23 お守り
朔の日まで10日。
ーやっぱり、左足の模様が更に濃くなってるー
繋がりが切れるどころか、ジルダの存在に気付かれたのかもしれない。いつまでも隠れて逃げられるとは思ってなかったけど、いざとなると恐怖が勝る。ミツやイチコさんを信じていないわけじゃない。
でも、呪いが解けたとして、その後はどうなるのか?ジルダ=イデリアルは死んだ事になっている。
“実は生きている”
と知っているのは、ノーザンディア国王陛下とイデリアル伯爵と伯爵夫人の3人だけ。国王陛下が半年でジルダの死亡判定をし捜索を打ち切ったのは、私を護る為だった。
ただ、王太子とナナカの婚約と婚姻は予想外の事だったらしい。婚約者の私が死んだ事になったから、婚約解消は予定通りだったけど、その後は隣国の王女との婚約を進める予定だった。それが、王太子とナナカの希望で2人の婚約が早々に決まってしまったらしい。そりゃそうだ。王太子と奇跡の聖女の結婚に異を唱えられる人なんて居ない。ウェルカムしかない。
“2人の希望”
2人はいつから、そういう仲だったのか?それも、機会があれば訊いて──みたいような、みたくないような……。
私は、セオドリク様に対して愛情はあったと思う。でも、正直、セオドリク様とナナカの結婚の話を聞いてもショックを受ける事はなく、寧ろ2人で幸せになって欲しいとさえ思った。だから、私がセオドリク様に対して抱いていた愛情は、恋愛要素ではなかったのかもしれない。
基本、私は魔法中心の生活をしていて、更に王太子妃教育が始まった事で、年相応のキャッキャウフフな生活を送る事がないまま今に至っているから、恋愛感情もいまいち分からない。
この模様が消えて私を縛り付けるものがなくなって、自由が得られたら──
「このままここで、余生をのんびり過ごしていくのも良いよね」
「『余生』って……リヴィアンナさんって、まだまだ若いよね?」
「英雄様!?」
ラボにやって来たのは、英雄様とメンフィールス公爵。イチコさんが釘を刺したという事は、おそらく、私がジルダだと分かっているんだろう。
「お久し振りですね。今日もお薬のご購入ですか?」
暫くの間来ていなかったから、もう王都に帰ったと思っていた。
「薬の購入もだけど、これどうぞ」
「これは?」
英雄様が私に差し出してきたのは、赤色の小さなポーチ。不思議な結び目の紐が付いている。
「これは、“無病息災”の願いが込められた、俺の居た世界のお守りなんだ。そのおかげか、この世界に来てからは、大きな怪我や病気とは無縁なんだ」
この世界で言うところの“魔道具”と言ったところだろうか?
ーそれで?だから?ー
「これは俺からのプレゼントだ」
「プレゼント?公爵様から??」
メンフィールス様から手渡されたのは、小さなブルーダイヤのピンキーリングだった。
「こんな高価な物、いただけませんから!!」
ブルーダイヤは、貴族の中でも高位貴族やそれなりに余裕がなければ手に入らない。しかも、このブルーダイヤの色が鮮やか過ぎる。薄い色のブルーダイヤでも滅多にお目にかかれないのに、この鮮やかさは……ある意味恐ろしい。
「俺の所有する鉱山で発掘された物で、(ある意味)高価ではないから気にするな」
「気にするなと言われて『はいそうですか』なんて言えません。それに、いただく理由がありませんから」
無礼な言い方だと分かっているけど、こうなったら気にしている場合じゃない。私がジルダだと分かっているなら、こういうやり取りが普通と言えば普通だったから。
「ふっ……理由ならある。俺はね、“お気に入り”に手を出されるのが嫌いなんだ」
「……はい?」
ー“お気に入り”?ー
「お気に入りが、ある日突然俺の知らない所で消えてしまってね。それでも、またようやく掴みかけたお気に入りに、また手を出されそうになってる事を知って、そのまま放っておく事はできないからな」
背中がゾクゾクするのは、メンフィールス様の怒りからなんだろうか?
「今は何もできないが、護るぐらいは許されるだろう。右手にはめておけ」
「……」
右手にはめるピンキーリングには“魔除け”“実力発揮”の意味がある。ブルーダイヤは“幸運”。
「もし、貰うのが嫌だというなら、1ヶ月後ぐらいに返してくれれば良い。お前自身の手で返しに来れば、その時は喜んで受け取ってやろう」
“1ヶ月後”
本当に、自分勝手なところは変わっていない。けど、嫌ではなかった。傲慢ではなく、ある意味誰にでも平等なメンフィールス公爵。噂通り冷淡なところはあるけど、私は一度も冷たいと感じた事はない。
「分かりました。1ヶ月後に……利子を付けて返しに行きます」
「あぁ、楽しみに待っている」
メンフィールス公爵は目を細めて笑い、英雄様は嬉しそうに笑った。




