28 聖女の最後①
*ナナカ視点*
アウイナイトに閉じ込めている水の精霊ヴァルナ。
閉じ込めているだけで魔力が溜まり、その魔力で怪我の治癒をしていた。水属性の魔力だから、光属性の魔力とは違い病気を治す事はできないけど、誰も何も疑う事はない。
『聖女の力が残っているだけでも奇跡だから』
『神々に愛されているから、聖女の力が残った』
それでも、その魔力も少しずつ弱くなっていった。
ーどうして?ー
ヴァルナは精霊ではなかった?精霊は妖精よりも力が強いのではなかった?精霊にも、力の強い弱いがあるのか、ヴァルナの魔力は明らかに弱くなっている。でも、焦る必要はない。もう少し待てばヴァルナは本当に私のものになるから。今はまだジルダのもので、ジルダと切り離せていないから、私が思うように魔力を扱えないだけ。
「本当に、消えてからも私の邪魔をするのね……」
それも、朔の日である今日で全てが解決する。あの男がジルダを見つけ出したから。明日には、風の精霊も手に入るのかもしれない。
「ナナカ、ご機嫌だね。何か良い事でもあった?」
「セオドリク様。もう公務は終わったの?」
王太子宮のダイニングルームで、食後の紅茶を飲んでいると、セオドリク様がやって来た。ここ数日は公務が忙しかったようで、まともに会えたのは3日ぶりだった。
「ようやく急ぎの案件が片付いたんだ。明日はゆっくりできそうだから……」
そう言って、セオドリク様が私の手を取って口付けた。
「ふふっ……嬉しいです」
本当に、セオドリク様は私には甘々で優しい上にイケメン。私は、元の世界でいうところの“勝ち組”よね。これで、将来子供が生まれたら、私は国母となり、この国で女性のトップに立てる。魔力が強くて賢いだけでは……本当に愛される事もない。
「セオドリク様、それじゃあ、今から──」
一緒に部屋に戻りましょう──と言いかけた時、その部屋の方から魔力が一気に溢れ出した。
「何が起こっているんだ!?」
セオドリク様が驚くのも無理はない。離れた場所の魔力が、これ程までに感じる事があり得ないし、幾重にも結界が張ってある部屋から魔力が溢れているのだから。そして、その張られている結界が反応して、魔法や魔法陣が発動したんだろう、廊下が騒がしくなり、そのまま待機していると、魔道士で私の護衛でもあるメリンダがやって来た。
「王太子妃殿下の部屋に、侵入者があったようで、今、騎士と魔道士数名を向かわせました」
「侵入者!?一体どうやって──っ!!」
ーまさか!?ー
「ナナカ!?」
「妃殿下!?」
セオドリク様とメリンダの声は無視して、私は部屋へと走り出した。
部屋の前に辿り着くと、騎士や魔道士達が居るはずなのに、室内は静かで物音ひとつしなかった。
ーどうなっているの?ー
それでも、未だに扉の向こうから魔力が溢れている事だけは分かる。怖い──けど、アウイナイトがどうなっているのかを確かめる為に、私はゆっくりと扉を開けて、部屋の中へと入ると──
『ようやく来たわね』
「え?」
部屋の中央に、鮮やかな青色の長髪の女性が居た。
『危険を承知で来たの?余程心配だったのね?』
「ひ──っ!?」
私の背後に、若葉色の長髪の女性が立っていた。
ーさっきまで誰も居なかったのに!?ー
と、そこで室内の異様な様子に気が付いた。青色の髪の女性の後ろに、騎士と魔道士達が跪いたまま微動だにしない。顔も下に向けたままだ。
それに、発動したはずの魔法陣も見当たらない。
「し……心配って……何を……というか、貴方達は誰なの!?どうやってここに───」
『どうやって?って、アナタが訊くの?私をここに閉じ込めていたくせに』
「え?閉じ込めた?」
何を言っているのか。何故私が知らない人を閉じ込める必要があるのか。そもそも、私は誰かを閉じ込めた事なんてな────
「まさか……」
『気が付いた?』
「ヴァルナ?」
『その通りよ。でもね……私はオマエに私の名を呼ぶ事を許していないわ』
「──きゃあっ!」
「ナナカ!」
「王太子妃殿下!」
パシャッと水をかけられた。そのタイミングで、セオドリク様とメリンダがやって来た。
「お前、何者だ!?王太子妃殿下に何を──」
「メリンダ!控えろ!!」
メリンダは魔道士の護衛らしく、私を護る為に咄嗟に攻撃態勢に入ったけど、セオドリク様がメリンダを制した。
「何故ですか!?王太子殿下!」
『ふふっ。愚か者でも、一応は王家の者ね。私の事が分かるのね?まぁ……私達はオマエ達の事はよく知っているけどね……』
ヴァルナが笑う度に、背中に嫌な汗が流れる。部屋の空気も、少しずつ重くなっているような感覚がある。
『でも、オマエは本当に魔道士なの?魔力に特化している者のはずなのに、私達が何者かが分からないなんて。大した事ないわね。だから、オマエはいつまで経っても治癒士ジルダに勝てなかったのよ』
「な─────つ!」
「メリンダ!!」
メリンダは、ヴァルナの言葉に躊躇う事なく、至近距離でヴァルナに攻撃魔法を放った。




