彗星にひそむ影(3)
事実上、特応隊のトップパイロットであるフユキと、彼の専属通信士であるササラは自動的にブリーフィングに参加することになる。他は、両艦の艦長以下幹部、操舵士や火器管制士などの担当、編隊リーダーと主なナビが招集された。
「あたしが本件の総指揮を執るファイヤーバードよ」
中型の投影パネルでリモート参加している。
「本当は現場まで出向きたいところだけど星間管理局本部で上の意思確認しながら調整になるから勘弁してちょうだい。伝えるのは大まかな作戦概要だけで、あとは現場判断に任せるからそのつもりで。主にはドラーダとジャスティウイングに一任するわ」
「了解よ」
「では進めます」
ジュネが頷くのも確認してファイヤーバードは視線を皆に。
「まずはこれを見て。ハリジュギーネに飛ばしてもらった中継子機の映像だから、すでに見た者は重複するけどよろしく」
「気づきがあればのちに意見を募る。注視するように」
副長のミハイルが進行を担い、大型投影パネルが作戦室正面に表示される。そこには彗星カフトトア横からの遠景が映し出された。可視光観測では普通の彗星に見える。
(違う。よく見たら尾の中になにか)
ササラも気づいた。
薄っすらと影のようなもの。そのままでは外観の判別も心許ない。当然として、別手段での解析が行われる。
濃淡のピックアップでは楕円の前頭部から胴回り、尻すぼみの尾部が見受けられた。脇に別の画像が添付される。
「ちょっと前にジャスティウイングが確認したヴァラージ船。おそらくこれね」
角度は違うが、予想形状でロールするとほぼ一致した。
「これに赤外線を加えると」
船体表面に複数の人型が浮びあがる。形状の不一致点はそれにより起きているのだと判明した。
「ご覧のとおり、かなりの数の人型ヴァラージが取り付いてる。腹の中にもね。ナクラ型を含めると相当数のヴァラージがいると思って」
ファイヤーバードは顔をしかめている。
「そのうえに、こいつ」
メテオバスターが捉えた尾羽根付きの影が映された。その横には別の画像。こちらは非常に明瞭なものだった。
一言でいえば異様である。円曲した板状の甲羅。その前に腰までしかない人型を貼り付けたような形態。さらには二対の腕を持つ。手には長い爪が生えていた。
「ル・マンチャスのV案件で確認された通称『スワローテール』。この個体にメインターゲットであるタンタルが搭乗していると思われるわ」
重大な情報が告げられた。
「マジですか? じゃあ、本命?」
「ええ、そうよ、ナージー隊長」
「熱いじゃん」
気合が入っている。
「悪いけど、これの相手は特応隊では無理よ。フユキくん、君でもね」
「無理?」
「Bシステムもキャンセルされてるわ」
ササラは目を真ん丸に見開いて口を押さえる。事実上、ブラックホール兵器は防御無効と思っていたからだ。起動できる状況に持ち込むのが勝利条件なのだと考えている。隣でフユキも不機嫌な面持ちになっていた。
「それはジャスティウイングのほうから説明を」
ジュネが立ちあがって後ろ向きに。
「スワローテールは力場干渉で、エミッタから一定距離以上の重力波フィンを無効化してくる。大量の重力子を必要とするBシステムはそこで効力を失うんだ」
「ワームホール生成ができなくなるからブラックホールへの道も繋げられないと」
「そうだよ、ドラーダ。似たような理由でCシステムも無効化される。スワローテールに時空間兵器は通用しない」
極めて深刻な情報だ。
「通常兵器、ビームやブレード、アンチVで攻撃するしかない。機動性も桁違いだから、一般アームドスキンではまず対抗できないと考えてくれていい」
「対抗できるのは君とフユキくらいってこと」
「性能的にヴァルザバーンでも厳しいわ。だから、スワローテールの対処はリュー・ウイングに限定します」
作戦要旨に入ってくる。
浅黒い肌に見事な赤髪を揺らすファイヤーバードも表情を険しくする。星間銀河圏で最も有名で人気の高い、『全知者』とも呼ばれる司法巡察官をしてそうさせるほどの敵だということ。
彼女が対策室長なのは機密事項である。リモートとはいえ実際に接したのも初めて。こんな状況でなければ一挙手一投足を目に焼き付けたいがそれどころではない。
(フユキでも無理な相手。ということは……)
ここからの流れも見えてくる。
「特応隊はスワローテール以外のヴァラージ撃滅を任せます。そちらは従来どおりBシステムも効果あるわ」
美女は苦笑いしている。
「大した助言にはならないでしょうけど」
「ええ、使用限界があるもの」
「なので、基本は通常兵器での撃滅を主としてよろしく」
そうとしか言えまい。
「装備強化は十分にしてあるから不可能ではないはずよ。アンチVランチャーはもちろん、通常型に加え、飛散型アンチVの使用要領も事前に周知してあるわよね?」
「パイロット全員に映像研修もしたし、シミュレーターにも組み込んで訓練させました。実戦での不安はないと思う」
「ここまではいいわよね?」
ジュネ以外の全員がなんとも微妙な表情になる。難しいといえば難しい任務だろう。ただし基本戦術なのも確か。それは翼ユニットが積みあげてきたものだ。
(特応隊でもフユキメインで執っている作戦)
ササラの頭の中にも流れがある。
(だから慣れてないわけでもないんだけど、ジュネさんメインになることでどう転ぶかわからない。スワローテールがどれだけ難敵なのかにもよるし)
「それほど難しく考えないでいいわ」
ファイヤーバードは口調を緩めて告げる。
「特応隊の任務はヴァラージ船および内蔵するヴァラージの撃滅。スワローテール以外に搭乗型個体は確認されてないから慮外にしてもいい」
「それは信用できる情報?」
「まず間違いなし」
彼女は自信ありげに頷く。
「これまでの接触事例から、タンタルが星間銀河人類を下位に見ているのは明白。核心的利益共有があったとしても配下として使うのはあり得ないという結論よ」
「敵のプライドを逆手に取った作戦と思ってOK?」
「付け入る隙という意味でね」
オルドラダ艦長が率先して質問する形でブリーフィングは進む。それで意見しにくい有名人相手からも必要な情報を引き出せていた。多少は空気も軽くなって参加者からの意見も出はじめる。
「ヴァラージ船の攻撃能力はどんな感じです?」
「今のところは未知数」
満足な答えではない。
「でも、ただの移動能力だと思ってくれていいわ。機動力でナクラ型に劣り、攻撃力で人型に劣る。そうでなければ、これまでも投入されてきているはず。分析によると、かなりの特化型個体だと見ているそうよ」
「逃さないように戦力を剥ぎ取れば撃沈可能なんですね」
「おそらく。まあ生体ビームくらいは飛んでくると思ってちょうだい」
他に幾つかの質問が飛び交い、推論含めて議論が煮詰まった。落ち着いたところでロアダン副長がファイヤーバードに締めを求める。
「ジャスティウイングと特応隊でヴァラージを排除してくれたら待機している星間平和維持軍艦隊が運んできたメテオバスターを使用します。だから、皆の任務は撃滅まで。かなり重大よ。完遂できたらご褒美を期待してちょうだい。あたしは観戦にまわるからあとよろしく」
(ほんとに正念場なんだ。こんなときにリリエルさん抜きでいいの?)
ササラは胸にもやもやを抱えたままだった。
次回『さよならの理由(1)』 「こっちから捨ててやればいいのに」




