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牢獄

掲載日:2025/10/29


ヘッドホンをするのが好きだ。


小説を読むときですら、音楽も何も流さずにヘッドホンをする。


このどうしようもない世界から隔離された気がするからだ。


もしくは、もう、何も聞かなくていいように。


いつからこうなってしまったんだろう。


あるいは、最初から、こうだったんだろうか。


たしかに幼少期から、辛いことが多かった気がする。


今では気にならないことですら、昔は良く痛がっていた。


だが歳を取るとともに、少々のことでは動じなくなってしまった。


でもそれは、強くなったわけじゃない。


きっとただ、鈍感になってしまっただけなのだろう。


人はどんなことにでも慣れていく。


たとえ足を失ったとしても。


2年もすれば、不便とは思っても、足を失った瞬間の絶望、苦悩、不幸感は

きれいに消え去り、朝起きた時の気分は足を失う前とそう変わらなくなるそうだ。


それは生きるためには必要なことだが、悲しいことだとも言えるのかもしれない。


老いることは悲しいことだ。


男の精神年齢は、中学生で止まってしまう。


処世術を身に着け、大人になったように見えるだけだ。


心は中学生なのに、体は老いていく悲劇。


青春を卒業したわけじゃない。


ただ、手に入れられなくなったから、諦めてしまっただけだ。


その状態で、青春時代の四倍以上の時間を過ごさなければならない、無限の牢獄。


それがこの世だ。


・・・しかし、それでも。


ヘッドホンを外す。


世界の音が、ゆっくりと戻ってくる。


誰かの笑い声。風の音。通りすがりの靴音。


ただそれだけのことが、少しだけ眩しく感じる。


この牢獄にも、窓はあるのだ。


それに気づくだけで、息がしやすくなる。


きっと人は、完全に鈍くなることなんてできない。


どんなに慣れても、ふとした瞬間に胸が痛む。


その痛みが残っている限り、まだ人間でいられる。


だから、もう少しだけ、この世界に耳を傾けてみよう。


ヘッドホンをしていてもいい。外してもいい。


どちらでも、きっと希望はちゃんと。


そこにある。




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