21 聖女ナナカ③
だから信じていたし、あの時までは予定通りに上手くいっていたと思っていた。
亀裂の浄化中に、ジルダの魔力を奪う為にあの男が現れた。予定通り、周りに控えていた騎士や魔道士は聖女を護る為に私を取り囲んだ。その隙に、あの男がジルダの魔力を奪い取る予定だったのに。
「「ジルダ!」」
バズラス王国のラドルファス王子と、その側近の男は私ではなくジルダの方へと走って行った。それでも、あの男は既にジルダを捕らえていたから、大丈夫。何の問題も無いと思っていたのに。
『なんてことを…………』
ーえ?何?誰?ー
頭の中で声が響いたと同時に、金色の光が広がり、その光が霧散すると、そこには既にジルダの姿だけがなくなっていた。
ー成功した?ー
「ジルダはどこだ!?」
ラドルファス王子達が、ジルダを探す為にそのままそこに留まり、私はすぐに王都に戻る事になった。
王都に戻って来てから1週間。
ジルダが見付かったという報告はなく、あの男も姿を現す事はなかった。
ーどうなっているの?上手くいったの?もし、失敗していたら?ー
もし、あの男が捕まって、私の仕業だとバレてしまったら、例え私が聖女だとしてもどうなるのか分からないのに、聖女の力を失ってしまったら──
それからは、不安と恐怖でいっぱいの日々だった。食事は喉を通らず、ティータイムのデザートも美味しいと思わなくなった。
1日1日と、少しずつ光の魔力が小さくなっていくのが嫌でも感じられて、自然と寝込む日が増えていった。
「ナナカ、大丈夫か?」
「セオドリク様……」
私が寝込むと、私を心配したセオドリク様がお見舞いに来てくれるようになった。
「ジルダの事は……できる限りの事はして、必ず探し出すから、ナナカも元気になるんだ」
「ありがとう……ございます」
ありがたい事に、セオドリク様をはじめ周りの人達は、“聖女はジルダが居なくなった事にショックを受けて寝込んでいる”と思ってくれているようだ。あながち間違いではない。
“魔道士ジルダ=イデリアルは死亡した──とする”
国王がそう判断を下したのは、王都に戻って来てから半年後だった。流石に、あまりにも早い判断で驚いた。不明となっているのが伯爵家の令嬢であり王太子の婚約者だから、最低でも1、2年は捜索が続くと思っていた。それが、たったの半年。
「ナナカ……約束を守れなくてすまない。でも、国王が下した決断だから、私ではどうにもできないんだ」
セオドリク様は沈痛な面持ちで謝罪してくれたけど、私はホッとしただけだった。
******
『久しぶりだな……聖女様』
「貴方は!一体今までどこで何をしていたの!?」
その日の夜、ようやくあの男が現れた。
『ジルダの水の魔力は奪ったが、正直に言うと……失敗して、今まで動けなくなっていたんだ』
「失敗……した?なら……私は……」
『大丈夫だ。ようやく動けるようになったからここに来た。取り敢えず、聖女様にはこれを──』
と、その男が私に差し出したのは、青色の宝石のネックレスだった。とても綺麗な青色で、清らかな雰囲気を持っている。
『その石の中に、ジルダの精霊を閉じ込めてある。その精霊の力を使えば治癒ができる。それで、“聖女の力が残っている”ように思わせる事ができるだろう?』
ジルダが精霊を持っていたなんて、知らなかった。でも、この精霊のおかげで、私に光の魔力が残っていると思わせる事ができるなら、私は聖女のままでいられるし、セオドリク様とも──
『今すぐには無理だが、必ずジルダを見つけ出して残りの魔力もいただく』
どうやら、この男もジルダを見付けられていないようだった。この男でさえ行方がつかめないとは、本当にジルダはどこに消えてしまったのか?
「ジルダが、もう本当に死んでいるという事はないの?」
『それはない』
そう言いながら、その男が右袖をめくると、その右手首に鎖のような模様の入れ墨があった。
『これは、俺とジルダが繋がっている証拠だ。これが消えていないという事は、ジルダが生きているという事だ。この模様が消えない限り、ジルダは俺から逃げられない。今はただ、うまく隠されているだけだ』
「誰がジルダを?」
『それは言えない』
「そう……」
その質問に不快感を表すと、空気がビリビリと痛くなったように感じて、それ以上訊く事はしなかった。
そうして、それからもその男はジルダを探す為に居なくなった。
それからは色んな事があっという間だった。
“奇跡の聖女”“神々に愛された聖女”と呼ばれ、セオドリク様との婚約、婚姻。私は王太子妃となった。
ようやく、私が本来の場所に収まったのだ。
なのに───
『なんでも、メンフィールス公爵様が、ジルダ様を探しているそうよ』
『もし、ジルダ様が生きているとなると、一体どうなるんだ?』
あの大陸一の魔道士ルベール様が、ジルダを探しているという噂が流れたのは一瞬で、すぐに箝口令が敷かれ、その噂はすぐに収まった。
もし、あの男よりルベール様が先にジルダを見付けてしまったら──
それでも、私は絶対にこの場所をジルダに譲るつもりはない。




