25 お父様
ーその手に捕らわれたら最期だー
その者の手が私を捕らえようと───
バチンッ
『く───っ!?』
もうすぐ届くというところで、目の前に魔法陣が現れて、バチンッと音がして弾かれ、その手が私に届くことはなかった。
『これはまた、厄介な魔法が組み込まれているな……ちっ……』
そう言うと、その者は少し苛つきを露にしてから、何かをぶつぶつと呟きだした。
ようやく、その者の顔が見えた。黒色の髪と瞳で、何となくナナカの世界と同じような雰囲気をもっている男性だ。若そうに見えるけど、存在感が凄い。ヤバい、逃げないと──と思うのに、左足は痛いし身体が重くて動けない。魔法も使える気がしない。
どうする?と考えているうちに、目の前で展開されていた魔法陣がポロポロと欠けはじめた。
ー魔法陣が……解かれた!?ー
『誰も助けに来ないとは……可哀想に』
「……」
なんて言いながら、愉快そうに笑っている。
誰も来ない方が良い。
誰も巻き込みたくない。
『最後に、何か言い残す事はあるか?伝言くらいなら聞いてやろう』
「契約者に伝えなさい。『必ず返ってくる』と。他は……私が自分で伝えるわ」
『ふむ。その反抗的な態度は気に入った──が、契約がある限りは仕方ない。できるだけ早くに楽にしてやろう──ぐっ!』
その男が私の手を掴んだ瞬間、隠し持っていた短刀でその手を刺した。
そして、力が緩んだ隙に──
「い───っ」
逃げられず、また左足を掴まれた。
『こんな事で簡単に逃げられると思うな』
『その汚れた手を離しなさい』
『なっ!あぁぁぁぁ───っ!!!』
ボトッ──と、私を掴んでいた男の手が、肘辺りで斬り落とされて落ちた。
「イチコさん?」
『遅くなってすみません。準備に少し手間取りました』
目の前に居るイチコさんは、頭に耳がピンッと立っていて、尻尾が生えている。ミツと同じ狐獣人だからおかしくはない。おかしくはないけど……
「尻尾が2本?」
それに、ただの獣人とは違う威圧感がとんでもない。絶対に普通の狐獣人じゃない。
『お前……まさか……』
『アンタだけが、そうだと思った?愚かで可哀想な頭ね。ふふっ』
余裕なイチコさんに対して、男の顔色はより一層悪くなった。
「リヴィ様、大丈夫ですか!?」
「ミツ……まだ足は痛いけど……なんとか……」
まだ模様はクッキリ残っているし、ズキズキと痛みもあるけど、ほんの少しだけ身体は軽くなっている。
「説明は後からしますから、取り敢えずこれを飲んで下さい」
と、ミツから小瓶を受け取り、勧められるままに飲む。
「ゔ……苦い………」
「どうですか?」
「…………あれ?足の痛みが無くなった?」
と言っても、模様が消えたわけじゃない。
「一時凌ぎでしかありませんけど、痛みが抑えられている間に、アイツをなんとかできさえすれば──」
ガシャンッ
『──かはっ!』
大きな音がして、男が血を吐いて床に倒れている。
『オマエもまた、行いは全て返ってくると心得なさい』
『く─────っそが!!』
「リヴィ様!!」
『……』
やけくそのように男が放った攻撃魔法が私にぶつかる前に、ミツが塞いでくれた。
「ミツ、大丈夫?手から血が……」
「大丈夫です。この手の怪我も──」
『駄犬如きが……俺の娘に傷を付けるとは……命知らずもいいところだなぁ』
「え!?お父様!?」
「『おとうさま』!?」
更にこの部屋に現れたのは、黒色の髪に、暗闇でも分かるほど燃えるような赤色の瞳の男性。その存在だけで息苦しくなる。そんな人?獣人?が、ミツのお父様。
『まさか、深影様が直々にいらっしゃるとは思いませんでした』
『相手が駄犬だからな。菊花はおとなしくさせてきた』
『深影様……』
少し呆れた顔をするイチコさんと、それを受け流す深影さん。イチコさんの態度からして、深影さんがイチコさんより上の立場の人だろう。その深影さんは、床に倒れているあの男の傍まで行くと、そのまま思い切りお腹を踏み付けた。
『がは────っ』
『この世界で、愛し子に手を出せば、主様が出て来ると思ったか?』
『く────っ』
『そんな馬鹿な思惑にはまるわけないだろう。オマエごとき、俺だけで十分だ──と言いたいところだが、オマエの始末はこれまた違う神がして下さるそうだ。だから、主様がオマエの前に現れる事はないし、もう二度とオマエの目に映る事もない。残念だったな』
『ゔあぁぁぁーっ』
深影さんは、その男を更にグリグリと足で踏み付けている。
何故、今まであの男に恐怖を抱いていたのか──が、分からないほど、その男に対しての恐怖心が無くなっている。深影さんとイチコさんの2人の圧倒的な存在感のせいなのか?
「リヴィ様と繋がっているあの男は、私達の世界の者だったんです」
「え?」
あの男も異世界人で、この世界に転移や転生して来た?
「この世界と私達の世界では、力が全くの別物なので、この世界の魔法では、あの男の力には抗う事ができなかったんです。なので、ある意味、あの男はこの世界では最強の部類だったんです」




