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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
剣王孫の憂鬱
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ブラッドバウの力(2)

 敵方が惑星円盤に対して上下に展開したので、リリエル率いるブラッドバウのアームドスキン隊は選択肢を絞る。彼女が選んだのは当然前進だ。

 受けにまわれば挟撃を覚悟しなければならない。後退しつつどちらかを相手するにしても後背を脅かされる。この二つは下策である。


(負荷が大きくとも相手のペースで挟撃半包囲に入られたら分が悪い)

 そもそも彼女の性分ではない。


「抜かせなさい、コビー」

「隊長に怒られちまいますって」


 プライガー・ワントの隊は下から攻めあげてくる部隊に対するが、ヒートゲージいっぱいの連射で抑え込まれる。抜けてきた国軍機をロズとコビーの編隊(チーム)が阻止しようとするが数が多い。


「いいから。出番は作ってあげる」

「頼んますよ」


 見るからに大将機である朱色(バーミリオン)の機体は狙われる。複数の編隊が崩しを掛けようとビームを浴びせてきた。


「度胸は買ってあげる」

 リリエルはニヤリと笑う。

「でも、それだけ」


 ゼキュランの両手にブレードを持たせた彼女は直撃するビームを全て二つに裂く。リフレクタで受けたときのように反動はない。一歩たりとも下がらず、逆に前に出た。


「なにをした? なんで来る?」

「墜とすためにに決まってるじゃない」


 三機の編隊が真正面から。他の編隊は崩しを完成させるためにまわり込もうとしていた。置いてけぼりにしたリリエルは包囲の輪を抜けている。


「圧が甘いの」

「ぬぅ!」


 咄嗟にかざしたリフレクタを撫でる。反動で開いた懐を一刀両断にした。間合いを取ろうとする右の国軍機へ追いすがる。砲口をグリップエンドで弾いて逸らすと胸の中心を貫いた。


「もう二機も墜とされた?」

「カウント遅い。これで三つ」


 ビームを縦に二分しながら接近。振り降ろされる右の剣閃を防いだだけでは無駄。返す左が逆袈裟で機体を舐めた。


「一瞬で編隊一つ潰されただと?」

「さあ、次は誰?」


 本当に撃墜したわけではない。これは演習。ビームもブレードも出力減されて相手を傷つけることはない。ビームコートが溶ける程度。

 ただし、機体センサーが接触を検知。演習プログラムがその部位の機能が失われたと判断して機能停止させる。ダメージが弱点である制御部やコクピット、対消滅炉(エンジン)に及んでいた場合は撃墜判定を下す。


「やらせませんて」

「あたしの獲物を奪うなんてやるじゃない」


 迂回した国軍編隊は誘い込まれている。残っていたコビーの隊が側撃を掛けて撃破していた。


「まだまだお嬢の獲物はいっぱいいますから」

「そうね。ハヤンは戻って。もたせときなさい、ヴィー。下を崩す」

「その前に平らげてしまいますよ」


 ヴィエンタは倍する敵に苦戦している様子はない。保険を掛けたプライガーのほうが押されていると見た。


(まったく。慎重派なんだから)


 逆にいうと彼は抜け目がない。多数を相手にしてものらりくらりと躱す手段を心得ている。実際に振りまわされている様子がうかがえた。


「お上手」

「げ、もう来たんすか、お嬢!」

「肩慣らしだって言ったけど?」


 編隊を二つ引き連れてきたリリエルに、逆に挟撃を受けることになった下のアームドスキン隊。動揺は露骨に表れ、当たる前から崩れかけている。


(場外で搦め手仕掛けてくるわりに脆い。もしかして実戦慣れしてない?)


 手応えがない。まるで戦闘教本通りに進行しないと次にどうしていいかわからないような反応をする。鍛え方が足りない。


(そういう国柄なの? 諜報戦で優勢に持っていって動けなくさせるタイプ? そのまんまブラッドバウ(うち)に通用すると思ったなら嘗めてくれたもの)


 普段は演習ばかりを重ねている張り子の虎。価値を上げるために数だけは揃えておく。

 その実、裏で動いているのは特務部隊。そちらはバリバリの実戦部隊だろう。精鋭を集中させて効率的に作戦を成功させていく方針。


(だとすれば本当に経験値稼ぎ。本命は今現在収集している戦闘データのほう)


 そう考えると妙に厚く中継子機(リレーユニット)を飛ばせている。機能しているのは一基だけで、それ以外はデータの記録に用いられているかもしれない。


「まあいっか」

「なんすか、お嬢?」

「こっちのこと」


 数発ビームを分断してやると及び腰になる。曲芸でも見ている気分になっているのだろう。リリエルにとってはそう難しいことではなくなっている。相手の狙いを攻撃線として目視できる異能、戦気眼(せんきがん)を持つ彼女には中長距離からのビームなど怖ろしくもない。


「程よく乱れたけど?」

「ういっす、お嬢。やるっすよ、野郎ども」

「おう!」


 一転して攻勢に出る。切り替えも上手いプライがーは、パーソナルカラーの青鈍色のデュミエルを突っ込ませた。


「いただき」

「なぁっ!」


 パッと散った部隊は、気を逸している間に距離を詰めたゼキュランを追いきれていない。まともに食らって斬撃の餌食になる。


(射撃もブレードアクションも中途半端。アームドスキンを使いきれてない。ようやく全体的に普及してきた感じだけど、レベル的にはこんなもんかしら)


 戦術面が練れていない感触。それとパイロットが白兵戦に慣れていない。接近して圧を掛けると途端に脆さを露呈する。


「付き合う義理はない。当たりに行きなさい」

「うっす」


 間合いを外して体勢を立て直そうとする国軍機。時間ばかり掛けても意味はないので仕掛けさせる。火線が飛び交う中へリリエルはゼキュランを飛び込ませた。


「どうやって入り込んで!」

「追いかけっこは趣味じゃないの。往生なさい」

「馬鹿なぁー」


 ビームごとランチャーを斬る。さすがに武器は故障したらしく沈黙。膝を入れて跳ねあげる。逆手に替えたブレードを胸に突き立て、背後から迫る一機も一閃して撃墜判定に追い込む。


「なんだ、こいつ? 化け物か? まるで見えてるみたいに」

「お生憎様、本当に見えてるのよ。フェイントくらい噛ませてくれないと歯ごたえがなくて面白みがない」

「どこの誰だ、演習の的だって言ったのは。こいつは戦闘狂じゃないか」

「ご挨拶ね」


 突いてきた切先を絡めて落とす。そこから次の攻撃がない。彼らには剣闘の流れを作るという概念がなさそうである。それでは彼女の敵ではない。


「他人を悪し様に言うならもう少し機知(ウィット)を利かせてくれないかしら?」

「そんな余裕がどこにある」

「それも男の甲斐性じゃない?」


 すでに彼女だけで撃墜カウントが「11」を表示している。総崩れ状態だった。


「ラーゴ、あとは好きになさい」

「了解っす。ヴィーと遊んできてください」


 残るは撤退監視というところ。合流させなければいい。上の様子をうかがうと輝線は交差している。まだ交戦中らしい。


(もってるか。まだ戦闘開始から十五分経ってないものね)


 しかし、トータルの撃墜数を見ると撤退ラインは割っているように見える。追い込むつもりが追い込まれて判断を誤ったか。


(違うでしょうね。指揮官は思ったほどデータ収集が進まなくて退きどきに困ってる。現場に撤退のトリガーをくれてやらなきゃ終わらないか)


 ゼキュランのフィン出力を上げた。見る間に戦闘宙域が迫ってくる。形勢は決しているように見えた。


(あれ? 表示に出てない大破機が多い?)

 すでに詰めに入っている模様。


「手遅れですよ、お嬢」

「やりすぎよ、ヴィー」

「それほど本気ではなかったのですが残念ながら」

「そうよね。あたしも一発も撃ってないもん」


 ビームランチャーを装備していない代わりに、彼女の専用機には腰に固定武装が搭載されている。多機能なそれを全く活用しないまま敵方は撤退に動こうとしていた。


(マズ。ほんとにやりすぎたかも)


 本番の演習が次に控えているのをリリエルは計算できていなかった。

次回『ブラッドバウの力(3)』 「余力を残しているものと考えろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……演舞でフルボッコにした感じ?
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