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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
剣王孫の憂鬱
25/216

謀られし演習宙域(4)

「誰だ? 部隊回線にまで」

「答えられないさ。だってスパイなんだよ、演習内容的には」


 ターナ(ミスト)を用い、遠距離での電波レーダー使用を阻害された演習宙域では短い距離でしか通信はできない。しかも、リランティラ軍が使用する部隊回線周波数まで暴かれて割り込まれている。


「当艦にも偵察機を付けていたか。いつから?」

 全く気づかなかった。

「それはいい。近いぞ。見つけだして撃破しろ」


 特務艦艦長は命じる。電波の通りが悪いからこそ場所は特定しやすい。距離による強度の変化が著しいからだ。


(詰めが甘かったな。なにも言わずに攻撃していれば効果的だったものを)


「発信源を特定しました」

 予想どおり早い。

「可能なら鹵獲せよ」

「画像入ります。これは……発信機です!」

「む?」


 浮遊する氷塊に電波発信機が取り付けられている。そこから傍受と発信を行っていたのだった。


「レーザー通信型。特定できないか」

「曖昧な方向だけしかわかりません」


(それは向こうも同じこと。脅威ではないな)

 彼らの挙動を遅らせるのだけが目的か。

(小賢しい)


 アームドスキン隊は目標にならない。リング内にいれば電波、光学観測ともに短距離しか意味をなさない。


『高熱源反応。狙撃来ます』

 システムが警告を発する。

「当たらん。狙点解析」

『直撃しました。一機撃墜判定』

「なに?」


(まぐれか?)

 戦況パネルに撃墜の表示が出る。


『光学観測不明瞭につき狙点解析不能です』

「向こうは当ててきているんだぞ?」

 システムに文句を言っても仕方ないが。

通信士(ナビオペ)、パイロットは?」

「やはり見えないと言っています。大雑把な方向しかわかりません」

「向かわせろ」


 システムは各機のガンカメラ映像の分析結果から割りだそうとしている。目視より範囲は広いが見えないものは判定もできない。


『赤外線を検出。攻撃です』

 再びの警告。

「直撃だと!? 発信機は壊したんだぞ?」

「遠距離なんだから躱せよ」

「無理言うな。氷の粒で霞んだ向こうから飛んでくるのに」


 パイロットも混乱している。発信機からの情報で狙撃を成功させたと思っていたようだ。また二機が撃墜判定を食らって停止する。


中継子機(リレーユニット)で狙点を観測しました』

「これで詰んだな」


 ポイントを指示。全機に向かわせる。しかし、距離を詰めるほどに一機、また一機と狙撃を受けて数を減らしていった。


(戦力を失いすぎた。奥の手を使うしかあるまいか?)

 まずは狙撃手の撃破を優先する。このままでは身動きできない。


「確実に仕留めろ。こちらの目的を報告させるんじゃない」

「了解いたしました。しかし、このままでは……」

 敵母艦レイクロラナンを攻略する戦力が残るかどうか。

「それは考えるな。まずは敵の目を潰せ」

「はい」

「我らの役割を忘れるな。努めて冷静に遂行せよ」


 すべてはそのために仕組んだこと。成功させねばなにもかも水の泡だ。


「敵機確認! 映像出します!」

 ナビオペから待ちに待った報告が来る。

「やはり目標艦所属機です。ルシエルタイプ」

「鹵獲できねば撃破」

「伝えます」


 しかし、すでにアームドスキン隊は七機にまで数を減らしていた。実に二十一機が撃墜されている。被害は甚大だった。


「な! 速い!」

「追いつけない!」

「狙撃来るぞ。リフレクタ使え」


 重力波(グラビティ)フィンの光で見失うことはないが、リング内を縦横無尽に移動し狙撃を加えてくる様子がガンカメラでうかがえる。完全に翻弄されていた。


(こ……れは)

 あまりに一方的だ。


「墜として!」

「この……!」

 ナビオペとパイロットの声が交錯する。


 最後の一機がブレードの一閃を受けて通信が閉じる。演習プログラムによる撃墜判定で機能停止したのだ。


(致し方あるまい)

 最後の決断をする。


「特務艦艦長として命令する。全機を復帰させよ」

「演習ルールを無視するんですか?」

 副官もさすがに動揺する。

「目的は達せねばならない。全機で向かい敵偵察機を鹵獲」

「それは」

「記録を抹消する。パイロットはスパイ容疑で拘束しろ。ここではなにも起こらなかった」


 予め決められていた最後の手段である。強引ではあるが、やらざるを得ない。なにを言ってこようが黙殺する。相手は辺境宙域の民間組織でしかない。


「……全機、復帰させました」

「任務を遂行せよ」


 戦況パネルに配下の機体が表示される。直掩を除いた全二十八機が復活した。


「死に戻っちゃうんだ。それはどうなのかな?」


 中継子機(リレーユニット)を介した揶揄に艦長は唇を噛んだ。


   ◇      ◇      ◇


「ガイフルナクトが攻撃を受けているだと?」

 パガンダ・セグマトー艦隊司令は渋い面持ちになる。

「禁じ手を使用した模様です」

「なにをやってる。特務ともあろうものが」

「それが、敵機一機に撃滅されたと報告しておりまして」


(この落ち度は諜報部への手札になるか。それだけならかまわんが、こちらの戦況に影響するようでは敵わんぞ)


「状況を報告しろ」

「現在、ボルンナクト、デアナクトで攻撃中。後方からクリュンナクトで挟撃していますが抵抗が激しく苦戦しています」

「特務が任務を遂行するまで足留めする。最悪、残り二隻も投入するぞ」


 上からはそう命令されている。政治的意図が多く含まれている以上、彼らは単純に勝つだけではいけないのだ。


(簡単な任務だと思ったものを)


 セグマトー司令は苛立たしげに腕組みした。


   ◇      ◇      ◇


「いやに粘るじゃない」

 言葉とは裏腹にリリエルは不敵に笑う。

「楽しませてくれる!」


 敵の斬撃を力任せに叩き落として一閃。撃墜判定にした相手を蹴ってよけると次と対峙する。両腕の双剣を自在に操って撃破を重ねた。


「昂ってきたぁー!」

「エル様、かっこいー!」

「ちゃんとついてきなさいよ、ゼル」


 朱色(バーミリオン)カラーを目標にした相手がたかってくる。彼女の視界では数多の金線が交錯。その隙間にゼキュランを滑り込ませる。


「今のを躱すか。どんな化け物だ、こいつ」

「いくらでもかかってきなさい! あたしは一歩も引かない!」

「食らえよ!」

 ビームで釘付けにして一斉に斬りかかってくる。

「ビークランチャー! 拡散(ブロード)モード!」

「だあっ!」


 腰の固定武装が起動する。その名のとおり(ビーク)を模した形状の力場端子が口を開いて閉塞力場を形成。内部に充満した粒子を乗せた熱プラズマをランダムな方向へと撒き散らした。集団で迫っていたアームドスキンは堪らず浴びてしまう。


「分散しろ。こいつ、ブレードだけじゃないぞ」

「遅い! クロウ!」


 腕の鉤爪状の機構が前方にスライド。形成された力場刃(ブレード)が50mまで伸長し、下がろうとするアームドスキンを撫で斬りにした。


「手が付けられん。あれには近寄るな」

「そんなつれないこと言わないであたしと遊びなさい!」


 機動性の違いが勝負を分ける。追いすがってくるリリエルを前に国軍アームドスキン隊は逃げ惑うようになってきた。


「刈り取れ、ゼル!」

「いただきます!」


 自然と周囲は後ろに注意を逸した敵機の群れ。妹分には美味しい獲物でしかない。次々と撃破判定に持ち込んでいく。


「お嬢、あんまり手の内明かすもんじゃないっす。分析されるっすよ」

「上等。うちの整備士(メカニック)が頭を悩ますような武装を再現できるもんならしてみなさい」

「そのとおりっすけど……。なんだか憐れに思えてきたっす」


 ため息をつくプライガーを尻目に戦場を駆け巡る。彼女の精神高揚に反応したゼキュランはビークランチャーを常に励起状態にした。強い力場がターナ(ミスト)との摩擦で発光する。ゼキュランは輝線を描きながら疾駆した。


「勝負付けてやるんだから!」


 リリエルはペダルをベタ踏みにしたまま吠えた。

次回『謀られし演習宙域(5)』 「贖うしかないのさ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当、お相手が可哀想になってくるやつ (いいぞもっとやれ)
[一言] 更新有難う御座います。 ……あ~ぁ、やっちゃったぁ……。 無様過ぎだろ、諜報部。
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