最悪の始まり
土砂降りの雨が降り、空には雷鳴が鳴り響く中、私は一人で夜の暗い森の中を彷徨っていた。
身に着けている服はボロボロ、肌は冷たい雨に打たれ白くなり、身体はアザと切り傷だらけで、今にも倒れそうな状態だった。
「はぁ……はぁ……」
歩くたび足に激痛が走り、傷口からは血が流れ、確実に自分に死が近づいているのを感じた。
「何故……こうなった……」
あまりの理不尽に、思わず口から弱音が漏れた。
きっとこの姿を誰かが見たら、相手から哀れに思われることだろう。
それ程に、今の自分は無様だった。
もしも、こうなった理由を聞かれたら、私はきっとこう答えるだろう。
”無策で敵に挑んだ結果” だと。
そして、残っているのは名前だけ。
全てを失いし者、名は ”ルーシー”。
それが私だ。
思えば、私は何かを得ることよりも、失うことの方が圧倒的に多かった。
最初に失ったのは、故郷だった。
今でも、その光景は鮮明に脳裏に焼き付いている。
辺り一面が炎に包まれ、あちこちで聞こえる悲鳴や助けを求める声、そこへ追い討ちをかけるように襲いかかってくる無数の魔物。
傷つき血が流れ、それが地面に広がり、徐々に人の声が聞こえなくなり、最後は一人。
あれは、忘れたくとも忘れられない、まさに悪夢のような光景だった。
いつの時代も、弱者は理不尽な力によって大切なものを奪われる。
それが自然の摂理と言う者もいるだろう。
だが、私にとっては本当に……理不尽で決して受け入れられない、酷い話だ。
思い出すだけで吐き気がする。
「認めない……認めるものか……」
どれだけ絶望しようと、どんなに願ったとしても、現実は何も変わらな。
だがそれでも、歩みを止めるわけにはいかない。
何故なら、私は知ってしまった。
世界にこれから何が起き、どうゆう状況に陥るのか、過去に起きた悲劇が誰の仕業で、なぜ多くの命が奪われたのか。
それに何より、もうこの憎しみを消す事が出来ない。
いつの事だか忘れてしまったが、誰かに言われた事がある。
”憎しみを抱いてはいけない” と。
だがもう遅い、私は決めてしまった。
この理不尽が溢れる世界、そんな世界を自分達の都合のいいように裏で動かしている ”奴ら” を滅ぼすと。
「動け………死ぬのは全てを終わらせてからだ」
そう自分に言い聞かせ、私は止まりそうな足を動かし続けた。
魔法と呪いが存在し、人と異種族の命で溢れるこの世界、私が行き着く先に待っているのは、おそらく良い結末ではないだろう。
だが、少なくとも爪痕ぐらいは残せると思っている。
なぜなら、あの方々ですら、私の息の根を止めることができなかったのだから。