろ? 俺でもいいじゃねえか」


「あんたなんかイヤ。どっかいって!」

 

 ヤンキーっぽい男が話しかけていて、女の子は嫌そうな顔を浮かべている。

 女の子は表情をくずしていてもわかる美少女。

 ピンク色のロングヘアに毛先が黒というかなり攻めた髪だけど、顔に対して浮くことなく、似合っていた。

 あれだけの美少女だ、ナンパされるのも仕方ないか。


 

「そんなところいると邪魔だ!」

 

「うわっ、ちょっ、なんだよ!」



 帰りを急ぐ俺は男にぶつかって、ふき飛ばす。

 女の子に「ほら、今のうちに逃げて」というと、女の子は走っていった。



 随分と派手な髪色だったけどあの子もヤンキーなのかな?



 そのまま走っていると道中で泣いている幼女がいた。

 くそ、周りに誰もいないのか。

 


「大丈夫?」



 立ち止まって声をかけると幼女が目を丸くしていた。

 青い綺麗な瞳に銀髪の髪。

 神の作ったような造形が天使を思わせた。

 

 俺みたいな地味な男子に声かけられたら、そら警戒するわな。

 イケメンじゃなくてすまん。



「君は迷子?」



 構わず声をかけると、頷く幼女。

 俺は情報を聞き出して家まで送ることにした。

 家に帰るために急いでいるので、おんぶしてダッシュだ。

 

 嫌がられるかと思ったけど、きゃっきゃっと楽しんでくれてよかった。

 それにしてもあんな幼女いたんだな。

 外国の血が混じってそうだし、珍しいけどそういうこともあるだろう。



 そろそろ家に着こうとした時、近所の公園で言い争っている女子二人がいた。

 争うというよりは一方的に言いがかりをつけてる感じだな。

 黒髪のショートヘアのしっとりとした京美人を思わせる女子に、ケバケバしい女子が詰め寄っていた。


「あんたが私のマサトくんたぶらかしたんでしょ!」


「さっきからそう言うてるけどマサトくんって人だれ? あんなぁ、その人うち知らへんよ?」


「はぁ? あんたが色目使ったくせに。とぼけてんじゃないよ!」


 ケバケバしい女子が手を振りあげて、京美人にめがけておろす。


「こういうのやめた方がいいと思うけど?」


 彼女の頬に触れる前に、俺はケバケバしい女子の手を掴んでいた。

 ケバケバしい女子って面倒だな。

 こいつはケバ子だ。


 友達同士の喧嘩なら見て見ぬ振りをしようとしたけど、そうじゃなさそうだし、流石に暴力はダメだ。

 

「な、なによあんた」


「手を出すのはまずいでしょ。今コンプラとか厳しんだから。いや、女子のビンタはなぜか許される風潮あるか」


「なにいってんのよ!」


「まあまあ落ち着いて。その子に詰め寄るよりもまずはマサトくんだっけ? そっちと話をした方がいいと思うよ。こっちの彼女は知らないっぽいし、大方マサトくんが勝手に好きになったってところじゃない?」


 俺の率直な感想を告げると、ケバ子は顔を真っ赤にしてぎゃーぎゃー喚きながらどっかいった。


 よし、解決したっぽいし俺も行こう!


 後ろから「あのぅ、名前っ……」とか聞こえてきたような気がするけど早く帰りたいから、いいや。



 もう二度と会うこともないだろうし。



「なんかやけに遠かったな……」


 色々あってようやく家に着く。

 そこはなんの変哲もないアパート。

 隣に美少女も住んでいないけど、これでいい。


 表札には「高橋」と書かれたテプラが貼られていて、持っていた鍵を回す。


「ただいま」

 

 ドアを開けるや否や『おかえりー!』と走って抱きついてくる可愛い妹、なんていない。

 『遅かったね……』と拗ねるクール系の義妹、それもいない。

 『もー、どこ行ってたの?』と甘やかしてくれる大人っぽい姉、もちろんいない。


 俺は一人っ子だ。


 普通バンザイ!

 

「おかえり」


 玄関で大げさに出迎えるわけでもなく、キッチンで料理をしながら返事をする母さんがいた。


 十代に見間違えるなんてことはないその容姿。

 目元の小じわと少しのシミ。

 少々の手の赤切れ。


 けれど母親なんてそんなもんだ。


 十代に見間違えるロリ系ママなんてファンタジーだ。

 人間、時を重ねればそうなるし、家事を頑張ってくれていて感謝している。

 その姿に、この世界に帰ってきたことを再度実感した。


 ん?


 なぜか母さんが俺の顔をみて、時が止まったように固まっている。

 おーい、なんて手を振ってみる。

 

「……あなた誰ですか」


 母さんは戸惑った声で尋ねてくる。 


「え、俺だよ。(たける)。息子の顔忘れた?」


 俺は向こうの世界に行って長かったけど、母さんからすれば今朝会ったばかりだろ?


「あなたみたいな息子知りません。あなたみたいな……、イケメンを産んだ覚えありません!」


 は? イケメン?

 

 親は子がかわいいから、昔はかっこいいなんて褒めてくれたけど、中学入ってからは容姿を褒められることなかったな。

 

「なんの冗談だよ」

 

 笑いながら俺がそう突っ込むも、母さんの反応は乏しい。

 ふと、家の窓に映る知らないやつに目をやる。

 

「はぁ!? なんだお前!」


 窓の向こうに映っていたのは超絶イケメン。

 イケメンが驚いた顔をして立っている。


「おいおい、何みてんだよ」


 窓に手をやると、イケメンも窓に手をあてる形になる。

 まるで鏡写しのようだ。



「うそ……だろ?」

 


 そのイケメンは他の誰でもなく、俺自身だった。


お読みいただきありがとうございます!


本日3話投稿予定です。

次話はお昼の12時頃に投稿いたします!


面白そうと思っていただけましたらブックマークと⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎での評価をいただけるととっても嬉しいです!

よろしくお願いします!!


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