22 ネズミからの報告
イチコさんが『調べてみる』と言ってから1週間。
「ネズミからの報告がありました」
“ネズミ”とは、ネズミ獣人の諜報員の事だった。ラドルファス王子達に釘を刺しに行った時に、そのネズミを借りる約束もしていたそうで、早速そのネズミを借りて王城に潜り込ませていたらしい。
王城には、幾重にも結界が張られている──んだよね?
「私とミツの力は、この世界の結界には感知されませんからね。かと言って、好き勝手し過ぎると理が崩れるので、最低限での行動しかできませんけど」
世界が違えば力も違って来るようだ。ミツ達の世界では魔法は存在しないそうだ。
逆に、ミツ達の力はこの世界には存在しないから、結界を張っていても、その結界に反応しないそうで、そのネズミ達に認識阻害のような魔法を掛けて王城に送り込んだそうだ。
ーそのネズミが暗殺者だったらどうするの!?ー
とは突っ込まない。
ネズミの報告によると、やっぱりナナカがヴァルナを捕らえていて、ヴァルナの力で怪我人を治癒しているそうだ。ヴァルナは、契約者の私との繋がりが不安定になった上、アウイナイトに閉じ込められているから、本来の力の2割ほどしか使えない状態らしく、自力でそのアウイナイトから出る事ができない。そのアウイナイトの中では、殆どの時間、眠りに就いている状態らしい。
『多分、寝る事で力を溜めているのね。何か切っ掛けがあれば、そこから出る為に』
ヴァルナなら有り得る事だ。本来のヴァルナは、そんなちっぽけな石に収まるような精霊じゃない。だから──
『あそこから出た後のヴァルナの行動が、目に見えるわね。楽しみだわ。ふふふっ』
表情の変わらないアウラなのに、ニヤリと愉快そうに見えるのは気のせいじゃない。アウラもヴァルナに負けないぐらいの好戦的な性格だから。
「そして、素性の分からない男が1人確認できたようです。その男が唯一接触したのが聖女です」
その男の王城に出入りした記録は無く、王城ではなく王太子宮でしか確認できなかった。王太子宮で暫く様子を見ていたが、結局は一度目にしただけで、それ以降は確認できていないそうだ。
「可能性の一つとして、左足の模様と関係がある者かもしれません」
“関係がある者”
この模様を残した本人──私から水の魔力を奪い取り、私に呪いを掛けた本人かもしれないという事。きっと、私の存在に気付いたら、風の魔力も奪い取るつもりなんだろう。また、あの痛みを受けるのは耐えられない。いっその事、一思いに殺してくれと懇願してしまいたくなるほどだった。
「大丈夫です。私が思い通りにはさせませんから。それに、相手がハッキリすれば、こちらも動けますから」
ふふっと笑うイチコさんの笑みは不敵だ。今は、その言葉を信じるしかない。
「あ、ラボに誰か来たみたいですね。普通のお客様っぽいですね。私だけで対応して来ましょうか?」
「普通のお客様なら大丈夫よ、私も行くわ」
今は足が痛むという事もないし、動いていないと色々と考えてしまうから、動いている方が気が楽になる。
「それじゃあ、一緒に行きましょう」
「行ってらっしゃい」
私とミツは、イチコさんに見送られてラボへと向かった。
『さて……あの女は、どう動くのか……楽しみだわ』
と、イチコが1人呟いた。
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左足の模様が濃くなった事で『何か起こるかも?』と身構えていたけど、特に何かが起こる事もなく穏やかな日々が続いた。とはいえ、楽観視する事はない。何かあるとすれば、それは朔の日だろうから。朔の日が、相手にとって都合が良い日なんだろう。
『朔の日は、私にとっても都合の良い日なんです』と、あの普段は可愛らしいミツがほくそ笑んでいた。朔の日じゃなくても大丈夫そうな気がするけど。それより何よりも、普段のミツよりも上だろうと思っているイチコさんが『朔の日であれば、ミツの方が私より頼りになるかもしれません』と言った事に驚いた。
『だから、朔の日は私の力が弱まるけど安心なのよ』と、アウラがしれっと同調していたのにも驚いた。
左足にある鎖のような模様に視線を向ける。そこに模様がある限り、“相手が私を諦めていない”という証明になっている。
この呪いが解けて、私が“ジルダ”に戻れたら、どうして私がこんな目に遭わなければいけなかったのか──ナナカから聞く事ができるのか?
私は聖女とはいえ、異世界から来た少女だからと気を配って対応したつもりだし、優しく接したつもりだった。それが、ナナカにとって迷惑だったのか──
『聖女とは、常に謙虚であれ』
『その力は、他人の為に使う為に与えられた力と心得よ』
『他人の為に行動すれば、必ず自身に返ってくる』
ーその意味を、ナナカがちゃんと理解していれば良いけどー




