特応隊(1)
『時空間復帰反応。予定どおりの時間です』
システムの告知。
「来たわよ、『翼』が」
「あれですか。これはまた見事に朱色カラーですな」
「自信の表れみたいのものじゃない?」
フォーゲル艦長とアームドスキン隊長のサーギーが話している。少女も通信士ブースのパネルではなく、珍しく透明金属窓の向こう側に目を奪われていた。そこには獰猛な肉食魚のような扁平なボディを持ち、なおかつ鮮やかに彩色された戦闘艦が虹色の転移フィールドを消すところ。
「すご……」
思わずこぼしてしまう。
「びっくりした? 最近こっち界隈じゃかなり有名になってきたと思うわよ?」
「え、でも、あんなの初めて見たら驚いちゃいますよ」
「まだまだ。中身のほうがもっと驚かせてくれるわ。覚悟してなさい」
少女はただの通信士、それも一番若手のペーペーである。それなのに艦長は目を掛けてくれていた。便宜的に「艦長」と呼んでいるが、彼女オルドラダ・フォーゲルが二隻編成の特殊対応部隊長なのにだ。
「中身も特別製ってわけですかい。なんせ本場のゴート宙区の人間ばかりなんでしょう?」
サーギーも興味津々である。
「そうよ。搭載機もパイロットの腕も桁違いだと思っていいわ。そこに彼が頭で座ってるんだから無類の戦力よ」
「どれほどのもんか想像もできないんですけどね」
「いつも言ってるみたいに、特応隊と同じ編成が三つは要る。それを全部合わせて『翼』とか『剣』にようやく並べるかどうかってところ」
サーギーは理解に苦しんでいるようだが少女にはなんとなく想像がつく。そういう存在というのはあるものなのだ。彼女の脳裏には緑色の船体が浮かんでいた。
(怖いような楽しみのような)
少女はおもむろに接近してくる戦闘艦を眺めていた。
◇ ◇ ◇
「いたいた。あれよね?」
リリエルは行儀悪く艦長ブースにお尻を乗せたままで指差す。
「そうみたいでやんす。識別信号『ハリジュギーネ』と『ベリスギーネ』。表示は星間平和維持軍特務隊になってやすが、例の特応隊で間違いないでやんしょう」
「ぼくの解除コード使えば本当のスペックまで出るけど、今から行くから必要ないよね?」
「要らないでやんす。じゃ、行きやすか。頼むでやんすよ、ヴィー」
ヴィエンタが「承知しました」と答えている。
移乗するのはリリエルとジュネ、艦長としてタッターと彼女の副官ヴィエンタの四人で向かう。ゼレイがごねていたが、そのうち交流することもあるだろう。
「地味だけど最新鋭艦ね」
「うん、かなり力を入れて開発したみたい。ぼくも初めて見るけど」
オリーブドラブの二隻は同型艦であるが、ハリジュギーネのほうが若干鮮やかなカラーリングが施されていた。そちらが旗艦だという主張なのだろう。
戦闘艦はアームドスキンほど量産されるわけではないので一隻ごとにかなりアレンジされる。機能ブロックの組み合わせと配置、それを繋ぎ合わせる自動設計システム。使用者の多少の意見を反映させることでデザインも多様化する。
「アームドスキンも新型が導入されてるって聞いたし、パイロットのほうもかなり厳選されてるみたいだよ」
「面白いじゃない。楽しみになってきた」
ナビに従って艦首方向にあるメインハッチから着艦する。薄く発光する空気カーテンをくぐると待ち構えていたように多くの視線が突き刺さった。
(普通に見えるけど。まあ、機体格納庫の光景なんてどこも代わり映えしないものよね)
レイクロラナンと違うところといえば整備士用の作業アームが天井から何本も吊り下がっているところ。ハーネスに固定された要員が機体の各所に張り付いていた。
「これがゼスタロンか。実物は初めて見たよ」
「噂になってた新型ってわけね」
「うん。コムファンⅡのフィードバックを使って総合的にチューニングされたシュトロンタイプの正統後継機だってさ」
コムファンⅡそのものが、「ザザの狼」が使っていた協定機レギ・ファングの量産用グレードダウン機。だから『コモン・ファング』略して『コムファン』と命名されている。
しかし、急いで導入したためにメンテナンス上の問題点は多々残っており、整備士泣かせの機体になっていた。それゆえに大量生産および配備が難しかったアームドスキン。
(その欠点を克服して一新しようっていう気概で開発されたのがこいつなわけ?)
オリーブドラブで統一された機体が並んでいる。威圧感というものも意識はされているようだが、どちらかといえば機能性重視なフォルムをしていた。汎用型という印象が強い。
「うちみたいにパワータイプ、スピードタイプって区別して開発するほど技術的に追い付いていないのかしら?」
つい勝ち誇ってしまう。
「それよりはメンテナンス性重視って話だね。換装パーツや生産ラインの部分もあるし、なにより追い付いてないのはメカニックの養成みたい」
「あー、なるほど。そっちばかりは一朝一夕ってわけにはいかないものね」
「専門職の人口は多くても、アームドスキンみたいな特殊機械は理解に時間を取られてしまう。命が懸かっているだけに中途半端な人間を使うわけにはいかないって」
環境が違う。町工場にだってアームドスキンが屹立し、子供の頃から触れられるゴート宙区と、調整の知識があるだけで引っ張り蛸になってしまう星間銀河圏では事情が異なる。
「あっちの空きスペースらしいよ」
「はーい」
機体格納庫など煩雑のものだが、わざわざスペースを空けておいてくれたらしい。そこでゼキュランに降着姿勢を取らせると足下マグネットを効かせて仮固定する。
「ご足労感謝いたします」
綺麗な敬礼をした男がメッシュフロアで待っていた。
「ありがとう。上かしら?」
「はい、艦長がお待ちになっています」
「じゃあ、軽く見せてもらってから上がろうか」
(あら?)
ジュネらしくないことを言う。
(なにか気になってる?)
脱いだヘルメットを腰裏に引っ掛けてから表情をうかがう。光を映さない瞳が他人への配慮を忘れて動かないのは彼特有の目で全体を見ているときだ。
「チチチ……」
リリエルの意識にあの音が流れる。ジュネがなにかに興味を惹かれている。詳細に探ろうとするときに察知できるほどに高まる音。
「ゼスタロンは初めてですよね?」
「ええ、いい仕上がりみたいですね」
副長を名乗った男に答えている。
「作業効率は上がっています。パイロットの評判も概ね良い。試験導入の頃は色々と苦労させられましたが」
「そういうものですよ、特に量産機というのは。良品機の中にも超抜とそこそこの物が混じる。しかも並べてみても原因がわからないことのほうが多い。それをどうにかするのがメカニックの腕ですからね」
「ええ、彼らはよくやってくれています。異常とも思える艦長のコネクションが今の部隊を支えてくれているのです」
(ここもGPFっぽさがないのね。一個人の裁量で成立してるみたいに聞こえる。そんな泥臭い機関じゃないって思ってたんだけど)
意外な点が多い。さすがジュネの好奇心をくすぐるだけのことはあると思える。その最たるものが一番奥まった所で待っていた。
(え、この感触?)
整備柱から身を躍らせてゆっくりと落ちてくる人影。少年のフォルムを持つフィットスキンから放たれる気配は彼女もよく知っているもの。焦げ茶色の癖っ毛をなびかせながら彼らの前に舞い降りた。
「やあ、君だね。ぼくはジュネ・クレギノーツ」
自分から名乗っている。
「『翼』の人?」
「そうだよ」
「ぼく、フユキ・メユラ」
少年のはにかむような微笑みをリリエルは凝視していた。
次回『特応隊(2)』 「そう呼ばれたことある。わかる?」




