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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
砕かれる希望
199/216

タンタルの真意(6)

 スワローテールが畳み掛けてくる四本の力場(フォース)(ウイップ)を回避してジュネは機体を降ろす。リュー・ウイングの足が路面を噛んで慣性を殺した。

 横の監獄棟を貫いて生体ビームが襲ってくる。戦意の瞬きは感知していたため余裕をもって避ける。フォースウイップが舞って建物を細切れにしながら新たな人型ヴァラージが二体出現した。


(この辺にいた感染者が融合してヴァラージ化したのか)


 彼とタンタルの高速戦闘には参戦できなかったものの、地上に降りてきたところで襲ってきたのだろう。なんらかの方法でタンタルの命令を受けているものと思われる。


(マズいな。タンタルが行ってしまう。さっきのをエルには聞かせられない)


 しかし、二体は瞬時に倒せる相手でもない。フィンガードで生体ビームを弾きつつ飛散型アンチVで狙撃する。


「ヴィー、タンタルがそっちに行く。警戒を」


 一分でも稼いでくれればいいとジュネは祈った。


   ◇      ◇      ◇


「お嬢、タンタルがこっちに来るそうです」

「取り逃がしたの?」

「戦闘音は聞こえていたのでジュネは囲まれてでもいるのかと」


 タンタルヴァラージの出現はプライガーからの報告で知っている。ヴィエンタたちは二人の邪魔にならないようヴァラージの掃討に注力していた。

 それも大方片づいており、感染者の始末を飛散型アンチVを使ってやっていたところ。部隊は落ち着きを取り戻していた。


「全機警戒。迎撃体制」

「このスペック、ヤバい。引き締めなさい」


 外観および武装データもリンクで伝わってきていた。彼女の指示に続いてリリエルも発破をかけている。


(なぜ、わたしに? なにかあるのですね、ジュネ。お嬢には近づかせないほうがいいみたいです)

 ヴィエンタは即座に察した。彼のやることには意味があるのだ。


「接近視認。弾幕を」


 大型の躯体とは思えないスピードでやってくる。隊機にビーム弾幕を張らせつつ隙間にアンチVを仕込んだ。その方法で仕留めた敵も多い。


(甘くはありませんか)


 フォースウイップの乱舞を越えられない。比較にならない長さがブロックも容易にしている。


「ジュネはあんなの一人で相手してたの? 無茶すぎる。でも、こっちも足元に囚人がいるし」

 避難エリアになっていた。

「フランカーを使って彼らの盾に。お嬢にしかできません」

「わかった。でも、大丈夫?」

「戦闘不能機は出ていません。この数がいれば」


(リュー・ウイングと同等に……。いえ、無理でしょうか)

 厳しいだろうと思った。


 惑星規模破壊兵器(リューグ)システムがキャンセルされたのも聞いている。まるで格違いの敵だと考えるべきだ。


(おそらく時間稼ぎでいい。それならば)


 ブレードガードのできるリリエルは張り付きになる。残りでしのげればジュネがやってくるはずだ。


「ラーゴ、正念場ですよ?」

「そっすね。こいつは厄介っす」


 リフレクタで固められた躯体はビームを寄せ付けない。しのばせたアンチVも迎撃されている。検知力も数段上らしい。


「背中側に死角があるらしいっす。包囲戦っすね」

「任せても?」

「合点っす」


 ヴィエンタがリリエルの援護をしつつ陣地防衛。プライガーに背後に回ってもらう。瞬時に決定し、即座に動く。連携の妙の見せ所。


「な!」

「回避!」


 ところが、そんな余裕は与えてくれなかった。回り込もうとしたプライガー隊が精密狙撃を受ける。躯体近くでねじ曲がった生体ビームに意表を突かれて回避が間に合わない。腕や足を失う隊機が続出した。


「しまった!」


 立て直しも適わないままに接近を許す。ヴィエンタの配下だけでは受け止めるのも無理で突破された。


「お嬢」

「斬るぅ!」


 雨あられと降ってくる生体ビームを全て本体とフランカーで斬り裂くラキエル。異常なほどの集中力だった。


「面白い。が、曲芸だ」

「タンタル!」


 フランカーにフォースウイップが絡みつく。生体ビームはリリエルが斬りつつ接近を掛けていくが、全ては受けきれなかった。歪曲した一発のビームが抜けていく。コンテナと囚人が集まる場所へ。


「逃げ……!」

 警護のアームドスキンの腹に着弾した。

「ハヤン!」

「お嬢、すんま……」


 パシュランが爆散する。最期の台詞も許さないままに。


「ハヤン、ハヤーン!」

「お嬢!」

「間に合わなかったか」


 ヴィエンタはリリエルの悲鳴に交じるジュネの声を聞き分けた。


   ◇      ◇      ◇


 ジュネが追いつくとコンテナ傍のアームドスキンが爆散するところだった。叫ばれる名前はヴィエンタ隊でも古参兵のものである。


(しまったな。これはいけない)

 リリエルの灯りが真紅に染まっている。


「エル、落ち着いて」

「ハヤンがぁ! 許さない!」


 突進するラキエルの行く手にリュー・ウイングを滑り込ませる。背中に衝突させてリリエルを止めた。


「ジュネ、なんで!?」

「その状態じゃついていけない。フランカーを戻して」


 ラキエル本体の機動性だけではスワローテールにもてあそばれる。最低でもフランカー装備レベルの加速が必要だった。


「そんな暇ない! あれを叩く! ハヤンの仇!」

「駄目だよ。行かせない。相手が悪い」

「それでもぉー!」

「見ろ」


 その間にも隊機に大破が増えている。スワローテールの猛攻にさらされているのだ。


「くぅ……」

「落ち着いて対処、いいね?」


(駄目かな? 感情の色が治まりきらない。タンタルを引き離すしかないんだろうけど)

 状況が悪い。


 戦力は削られる一方。コンテナ周辺には大量の囚人避難者。連戦で疲弊しているパイロットたち。そして、覚られているリリエルの性格。


(場作りに失敗した。どこまで守りきれる?)

 さすがに迷った。

(タンタル撃滅をあきらめるべき? だからって、この機を逃すのは惜しい。次はどこで捕まえられるか)


「いいかい? あのヴァラージを倒すことだけに集中して。それができるなら二人でなんとかなるかもしれない」

「う、うん。わかった」


 最大限の譲歩だった。身近に置いたリリエルだけなら守りきれる。畳み掛ければ機を掴めるかもしれない。


「どうした。足が止まっているぞ?」

「君を倒す相談さ」

「言っていろ」


 フィンガードを外して左右に分かれる。フランカー装備のラキエルの加速に幻惑されることを願って。


「再開か?」

「もちろんさ」


 両面からの狙撃で足留めする。ジュネは隙をうかがいつつ徐々に接近。リリエルも逸る気持ちをどうにか抑えてくれている様子だった。


「だから言ってやったろう? そんな弱点を抱えていて俺に勝てるわけもないと」

「止め!」

 リリエルの悲鳴。


 タンタルは無視して地上攻撃をはじめる。囚人が集まるコンテナ周辺を。さらに、残っていた感染者が襲撃を再開している。ブラッドバウはもう防衛する数が残っていない。


「ああっ!」

「駄目だ、エル! 集中!」


 ラキエルはフランカーを放出してしまう。生体ビームを斬り裂き、感染者を焼き払うが本体は加速が落ちる。そこへスワローテールが突進した。

 力場(フォース)(ウイップ)を双剣が払うが手数が足りない。微塵に斬り裂かれるかと思われたが朱色(バーミリオン)の機体は弾き出された。


(どうにか)


 ただし、体当りしたマルチプロペラントが代わりにフォースウイップで破断された。幾つにも分かれながら爆散する。


(難しいな)

 リュー・ウイングの本体だけではスワローテールに敵わない。


 タンタルへ弾幕が襲い掛かる。ヴィエンタが部隊を立て直して援護に来た。


「ヴァラージは平らげられているか」

「まだ、これからじゃない?」

「見逃してやろう」

 スワローテールは飛び去っていく。


 ジュネのブラフは見透かされているようだった。

次回、エピソード最終回『ジュネの決断』 「どうしよう、ヴィー。あたし……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 脆さが出たか?
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