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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
ゴート宙区へ

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剣王孫の証明(2)

 ブラッドバウのアームドスキンは固定型の重力波(グラビティ)フィンで統一されている。パシュランやルシエルのように元々プラズマジェット型で設計された機体は一枚の固定フィンになっていた。

 ラキエルも同系統機として固定フィンではあるが、二対の重力波(グラビティ)フィンを有している。背部のモジュールに干渉しないように若干窮屈な配置になっているか。


(戦術的に機動性を重視してない所為もあるだろうけど)

 宇宙を駆けるラキエルを見ながらジュネは思う。


 対する彼のトリオントライは完全に機動性偏重型。重力波(グラビティ)フィン全てが支持架(アーム)に備えられており、必要に応じて重力場発生位置を絶妙に制御している。


「譲ろうか?」

「いい。いつもの感じで」


 初めて宇宙(そと)で動かした自機に慣れる時間を与えるつもりだったが拒まれた。いつもどおりの、なんとなくの呼吸で模擬戦を始めるよう求めてくる。


(ということは感触は悪くないか。同系統のルシエルにもしっかり触れてたんだから、そう変わらないと思うべき。すると、どこに差が出てるんだろうね)


 言うまでもなく四基のモジュールが要だろうが機能が読めない。見た目どおりの砲塔だとは思えない。


モジュール(あれ)には気をつけて。とんでもないものよ』

 珍しくマチュアまでが警告してくる。

「だろうね。でも、彼女の適性を思うと普通のビーム兵器じゃないはずだね」

『正解。どこまで使えるかわからないから正体までは明かさないけど』

「いきなり使えるような代物じゃないと? 普通の人ならばって前提がくるんだろうけどさ」


 ショルダーユニットのモジュールが回転する。開口部をジュネへと向けてきた。背中のモジュールも支持架(アーム)で持ちあげられると指向してくる。


「来るかな」


 青白いビームが走る。収束度が高めと思われる小口径のもの。弾幕と呼べるほどではない。


(これは誘いだろうね。縫って入り込みたくなる)

 砲塔そのものが重そうなだけに余計に感じる。

(ここは乗っておかないとね。本当の機能を見せてもらわないと対処のしようもない)


 一応は牽制の一射を交えてリリエルを動かしておく。体勢を整えられたままで行くのはあまりに露骨。冷静な状態の本気を見たいのだ。


「ぬるいよ」

「こんなんで遠ざけられるなんて思ってない」


 双剣を抜いた彼女の間合いに入る。大振りなブレードグリップからは12mはありそうな剣身が現れた。パワーはルシエルとは比較になりそうにない。


「見せてくれないならね」

「安心して。しっかりと刻みつけてあげる」


 剣闘開幕の突きを右手のブレードで擦りあげる。力場干渉の紫電が紫と朱色(バーミリオン)の装甲を反射して彩った。

 くるりと回転したラキエルが放つ横薙ぎも読んでいる。いつもの彼女の剣筋である。力任せに押し止めれば左の砲口を避けるために回避機動を掛けるしかない。


「っと!」

「躱すの。灯りを読まれてるのね」


 ビームランチャーを突きつけることができなかった。肩のモジュールが回転したからだ。先端には当然ブレードが発生していた。


(やっぱりね。これは砲塔なんかじゃない。三本目の腕に近い)


 本来の腕ほどの可動域はないにしても畳み掛けるのは可能。回転トルクを持つブレードが次々とトリオントライの装甲近くをかすめていく。


「弾いても意味がないか。間合いの奥にもう一段危険域があるんだね」

「初手でビームランチャー一基もらっておこうと思ったのに」


 そう言いながら仕掛けてくる。本来の腕のブレードが跳ねてきた。半身になりながら躱し、もう一本をブレードで受ける。


「まだよ」

「そう来るよね」


 背中のモジュールにもブレードが生まれ、二方向からの突きが落ちてくる。堪らず加速して離れた。普通の視界しか持っていなかったら今ので串刺しだ。

 ビームを二射交えるが追撃を止める意図しかない。一対一で戦気眼(せんきがん)を持つリリエルに当てるなど不可能に近い。


(近づかないと勝負にならない。ところが、そこは彼女の領域ときてる)


 双剣を相手にしているうちはやり過ごしようもあった。剣闘テクニックでは劣るものの、パワーと読みで隙を作ることも可能だったのだ。


(でも重くもなってる。こうも動かないでは対多数で包囲されると難しくないかな?)


 二基のモジュールは砲塔としても機能する。可動域も持つのだから360°全天をフォローできるのも間違いない。しかし、リリエルの目が増えているのではない。


(戦気の起点を見るにしても数が一定を超えれば対処しきれなくなるんじゃないかな? 探りを入れてみようか)


 ジュネは接近するのをやめた。移動しては狙撃、また移動しては狙撃をくり返す。そして、そのテンポを徐々に速めていった。まるで多数を相手にしているように感じるはずである。


「フランカー!」


 リリエルがモジュールに攻撃意思を伝えるように吠える。彼女のようなタイプだと口に出すのはσ(シグマ)・ルーンの命令信号を強める方向に作用するのだ。そのモジュールは『フランカー』という名前らしい。


(腕以外の両サイドや背後を固める攻撃モジュールだからフランカーね。確か前にアームドスキン目録にそんな武装を搭載した機体もあったな)


 あまり気にしていなかった。基本的に大口径の固定武装や特殊機能を兼ね備えた砲塔だったからだ。スピード重視の彼のスタイルとは少し異なる。


「それにしても、ね」

「案外甘くないでしょ?」


 リリエルの戦気眼(せんきがん)と合わせるといささか厄介であると認める。直撃するはずのビームが迎撃されている。完全に意識スイッチによる操作と思われるフランカーの照準は逆に正確だった。ビーム同士の干渉爆球が重なる。


「それだけじゃないんだから!」


 紡錘形のフランカーの尾端に重力波(グラビティ)フィンが発生した。ラキエルが急加速する。それぞれが端子突起(ターミナルエッジ)まで備えているので、八枚翅のアームドスキンといっても過言ではなかろう。


「ぼくのお株を奪う気かい?」

「近づいてきてくれないなら、こっちから抱きつきにいくまでよ」

「それは致命的な抱擁になりそうだね」


 反転して背向飛行になりフィン支持架(アーム)を前にかざす。推進用重力場をトリオントライの前に持っていってビームを微妙に歪曲させる。直撃するものはフィンそのもので拡散させた。


「どこまで逃げつづけるの?」

「追われれば逃げたくなるのも心理じゃないかな?」

「それなら足の速いほうが有利かしら」


 トリオントライと同等の加速を示すラキエル。フランカーを偏向させることで旋回性能も上がっている様子。


(それでも機動性に関しては若干のリードがあるかな。この一手で詰め切るのは無理だよ、エル)


 急減速してラキエルを待つ。剣の間合いに入る寸前で上にバックロールをする。完全に背後を取った。


「どう?」

「まだまだぁー!」

「そうくるか」


 彼はビームランチャーで背後から照準している。背中のフランカーがブレードをクロスしてその一射を受けた。

 肩のフランカーが後ろ向きに斉射。リフレクタで防ぐ。その向こうで先端から展開したブレードが横向きになっている。


「腕と変わらないってこと?」

「お解り?」


 フランカーのブレードは真っ直ぐだけではなく自在に動くようだ。先端全面を全てサポートして薙ぎのアクションまでしてくる。ラキエルの背中と剣闘するという奇妙な構図。


(これは上半身全方向でブレードアクションができるってわけだね)

 リリエル向きな機体なのは確かである。

(でも、それだけじゃ終わらない違和感がある。なんだ?)


 ラキエルの全身を見る。ゼキュランに有ってラキエルに無いもの。腰のビークランチャーはないので拡散ビームは使用できない。


(腕のクロウ機構もない。伸長するブレードは切り札の一つだったはず。それを省略する理由はなに?)


 ジュネはその違いを不気味に感じていた。

次回『剣王孫の証明(3)』 「食らいついていくから、ジュネ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 まぁ剣王の系譜だし、剣を使わないと、ね?
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