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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
緑の暁

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ヴァラージ対策会議(1)

 情報が足りず戦略面では個別対処しか方策がないが、ヴァラージだけでも荷が重いのが実情。ハリジュギーネに集まった面々もまずは具体的な対処法を考えねばならない。


(エルシたちが真剣に調べてるのにこれだけ尻尾を掴ませないってことは、タンタルの技術水準も同程度なのよね)

 事態を難しくしているのはその一点に尽きるとリリエルは思っている。


時空間復帰(タッチダウン)してきたって言った? 遭難船と勘違いしたってことは船そのものに違和感はなかったってことよね?」

「ええ、そうです。実際に残骸を分析掛けてみたところ、八年前に強奪された航宙船でした」

 副長が教えてくれる。


 手繰る糸として一番容易で確実なところ。移動方法である。

 ヴァラージ単体に超光速で時空間移動する能力がない以上、なんらかの移動手段が必須。それが初めて判明した事例でもある。


「八年前に強奪。それを巣にしてたってことかしら」

「いえ、どうやら違うようです。実は行方がわからなくなる経緯も判明しています。賊が使用していたというのも当方で捜査中でした」


 偽の識別信号(シグナル)を登録して各所で補給を受けていた線が濃厚なのだそうだ。つまり裏社会の組織が輸送船を強奪し、他の輸送船を襲うのに再利用していたという。


「強奪品を捌くのにも表社会へのルートが必要。宙賊だけで成り立つものでもありません」

「そうよね」

 大気圏内のようにどうにかして飢えをしのぐ方法はない。

「大々的に食料プラントを備えた拠点なんて構えようものなら、あなた方が見逃したりはしないでしょうし」

「はい、足がつくものです」

「その気配がなかったっていうのは表とも繋がってたってこと」


 別名義で登録して表の社会を闊歩しつつ、裏では賊に身をやつしている事例など枚挙に暇がない。実際にジュネとそういう組織を大元から検挙したことが何度かある。


「つまり、そっちの連中が寝蔵にしていたところがヴァラージに襲われて食い散らかされた挙げ句に足にされたってわけ? 報いっていえばそれまでなんだけど」

 冷淡に言う。

「やめてあげなよ。一応は罪を償う権利くらいは持ってるんだからさ」

「抵抗すれば容赦しないし」

「それでもいいけど」

 ジュネは苦笑い。

「問題はハイパーネットの輪から半分外れてるような輩を利用しているところ。移動手段から奴を手繰っていくのは困難かもしれないって点だね」

「無理じゃないけど難しくされてる」

「違法組織を一掃すれば洗いだせるかもしれないけど事実上無理」


 星間銀河圏はあまりに広大で、国家ごとに犯罪組織の一つふたつ、場合によっては十や二十は抱えている。それを全て検挙するのは不可能といえる。


(人類の愚かさを嘲笑うような手口。いったいどっちが正義なんだか)

 皮肉に思える。


「痛いとこを突いてくるなぁ」

 青年は悩ましげだ。

「囮を泳がせて餌に掛かるのを待つ手もあるけど、それを容認できるほど割り切れないんだよね。苦しむ人を見逃せない」

「いいの、ジュネは。それができないから『ジャスティウイング』のコードネームも受け入れられるんでしょ?」

「逃げ道を作ってくれるね。より多くを救える可能性もあるのにさ」

 彼でも葛藤するのだろうか。

「どうせ確実性は低いわね。待ちの一手に賭けられるほど手広く餌を撒くくらいなら順に潰して手詰まりを狙ったほうが早いでしょう?」

「ドラーダにまで言われたら退くしかないか。そもそも司法(ジャッジ)巡察官(インスペクター)が星間法違反を黙認するような作戦をすべきじゃないだろうし」

「正攻法が最短の場合もあるって先生が言ってた」

 フユキの意見に「一理あるね」とジュネも応じた。


 道筋もなく、ただ闇雲に追いかけるのは彼のやり方にそぐわないだろう。しかし、目論見を潰していれば挑発になるとリリエルは思っている。そちらが近道だと何回かは説得したことがある。


「態勢を整えれば窮屈に感じてくるはずよ。もっと建設的にいきましょ?」

 具体的な対策案に踏み込むべきだと誘う。

「君の言うとおりだ。ぼくの中の焦りが言わせたんだろうね。ごめん」

「謝ることはないわ。今までが君の双肩に負担を掛けすぎていたのね。わたしたちの不甲斐なさの所為」

「気楽にいきやしょう。と言っても、あっしに案があるわけではないでやすが」

 タッターが場を軽くする。

「それについてはちょっと考えてることがある。戦闘映像を見せてもらったのは確認したい意味もあったんだ」

「そうなのかい?」

「うん、設計図を見た段階で思うところがあったんでね」


 ジュネはアンチVランチャーについて言及をはじめる。投影パネルの一枚にランチャーのモデルを映しだすと皆の中心にスワイプして飛ばした。


「オプションという設計思想でこういう形にしたんだろうけどさ」

 どのアームドスキンにもある各部ラッチに適合する仕様になっている。

「やっぱり重い。これじゃ機動性を犠牲にして火力を維持しているようなもの。この武器が決定打ではないとわかっているからこその設計なのかもしれないけど」

「それもあるでしょう。でも、それだけじゃないとも思うわ」

「なにかな?」

 オルドラダの意見に注意が集まる。

「おそらく設計者が物理弾頭というのに慣れていない所為もあるんじゃない?」

「なるほど。確かに」

「半ば旧時代の遺物という意識しかないかも。実用レベルの物理弾頭って消火用の発泡弾くらいかしら」


 武器としての物理弾頭というのは廃れて久しい。それも自動照準型の対物レーザーが質、量ともに充実しているから。簡単に迎撃されるものをばら撒くのは様々な意味で無駄でしかない。


「弾体そのもののサイズも大きすぎるような気がする」

 青年は疑問を口にする。

「それに関しては意見上申をしたわ。もっと小型化できないかって。効果確認できてない試作品扱いだから使用薬液を多めに設定してるって返されてしまったけど」

「考え方が実験室レベルのなのはいただけないね。ぼくからも意見しておくよ。たぶんプリヴェーラ博士は具体的な数値を提示していたはずだし」

「ええ、実験には『剣』ユニットが協力してたって情報」

 縁深い『剣』が試料の入手など行っていたらしい。

「そのうえでもっと装備方法があると思ってる。例えば、ビームランチャーにアンチV発射機能を持たせる方法。それなら若干重くなる程度で済むんじゃなかと。予備弾頭の携行も楽になるはずだよ」

「そりゃいい。今のランチャーは装填数が両側合わせても六発。駄目だとわかっていても使い渋りたくなる」

「つい決定期を待ちたくなるのがパイロット心理ってものだ」


 ナージー隊長に続いて僚艦の隊長も同意する。現場の意識というものを十分に理解している面々である。


「戦術的にも数をばら撒けるほうが正解よね。ブラッドバウ(うち)の設計士にやらせてみる?」

 提案をしてみるが苦笑を返される。

「遠慮してくれる? 星間管理局開発部の沽券に関わるからさ。使用液量の見直しさせて弾頭設計はやらせる。規格出させるからブラッドバウ仕様のビームランチャーの開発のほうは任せるよ」

「仕方ないわね。まず今の弾頭での効果確認が先に来る感じ?」

「待てない。並行して進めてもらう。いや、基礎設計はこっちでやろうか。マチュア、そのへんはどう考えてる?」

 ジュネは自分の伝手を使うつもりだ。

『一番詳しいノルデの意見を鑑みてやってあるわよ。最小サイズと多弾頭タイプと射程の短いスプレータイプ。どれがいい?』

「多弾頭は重くなるだけ。スプレーはリスキー。最小サイズだけでいいや」

『じゃあ、これ。開発部にまわしておきなさい』

 簡単に設計図が出てくる。


 リリエルはとりあえず規格部分を詰められないか尋ねた。

次回『ヴァラージ対策会議(2)』 「打開した人物もいる。彼女だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 ゲームでエリクサー使わない現象。
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