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吸血鬼と狼女  作者: 松川スズム
序章
3/45

第三話 真実、そして決意

 翌日の満月の夜。

 私とエルゼはツクヨミタワーの屋上へ向かうため、階段を上っていた。

 ツクヨミタワーは高い山の上にあり、この街で一番月に近い建造物である。

 完全体になるには濃度の高い月の光が必要らしいので、おそらくロウガはここにいるだろう。


「エルゼ、本当にいいんだな?」

「心配するな、もう迷わない。これ以上被害が出る前にアタシらでケリをつけよう」

「……わかった」

 

 私たちは何事もなく屋上に到着した。

 そこには、背丈が三メートル以上ある獣人が仁王立ちしている。

 おそらく、やつが完全体になったロウガだろう。

 辺りに漂う濃いにおいも、やつと一致する。


「遅かったな。オレはもうとっくの昔に仕上がってるぜ?」

「兄貴、まだ理性が残っているなら聞いてくれ! アタシと一緒に逃げないか!? 今ならまだ――!」

「残念だったな、オレは今てめぇを食い殺したくてたまらねぇぜ!」


 ロウガは一直線にこちらに突進してくる。

 交渉は決裂だな。

 もし、私一人だったら力及ばずに殺されていただろう。

 だが、今は彼女がいる。


 突進したロウガを同じく獣人になったエルゼが受け止めた。

 私は事前の計画どおり距離を取ったあと、手を銃の形にして構える。

 そして、指先から自身の血液を続々と発射した。


「なんだ、そのちんけな能力は?」


 無事、ロウガの身体に血液が着弾する。

 ……ここまでは順調だな。


「何よそ見してるんだ? アタシを忘れるなよ!」


 狼女として覚醒したエルゼは、ロウガの巨体をものともせずに殴り飛ばす。

 今の彼女は私をはるかに超えている。

 時間稼ぎにはもってこいだ。

 私は引き続き血液をロウガの身体に着弾させ、エルゼはそのままロウガと殴り合いを続けた。

 やはり、理性がないせいなのか私の能力を軽視しているようだ。


「てめぇら、調子に乗るなよ!」


 ロウガは尻尾を複数生やし、それを巨大化させ勢いよく叩きつける。

 私は回避できたが、エルゼがモロに食らってしまった。

 彼女は衝撃に耐えられなかったのか、獣人状態が解除されて、人型に戻ってしまう。

 続けてロウガは巨大な爪の生えた腕を彼女に振り下ろす。

 まずい、まだ時間が足りない!

 ならば、最終手段をとるしかないようだ!


「まずはてめぇから死ね、エルゼ!」

「お兄ちゃんに……殺されるなら……それも……いいかもね」

「ぐがっ……!? お、おにぃ……だと? なんで、僕は妹を殺そうと……?」


 私はその一瞬の隙を見逃さなかった。

 懐から濃縮された血液の入った小瓶を取り出し、栓を口で開け、中身を一気に飲み干す。

 すると、全身に力がみなぎってくるのを感じ取る。

 そして、ロウガとの距離を一瞬で詰め、血を纏った手刀で胴体を切りつけた。

 しかし、切り傷は浅く、薄皮一枚切っただけだ。


「ドーピングしても、その程度かよ! 雑魚はさっさと死ね!」


 ロウガの巨大化させた左こぶしが目と鼻の先まで迫る。

 それに対して、こちらも血を纏った右こぶしを繰り出した。

 互いのこぶしがかち合い、その衝撃がツクヨミタワー全体を震動させる。


「馬鹿な!? 吸血鬼がここまでのパワーを出せるはずがねぇ!? いったい、てめぇは何者だ!?」

「前も言っただろう。答える義理はないと」


 ロウガは驚いているが、こっちはいっぱいいっぱいだ。

 事実、繰り出したこぶしから肩口までの骨は粉砕骨折している。

 まだか……!

 まだ効いてこないのか……!?


「じゃあ、これはどうだ!」


 ロウガは天高くのぼるほどの超巨大な尻尾を出現させ、それを振り下ろす。

 さすがにあれを食らったらまずい!


「ぐふっ……!」


 次の瞬間、ロウガは膝をついていた。

 巨大な尻尾も消えている。

 どうやら、なんとか間に合ったようだな。


「か、身体が動かねぇ……? いったい、なぜだ……!?」

「私の血液はな、お前のような異形に対して強い毒性を発揮するんだよ」

「計画どおりだな、アデル。あとはアタシに任せてくれ」


 ふらふらとした足取りで、エルゼがロウガの前に立つ。

 彼女はとどめを刺す気のようだ。


「ロウガ、いや、兄貴。あんたは大罪を犯した。だから、肉親であるアタシが責任を取る。だけど、信じてくれ、さっきの一緒に逃げようって言ったことも嘘じゃないんだ」

「エル……ゼ……?」

「やはり、君に兄殺しはふさわしくないな」


 エルゼの腹にこぶしをめり込ませる。

 不意打ちを食らった彼女は、その場に力なく倒れ込んだ。


「アデル……なんで……?」

「エルゼ、君には清廉潔白なままでいてほしいんだ。汚れるのは私だけでいい」

「すまんな……吸血鬼。最後まで……迷惑かけちまって」

「冥土の土産に私が何者か教えよう。私は吸血鬼(ヴァンピール)ではない。半吸血鬼(ダンピール)のアデルだ」

「へっ……そうかよ。覚えたぜ、てめぇの名」

「地獄でまた会おう、ロウガ。そして、すまない、エルゼ……」

「兄貴ィィィ!」


 私は最後の力を振り絞り、血を纏った手刀でロウガの首を躊躇なく切断した。

 泣き別れになった頭部と胴体は、石のように変化したあと、さらさらと砂となって消えていく。

 すると突然、目の前に翁の面をかぶった老人のような人物が現れた。

 においからして、この人物も狼人間のようだ。


「ロウガは逝ったか。ご助力感謝する」

「長老!?」

「エルゼよ、お前は約束を反故にしたな。直接その手で殺す約束だったはずだ」

「も、申し訳ありません……」

「エルゼよ、お前を一族から追放する。どこへでも行くといい」

「……それが掟なら従います」

「ではご老人、彼女を私の眷属にしても構いませんか?」

「はぁ!?」

「……好きにするといい」


 老人は屋上から飛び降りて姿を眩ました。

 ……やっと、終わったな。

 しばらくエルゼとの諍いはあるかもしれないが、いつかは和解してみせよう。

 たとえ、長い時間が経とうとも……。

 私はその場に大の字で横になり、しばらく心地の良い月の光を身体中に浴び続けた。







「いやぁ~、やっとここに来れたよ。あんたたちには迷惑をかけたねぇ」


 ロウガ討伐後、シノさんは意識を取り戻した。

 約一か月間のリハビリを経て退院し、すぐに喫茶店(ここ)を訪れたのである。

 もちろん、それまでにエルゼとも無事和解し、仲直りができた。

 壮絶な殴り合いと口喧嘩の末にな……。


「退院おめでとうございます。こちらこそ――」

「ごめん、シノ! 全部アタシのせいなんだ!」


 メイド服姿のエルゼは、泣きながらシノさんに謝罪をした。

 それから、その大きな身体で小柄なシノさんにハグをする。


「エルちゃんはかわいいねぇ。でも、ちょっと力が強すぎるよ、いてて……」

「ご、ごめん、シノ!」

「それはそうと、なんでエルちゃんはメイド服を着てるんだい?」

「彼女には住み込みで働いてもらうことにしたんだ」

「へぇ、そりゃどうしてだい?」

「今回の件でシノさんには多大な迷惑をかけた。お詫びとして、シノさん限定で食事代を永久無料にさせてもらう。その分かかるお金は、エルゼに身体で支払ってもらう契約を交わしたんだ」

「身体で支払うだって? なんだかいかがわしい関係のにおいがするねぇ」

「ア、アタシはまだそんなつもりはないぞ!」

「まだ? じゃあ、いつかはあるのかい?」

「そ、そういうわけじゃ――」

「ちょっと外の空気を吸ってくる。エルゼはシノさんと一緒に、冷蔵庫にある特製ケーキでも食べててくれ」


 茶番を回避するためにいったん外に出る。

 すると、玄関の脇に手紙が置いてあることに気づいた。

 このにおい、まさか狼人間からの手紙か?

 手紙を開封して読んでみると、差出人はロウガの亡き妻の妹からだった。

 そこには謝罪の言葉と、とある衝撃的な内容が書かれていたのである。


 なんでも今回の事件の原因は長老にあるらしい。

 ロウガは一族で一番真面目で優秀な狼男であったが、その優秀さゆえに長老は反逆を危惧していたようだ。

 なんとかロウガを排除したかった長老は、病気がちな孫娘の一人を嫁がせた。

 そして、孫娘と共食いの共謀をして、ロウガを強制的に排除したというのだ。

 しかもそれだけでなく、ついでに忌み子であるエルゼの存在も抹消しようとしていたらしい。

 

 その吐き気を催すほどの内容に、思わず怒りが込み上げてくる。

 あの老害め、次に会ったら必ず八つ裂きにしてやるぞ……。

 不意にエルゼのことが心配になり、急いで店内に戻る。


「お、早かったな、アデ――」


 私は力いっぱいエルゼを抱きしめた。

 もうどこにも行かないように。


「エルゼ、君はいつまでもここにいていいんだ。いや、私のためにずっとここにいてくれないか?」

「お、おい、アデル!? まだシノがいるんだぞ!?」

「あらあら、邪魔者は帰ったほうがよさそうかしらね~?」

「いや、ここにいてくれ! じゃないと、アタシの心臓がもたない!」


 手紙の内容は墓まで持っていく。

 私はそう決意してエルゼを抱きしめ続けた。

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