扇風機
三題噺もどき―よんひゃくごじゅうご。
物置の扉を開くと、少しヒヤリとした空気が流れ出た。
たいした広さもない物置だが、それなりに……。
箱やら何やらが詰め込まれている。
「……」
数か月前に片付けたはずなんだが……それでもこの量とは。
やはり、もう少しものを減らさないといけないのか。
しかし、ここに残っている箱の中身はほとんどが本なのであまりそういう気になれない。
それ以外のものなら、割と簡単に断捨離できるのだけど……本だけはどうしても捨てるに捨てられずに溜まっていく。
「……」
今年に入ってから時間ができたこともあって、この辺りの本も読むようになってきたのも拍車をかけて捨てられずにいる。
ここにあるものだけでなくても、新しく購入するので増える一方である。
「……」
まぁ、片づけはそのうちするとして。
今日は別のモノを出そうと思って物置を開いたのだ。
……こういう物置ってどうしてこんなにひんやりとしているんだろうな。確かに陽は入らないが、それにしても冷えすぎな気がする。案外そういうものがいるのかもしれないよなこういう所。いやまぁ、そういうことでもないんだろうけど。
「……」
それはどうでもいいのだ。
暗所は涼しいと相場が決まっている、というだけの話だ。
いっそこのまま、ここで過ごしてもいいぐらいに涼しいが、こう暗いと本も読めない。
目的のものを取り出さなくては。
片付けした時に手前の方に出したと思うんだが……。
「んー……」
―ぁ。あった。
もう少し手前に出しとくんだったな。
奥まったところにあったその箱を―箱入りの扇風機を引っ張り出す。
たいした重さのものではないが、確かにある重さが少々手間取る。
「……っしょ」
この扇風機は過去に妹が持ってきたものだ。
自分ではもう使わないからといって、半ば押し付けるようにして置いていった。
まぁ、子供がいると手を入れたりして危ないのもあるんだろう。
私も幼い頃はそういう好奇心があった―ハズ。
「……」
箱の上蓋をあけ、中身を確認する。
こういう家電の箱なんて大きくてじゃまだから、そうそうに捨てそうなものだが。
このままとっていたあたり変な几帳面さを持つ妹らしい。
私ならすぐに捨てる。電子レンジの箱とか、家具の箱とか、邪魔でしかないだろうあんなもの……。もっと小さな箱でもすぐに捨てるのに。
「……」
まぁ、これはこれで、本体にホコリが被らないからいいのかもしれない。
物置とは言え、たまにホコリがいたりするからな。
箱の中に手を突っ込み、持ち手を掴む。
そのまま、ズーと、扇風機を取り出し、床に置く。
コードは綺麗に巻かれて、引っかけられていたので床に落ちることはない。
「……」
矯めつ眇めつ……汚れていないことをなんとなく確認。
箱は直して、物置の扉を閉じる。
この箱もつぶしてしまっていいのだけど……なんとなく。強引とは言え、貰い物なので少々気が引けた。
「……」
扇風機を手に持ち直し、リビングへと持っていく。
……ん、さっきはさほど汚れているように見えなかったが……ちょっと軽く拭いておくか。
そのあたりに置いていたウェットティッシュヲ引っ張り出し、拭いていく。
「……」
蓋を外し、羽も拭いておく。
ついでなので、他も全体的に拭きとっていく。
そこまでひどいものでもないが、ま、綺麗に使えることはいいことだ。
「……」
実のところ、まだ扇風機を使う予定はなかったのだ。
クーラーはついているし、窓を開ければ風が入ってくる。
しかしまぁ、最近の暑さは異常すぎる。今はまだクーラーをつけるほどでもないが、今後がどうなる事やら。
「……」
そうだとしても、クーラーは苦手なので極力つけないようにしているのだけど。
そこでまぁ、窓を開けていたのだが。
……最近風が強すぎるのだ。
なんというか、家の中で小さな嵐でも起こったのかという感じで。
部屋の中がめちゃくちゃになってしまう。
―そこで扇風機を思い出したのだ。
「……よし」
コードをほどき、先をコンセントに指し込む。
弱のボタンを押すと、やわやわとした扇風機の風が頬を撫でる。
髪が少し煽られ、くすぐったい。
「……」
ポチポチとボタンを押しながら、動作確認をする。
特に問題はなさそうなので、今年はこれで行こう。
これだけでは涼をとるのが難しいかもしれないが、その時はその時。
何かしらの対策を考えよう。
「……はぁ」
柔らかくて、優しい風が。
さらりとなでる。
束の間の安らぎを。
一人で静かに。
お題:扇風機の風・箱入り・過去




