悪役令嬢の母親として転生したけど、家族から冷遇されてるので、娘と一緒に全部ぶっ壊して幸せになります〜地味で無能なモブ妻? いいえ、前世スキルで家ごと改革してやります!〜
目が覚めた瞬間、頭が割れそうなほど痛かった。
「――うそ……ここ、ゲームの世界じゃん」
そう、私は転生してしまったのだ。しかもよりによって、乙女ゲーム『薔薇の運命はあなたと共に』に登場する、悪役令嬢リュシエルの母親――リリアーナに。
リリアーナ。地味で冴えない中年女性。夫からは見向きもされず、義母には日常的に侮蔑され、使用人からは無能扱い。最悪なのは娘のリュシエルで、彼女は悪役令嬢として破滅し、最終的には国外追放される。
私は、そんな没個性な“モブ母”に転生してしまったのだった。
「……でも、だから何?」
前世、私は事務処理能力最強の社畜OLだった。人間関係は地獄だったけど、業務だけは誰よりこなした。理不尽な上司にも無能な部下にも耐え、仕事の鬼と化して生きてきた。
今度は、私が環境を変える番だ。娘を救い、家を立て直し、夫と義母には後悔の海で溺れてもらう!
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まず、状況把握。
私の夫は貴族クラウディオ。見た目はいいけど、中身はただの浮気貴族。義母エレオノーラは、格式と血筋至上主義の老害。屋敷の使用人たちも、義母の影響で私を侮っている。
「これって、全部“組織の空気が腐ってる”ってやつね」
私は笑った。前世で何度も見てきたやつだ。下から変えるのは無理。だから、上から変える。
「――なら、まずはお金と情報」
私が屋敷の会計帳簿を調べ始めると、すぐに異常に気づいた。使用人の報酬が不自然に高い。しかも私の持ち金が不当に削られている。
「ふふ、なるほどね。家計、私が握るわ」
私は書類を整理し、夫の留守中に帳簿を義母に突き付けた。
「これは……何のつもりかしら?」
「横領の証拠です。ご安心ください。既に公証人に提出済みです」
義母の顔が一瞬で蒼白になった。
「お義母様の息のかかった使用人の不正会計、全て洗い出しました。今後、屋敷の財務は私が管理します」
「この、娘しか産めなかった分際でっ……」
「では、息子を産めなかった罪で家計を破壊しても許されると?」
静かに言うと、義母は口を閉じた。
こうして、義母の影響力は屋敷から一掃された。
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次は夫。帰宅早々、浮気相手と一緒にやってきた。
「リリアーナ、離婚しようと思う」
「そう。じゃあ訴訟の準備をしておくわ」
「えっ?」
「不貞行為による離婚申し立てで、慰謝料と娘の親権、それに領地の管理権を要求する。浮気相手との往復書簡も証拠として保全済みよ」
「そ、そんな……」
「ちなみに、爵位の継承には国王の裁可が必要。あなたの今後の出世にも関わるでしょうね」
私は淡々と言った。クラウディオは顔を真っ赤にし、浮気相手は泣き崩れた。
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こうして、私は“地味で無能なモブ母”から、“資産と実権を握った女主人”へと変貌した。
娘のリュシエルは、今では私の隣で笑っている。かつては歪んだ愛情で性格をこじらせた彼女も、母親の変化に気づき、徐々に変わっていった。
「お母様って……本当はすごい人なのね」
「当たり前でしょ。前世ではエクセルと社内政治で死闘してきたのよ」
「えくせる……?」
「いいの。将来、貴女が幸せになるために、今の私はあるの」
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――そして数年後。
「このたび、リュシエル嬢との婚約をお願いしたく……」
娘の前には、王太子がひざまずいていた。
「この子を……よろしくお願いします」
私は、堂々と微笑んだ。
モブ? それがどうした。私は娘と、自分自身の幸せのために、何でもやってやる。
この物語のヒロインは、娘だけじゃない。――母親だって、人生をやり直せる。いや、やり直してこそ、母である。