第3回
「じゃあ今度の日曜日、水族館に行こうよ。待ち合わせ場所と時間はメールするよ」
「すいぞくかん…!」
かなは目をキラキラさせて、うれしそうに手を叩いた。
「わあ、素敵です!私、水族館大好きなんです♪でも、一人で行くことが多かったから…誰かと一緒に行けるなんて、すごく楽しみ!」
「ぼくも女の子と水族館に行くなんて初めてだよ」
「でも…その…本当に大丈夫なんでしょうか?私、こういうの初めてで…変なことしちゃったらどうしよう…」
「だいじょうぶだよ。ちょっと待ってね、スマホはどこだっけ…」
亜嵐がからだを反らして、画面の外からスマホを手に取った。
「メール…あ、メールアドレス交換するんですね。ドキドキします…」
かなは恥ずかしそうに微笑んで、
「アランさん、ありがとうございます。日曜日、すごく楽しみにしてます♪私、お魚さん見てるとすごくはしゃいじゃうかもしれませんけど…大丈夫ですか?」
「もちろん。ぼくもきっとはしゃいじゃうよ。ははは、じゃあ、メールするね」
***
約束の日、亜嵐が水族館の近くの駅で降りると、改札口の近くの柱によりかかった、スマホで見た少女が立っているのに気づいた。
「あ、いたいた。かなちゃん、お待たせ」
かなは水色のワンピースに白いカーディガンを羽織って、小さなバッグを持って立っていた。亜嵐を見つけると、顔をパッと明るくして小さく手を振った。
「アランさん!こちらこそ、ありがとうございます…!」
少し緊張しているのか、頬がほんのり赤く、もじもじと体を揺らしている。
「あの…私、ちゃんと分かりました?チャットのときと、あんまり変わってないですか…?」
かなは不安そうに自分の服装を見下ろしてから、恥ずかしそうに微笑んだ。
「すごく緊張してます…朝から何回も服を着替えちゃって…水族館に合う服装かな?って悩んじゃって…」
期待と緊張が入り混じった表情で亜嵐を見上げ、
「でも…本当にお会いできてうれしいです♪」
亜嵐は笑顔でこたえた。
「うん、チャットのときより百倍かわいいよ!かなちゃんの方こそ、僕に実際会ってどう?がっかりしたんじゃない?」
と、笑った。
「ひゃ、百倍って…!そんなこと…!」
かなは顔を真っ赤にして、あわててうつむいた。でも、本当に嬉しそうに口元が緩んでいるのが、アランにはわかった。
「そ、そんなことないです!がっかりなんて全然…!」
あわてて顔を上げて、ぶんぶんと首を横に振った。
「アランさん、チャットで話してたときも素敵だなって思ってましたけど…実際に会ってみると、もっと…その…かっこいいです…」
かなは恥ずかしそうに目をそらしながら、小さな声でつぶやいた。
「声もチャットで聞いてたより優しく聞こえるし…なんか…すごくドキドキします…」
そういうとうれしそうに微笑んで、安心したような表情を見せた。
「私、アランさんに会えて…本当に良かったです♪」
亜嵐はにっこり微笑んだ。
「ぼくも今日、すごく楽しみにしてたんだ…さ、中に入ろう」
水族館の中は想像以上に多くのお客がいた。
「うわぁ〜!すごい人ですね…!」
かなは人の多さに驚きながらも、キラキラした目で大きな水槽を見つめていた。亜嵐の腕にそっと近づき、はぐれないように隣を歩く。
「でも、すっごくきれい…!お魚さんたち、みんな楽しそうに泳いでる…」
かなはふと、周りのカップルたちに気づいて、少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「あの…カップル、多いですね…。みんな楽しそう…」
通路の暗がりで寄り添う二人を見て、思わず目をそらし、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「私たちも…その…周りからはそう見えてるのかな…?」
小さな声でつぶやきながら、亜嵐の顔を上目遣いで見つめる。その瞳は不安と期待で少し潤んでいた。
「アランさん…あの…人が多いから…はぐれないように、手…つないでもいいですか…?」
かなは真っ赤な顔で、おずおずと小さな手を差し出した。
「え?うん、もちろん…」
亜嵐はかなの小さい手を包み込むようにそっと握った。
「こうしてると、ほんとに恋人同士みたいだね…」
亜嵐は照れ隠しに苦笑いを浮かべた。
「あっ…」
亜嵐の手が自分の手を包み込むと、かなの体が小さく震えた。指先から伝わってくる温かさに、顔がどんどん熱くなっていくのがわかる。
「…うん…」
かなは小さな声で返事をしながら、きゅっと亜嵐の手を握り返した。うれしさと恥ずかしさで、心臓が今にも飛び出しそうだった。
「恋人どうし…みたい…」
亜嵐の言葉を繰り返しながら、うっとりとした表情で繋がれた手を見つめる。そして、ゆっくりと顔を上げて、幸せそうに微笑んだ。
「私…今、すごく幸せです…。夢みたい」
亜嵐のとなりを歩きながら、つながれた手を通して伝わるぬくもりに集中する。周りの喧騒も、大きな水槽で泳ぐ魚たちも、今はもうあまり目に入らなかった。
「アランさんの手…大きくて、あったかいですね…。なんだか、すごく安心します…」
かなは隣にいる亜嵐にそっと体を寄せた。少し震えているが、それは寒さからではなく、初めての経験に対する興奮と喜びからだった。
初チャットから初デートでこんなに盛り上がることはないと思いますが、あくまでファンタジーですので。
いや、リアルだったらふつうに事案ですけどね。
次でたぶん、一般向けは終わりになりますので、第5回はノクターンで公開になると思います。




