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第三話「王国の神官」

ヴェルザンディ大聖堂。美しい白い建物。中に入ると修道女たちと神父が一堂に

会していた。彼らはやって来た二人組を見る。


「お話はヴィンセント様から存じております。ルーチェ・ステラマリス様と

キース・プリムローズ様でよろしいですかな」

「はい。よろしくお願いします」


タルヴォス・フォーサイスという神父が大聖堂の代表を務める。好々爺という

第一印象。怪しい者として訝し気に見られるのでは、という懸念があったが

そこは先にヴィンセントが根回しをしてくれたらしい。自分は手を貸せないが、

代わりに頼れる二人組に依頼をしたので彼らを頼るようにと伝えられていた。

キースが顔を上げる。


「綺麗なステンドグラスが台無しだな」

「えぇ。大聖堂の自慢を破壊され、そして鍵も盗まれてしまいました」


真夜中、ステンドグラスを派手に破壊して不法侵入した盗人は女性だった。

修道女の中に目撃者がいるらしい。一人だけ異様にもじもじしている女性が

目に入った。彼女は何かを訴えたがっているように見えるが、タルヴォスと

目が合うとそそくさと何処かへ姿を消してしまった。彼女の存在はキースも

認知したらしい。


「タルヴォス神父、もう少し詳しい話を聞いてもよろしいでしょうか」

「え、えぇ、しかしながら…」


キースはルーチェに目配せする。彼女は首を小さく横に振る。息を吐く。

キースの双眸が赤い光を帯び、口を開く。


「“事件当日の事、色々聞きたいんだが”」

「―承知しました」


そそくさと逃げた修道女は外のベンチに腰掛けている。あの女性は他の修道女

よりも長くこの大聖堂にいたらしい。アリア・シャーウッドという名前。

彼女の隣にルーチェは座った。


「お嬢ちゃん、私の話を聞いてくれるかしら」


アリアは修道女として大聖堂にて働いているが、既婚者。タルヴォス神父は

それでも構わないとして許してくれた。今の彼はかつての姿など無いという。

どうやらアリアはルーチェにシンパシーを感じたという。


「王国の王女様に会えて、光栄だわ」

「え」


アリアは人差し指を口元にあてて、これは秘密にするように告げる。彼女は

ルーチェと同じく王国の出身者。好きな男と出会い、連邦に定住した。最中に

王国の消滅を耳にしたのだ。生存者はいないと聞いていたが、ルーチェの特徴と

名前は王族と同じ。思った通り、同じ国の出身者だったというわけだ。


「キースっていうのね。知ってるわ。みんな、彼の事を恐れていたけど私は

彼を孤独にさせてはいけないと思うの」


ルーチェは良く分からない。キースは何やら一人で背負うには大きく、そして

重過ぎる過去を抱えているらしい。処刑人などと揶揄されていたとか。寡黙で

冷静沈着な彼は自分のことを口にすることは無いだろう。

本題を切り出す。


「盗人の話ね。女性だったわよ。最近噂されてる紅姫という殺人鬼じゃないかしら」


紅姫と呼ばれる女性の殺人鬼。大量の返り血を浴びたその姿から呼ばれている。

無数の人間を夜な夜な殺しているとか。そんな人物が盗みを働いている。

偶然通りかかった軍人が追いかけたらしいが、彼女によって返り討ちにされた。

連邦軍としても見過ごせない犯罪者のはずだ。


黒犬の牙(バーゲストファング)に気を付けて。暗がりでも良く見えたわ。

その組織の構成員が身に着けるタトゥーがね」

「犯罪組織、ですか?」

「X機関の下部組織の一つよ。Xの三冠と呼ばれるうちの一つなの。連邦軍が

手を出せないのは所属している人間のせいかも」


連邦名家の一つ、アームストロング家。先々代当主より敷かれた絶対的な

実力至上主義。そして複数の嫁を娶り、多くの子を為したうえで選別の蠱毒を

するという。魔を捨て、力を得た一族だ。魔獣と子どもを戦わせたり、子ども

同士を戦わせたりするらしい。


「子ども同士を…」

「複数の嫁を娶り、多くの子を産む理由はそれね」


決着は死のみという環境と、弱者は全てを奪われるという思想が浸透している。

軍では無く裏社会に身を置くのは恐らくこれが理由だろう。つまり、彼らとの

戦いは避けられない可能性がある。


「私の話、聞いてくれる?お嬢ちゃん」


アリアは自分の胸に手を当て、微笑を見せた。


「私の旧姓はね、ガラバンダル。アリア・ガラバンダル、代々王族に仕える

神官の家の子。そして代々、初代女王より授けられた慈愛の運命を持つの」


女王は世界の根源たるオドに直接干渉、自身の魂を接続する力を持っている。

彼女たちの儀式を手助けする神官の一族がアリアの生まれたガラバンダル家。

アリアはルーチェの手を取った。


「私の出来る範囲で、貴方のことを手伝うわ。女の子同士、仲良くしましょうね」

「アリアさん…ありがとう」


そっと陰でキースは行く末を見ていた。何処かで見たような顔程度だったが

アリアが元は王国にいた人間、しかも王族に仕えていた神官の一族と知り

納得した。



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