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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
砕かれる希望
198/216

タンタルの真意(5)

「かつてラギータ種を滅ぼしたネローメ種にまつわるすべてが憎い?」

 ジュネにはそうとしか受け取れない。

「八千年も経って腐りかけた憎悪なんて不毛だと思わない? 他人を猿呼ばわりするわりに精神性が幼稚だと思えてしまうけどさ」

「そんなものはどうでもいい。我らとネローメ種との闘争は誇りあるもの。破れたとて口惜しくとも憎くはない」

「なら、なんでだい?」


 執着が普通ではない。銀河規模の周到な罠。人類の闘争にさえ干渉する細工の数々。混乱を誘発させる手管の多彩さ。どれをとっても現人類を対象としたものだと思っていた。


(高度な文明を築いていたラギータ種が滅び、文明レベルが劣る現人類が制覇しているのが不快なんじゃなかったのか。ファトラたちゼムナの遺志が憎いって?)

 動機が予想とは異なっているようだ。


「あり得んのだ、そんな人形を崇めるなど」

 口調は怨嗟に満ちている。

「崇めるって?」

「俺は起こされてから方々を調べて回った。祖先が望んだようにラギータ再興を望むべきなのかとな」


 力場(フォース)(ウイップ)の一閃は二撃までバレルブレードで逸らす。しかし、三本目以降は鼻先と腰をかすめていった。螺旋(スラスト)力場(スパイラル)まで動員される前に距離を取る。


「そうしたらどうだ。ネローメ種も先達が滅ぼしておいてくれたが、入れ替わるように猿の末裔が蔓延っているではないか。大して役に立たんと思っていた猿どもがだ」

「それも摂理ってものではないかな?」


 過去の逃亡行の過程で現人類の祖となる文明の芽吹きくらいは確認されていたらしい。害にもならないと捨て置いたという。


「お前の言うとおりだ。それもいい。面白くはないが、俺も時の流れには逆らえん」

「それで?」

「だが、その文明を誰が牛耳ってる。たかが人形が、だと?」


 連続する白光の輝線に残像を喰ませる。機体をひねって射線を追うようにビームを放った。

 ヒートゲージいっぱい連射をリフレクタにぶつけたら、一人時間差でマルチプロペラントのビームを挟む。それはスラストスパイラルの先がさらっていった。


「ましてや神扱いされてるなど考えられん」

 タンタルは唾棄する。

「片腹痛いわ。人形風情がなにを勘違いした?」

「違う。それは文明で劣るゴート系人類が信奉の念を抱いただけ。ゼムナの遺志が神たらんと人をそそのかしたんじゃない」

「はっ、同じことよ。人形を崇める猿も愚かしいが、それに乗る人形どもが我慢ならん。まずはそいつらを消してからだ」


 躱しきれない生体ビームが機体をかすめはじめている。ジュネは撃ち合いでの分の悪さを感じていた。


(このままじゃ撃ち負ける。見て躱してるでは足りない)


 攻撃反応は彼の新しき子(ネオス)の視界に映る。しかし、それだけでは読めない攻撃が挟まってきていた。

 正面の射角を避けるようにしていたら、ビームがねじ曲がって襲ってくるようになっている。スワローテールの躯体周辺だけに限定されているが、力場操作で偏向させているらしい。


「導いてくれただけ。それをゼムナの遺志の罪とするのはおかしい。それとも創造主と同格の自分のほうが崇められるべきだって?」

「要らん。猿の崇拝など毛ほどもありがたみがない」

「祀られることはないさ。崇拝や信奉っていうのは憧憬の先にある。君が人類になにをした? 見下していただけじゃないか。遺志たちは人が道を誤らないよう真剣に対してくれているよ」


 命の灯りの感応深度を上げる。相手の感情に影響されるのは遠慮したいが、見ないでは五分の戦いにも持ち込めない。異能の感覚に身を委ねていく。


「猿におもねって身の置き場を作ったか。あさましいことよ」

「君の味わっている孤独感よりはマシだったんじゃない?」

「言わせるか」


 バックを取ろうとするが斜め後ろでさえ射角となってきている。生体ビームの弾速の関係で真後ろまでは狙えないようだが、死角は背後の限られた空間になっていた。


「住むに相応しい場所に変えてからだ。知的生命とはそういうものだろう? 未熟なお前らはまだ銀河の摂理に振り回されているだけかもしれんがな」

「理解できてきたよ。君らラギータは他を受け入れられないから滅んだのさ」


 激情が湧き上がる様が手に取るようにわかる。押し流されそうなほどの荒波であれ、ジュネはやり過ごす術を身に付けつつあった。


(そうか。これは憎悪とはちょっと違う。どちらかといえば嫉妬に近い。タンタルは得られるはずだった憧憬を遺志たちに奪われたかのように感じたんだね。目覚めるのが遅すぎたから)


 立場が違えばゼムナの遺志と同じ位置にいられたと思ったのかもしれない。それは叶わなかった。彼らの性質も相まって、取り戻せないものなら壊してしまえという結論に至ったのだと推察する。


(本人に自覚はないのかもしれないけどさ)

 悪気がないからといって許されるものでもない。


「日和れというのか? 下等な猿どもの社会に」

「無理することはないね。ただ、傍観するに留めていられたら争わないで済んだのに」


 深く潜って意思の動きも感知できるようになっている。生体ビームをブレードで斬り裂くことも可能になっていた。反動の少ないこの方法は次の一歩を出しやすくする。


「不幸な出会いだとでも言うか? 道を譲る謙虚さを持て」

「お互い様さ。ネローメと同じ精神性を持ち得たならできたんだろうにね」


 危険域に踏み込む。生体ビームの弾幕は苛烈になるが必要なこと。わずかなインターバルに筒先をねじ込んで飛散型アンチVを放つ。

 起爆はするが飛散エリアにもうスワローテールの姿はない。機動性も飛躍的に伸びている躯体を捉えるのは非常に難しい。通常弾頭を着弾させるなど至難の業だ。


(フェイントを掛けようにも、マルチプロペラントを分離したら一瞬で本体が撃破される。地味な撃ち合いにしか活路がないとはね)


 予想を遥かに超える難敵だ。誰かの援護を受けるなんて以ての外である。ブラッドバウを捨て駒に使うなんてことは絶対にできない。


(なら方法は一つ。捨てるのは我が身であるべき)

 機をうかがう。


 持久戦に持ち込む手もあるが、40mの巨体に蓄えられているエネルギーは他のヴァラージの比ではないだろう。生体ビームを生み出すエネルギーがどんなものかはわからないが余裕があるとみる。

 対してリュー・ウイングも尋常でないパワーマージンが取られている機体。残るは彼の精神力と残弾量。それとタンタルの精神的スタミナとスワローテールのスタミナの勝負になる。


「ならばネローメはなぜ滅んだか? 簡単なこと。奴らも自分の居場所を作り得なかったからだ。だからたった一つの惑星に閉じ籠もって神様ごっこを始めたんだろうぜ」

「神様ごっこ?」

人工知性(アテンド)なんて人形を作り上げて自分を高みに置こうとした。これを一人遊びと呼ばずになんと呼ぶ?」

 嘲笑する。

「どうだろう。ぼくは別のところに理由があると思うけど」

「猿の浅知恵なんぞが及ぶものか」

「そう? 君の言葉にも端緒が表れてるよ?」


 なんの気なしに告げた言葉だったが、それはタンタルの逆鱗に触れるものだったらしい。生体ビームがばら撒かれて急な突進を見せる。

 フォースウイップを捌いて勝機を見つけようとするが、その頃には躯体が離れていた。空気が変わっている。


「それならば証明してみせろ。お前ら人類が我らに勝る部分があるとな」

「待て」


 スワローテールが方針転換する気配にジュネは焦りを覚えた。

次回『タンタルの真意(6)』 「エル、落ち着いて」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 障らぬ神が拗らせ祟る!?
[一言] 人間同士でも共存が難しいのに、異種となると更に………… どうなるかハラハラです……!
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