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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
まみえる宿命

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戦闘生命(2)

 長い胴体の構造はそれほど複雑なものでもない。ヴァラージ因子を持つ強靭な筋肉組織で支えられているといってもいいだろう。


(ビームで焼くのもブレードで斬るのも難しくないと思う。いかんせん機敏さが他形態の比じゃないのがね)

 ジュネは内心臍を噛む。


 まず攻撃を当てにくい。胴体の一部でも地面をキャッチしていれば自在に身体をくねらせて射線を避ける。接地を旨とした形態として特化している。


(それだけでもないし)


 伸びたビームが弾かれる。胴体のどこにでもリフレクタを形成してきた。全体を覆うほどのパワーや制御力はないようだが、上手く使われると鉄壁だ。

 さらに螺旋力場(スラストスパイラル)でも防御をする。よほど接近して、意表を突く攻撃でないと通りそうにない。


(これをリューグシステム抜きで倒すのは厳しいね)


 しかし、タンタルの監視の目があるうちは使うに使えない。好機と捉えて畳み掛けてくるのは必至。両方を相手にしのがれると、とてもではないがスタミナがもたない。

 タンタルの手札が多脚タイプだけとも限らない。ここは敵のフィールド。罠とわかって入り込んでいるのはジュネのほうなのだ。


「随分と臆病だね?」

「余裕だと言え」


 多脚ヴァラージの特質を見切るのに結構な隙を見せている。それでもタンタルは観戦の姿勢を崩してこない。

 誘いだと読まれているか、多脚で十分と考えているか。どちらにせよ決定的な隙は作れない。それも計算のうちのはずだ。


(好戦的であるだけ戦闘巧者でもあるのか。先ゼムナ人、ファトラたちの創造主の技術力を持ってしても苦戦しただけはある)


 戦略戦術に秀でている。しかも実現するだけの戦力、ヴァラージという戦闘生命まで手に入れている。弱点がない。


「ぼくを倒せば勝負がつくとでも?」

「精神は折れる。蹂躙するのみ」


(分析も正確だ。他のユニットだって変わらないくらい強いけど、同じ姿勢で各個に狙われると難しいとしかいえない)


 正解は戦力を集中する作戦。ただし、不利と見れば撤退する戦術眼もある。悪手ではないが場を作るのが困難を極める。掛かってくれないだろうとジュネは踏んだ。


(単独で撃滅するのが近道。でも、骨が折れるね)

 多脚タイプだけでも攻略点が見えてこない。


 行動力を奪うのが攻略の一歩目だとわかっていても手段がない。今も胴体を狙って間合いを詰めたところで弾き出された。脚だけでなく上半身も付いている。腕には力場鞭(フォースウイップ)も装備していて、上から叩きつけてきたのだ。


「シャー!」

「威嚇は効かないさ」


 ウィップをいなして(たい)を入れ替える。背中側が死角だと狙ったのだが間違いを覚った。尻尾の先が跳ね上がってきて背中を脅かされる。


「甘いぞ、翼」

「盲点がないね、困ったことに」


 通常兵装が通用しない。ブレイザーカノンなら効くだろうが、今の状態でマルチプロペラントを切り離すのは致命的な隙になる。畳み掛けられて本体が終わる。


「大人しく降れ。そのほうが楽に死ねよう」

「そんな道を軽率に選ばないから繁栄があるんだよ。あきらめない姿勢こそが生命としての強みなのさ」

「ならば凌駕してみせよ」


 アンチVを発射して移動。弾速の違いを活かして一人時間差攻撃をする。弾頭を回避した胴体をビームがかすめる。


(浅いか。この程度しか削れないではすぐに再生してしまう。無限じゃないにしても手間が掛かりすぎ。アンチVのほうが当たればいいんだけど)


 悲しいかなそちらの弾速が遅い。時間差を演出するのは不可能に近い。簡単に誘い込めるほど迂闊には動いてくれない感触がある。


(無理を承知でやってみるしかないか)


 人型の上半身にリュー・ウイングを追わせる。脚がうごめいて俊敏に詰めてきた。ひるがえるフォースウイップをバレルブレードで弾きながら体勢を整える。


(胴体の位置を確認しておいて)


 牽制のビームに視線を誘導してアンチVを発射する。意識の外の場所へ。

 視線を奪ったまま連射を加えて回避をさせた。アンチVの着弾点へ。


「ぬるいな。ヴァラージの反射神経を侮ったかか?」

「知ってはいるんだけどさ」


 着弾間際に弾頭がスラストスパイラルで弾かれた。破壊されて薬液が飛び散るだけに終わる。


「ジジャッ!」


 アンチVの雫が一部胴体に掛かった。そこが煙を上げて溶ける。しかし、量が足らずに外殻が朽ちただけ。徐々に再生している。


(ん?)

 今の映像を別タスクでリピート。

(もしかして? スラストスパイラルってそうなのか?)


 左手のハイパワーランチャーを腰に。マルチプロペラント下からアンチVカートリッジを取り出して右のハイパワーランチャーに装填した。そして、もう一つカートリッジを取り出す。


「数撃っても当たらんものは当たらんぞ」

「だろうね」


 リュー・ウイングで大地を蹴る。跳ね飛ばした岩や土が胴体へと向かう。大きめの岩はスラストスパイラルが打ち払った。


「そんなのは牽制にもならん」

「確かに」


 もう一度視線誘導のビーム連射を挟みながらカートリッジを放る。上体も誘導して機体を追わせた。一転、加速して空中でカートリッジをブレードで斬り裂く。飛沫が胴体の上で散った。

 リフレクタも形成され、スラストスパイラルも蠢くが飛沫は胴体へと降り掛かった。外殻を溶かし、関節部に到達したものは組織への侵蝕を始める。


「キシャー! ギシュッ! ジャッ!」

 苦しみにのたうっている。

「む!」

「やっぱりね。リフレクタで物理は防げない。スラストスパイラルも芯を外せば弾けない。これが盲点だったね」

「くぅ」


 螺旋力場(スラストスパイラル)は薄紫の螺旋の光と、それを覆う黄色い力場で構成されている。なので尾のように見えている。

 螺旋光は物理干渉力があるが、黄色い力場部分にはない。おそらくリフレクタと同じ性質。蹴った土砂がすり抜けていたのが証左だ。だから広範囲にアンチVの飛沫を撒けば一部は当たる。


「賢しい手を」

「分析力って言ってよ」


 もう一つカートリッジを手に取る。苦しんで滅多やたらに衝撃波咆哮(ブラストハウル)を周囲に放っている上半身へと接近した。開いた口の方向で射線を読んで回避。頭上に放ったカートリッジを斬りながら通過した。


「シャギャー!」

 アンチVの雨に多脚ヴァラージが叫ぶ。

「終わりだよ」

「避けろ」

「無理さ」


 背中からハイパワーランチャーのアンチV弾頭で攻撃する。正気ではないヴァラージは回避も不可能。身体の数ヶ所に着弾を確認すると崩壊を始めた。


(贅沢戦術だけど通用したね。ストックスペースの多いリュー・ウイングでなければ躊躇してたな)


 マルチプロペラントには大量の弾液(リキッド)パックとアンチVカートリッジをストックしてある。重さを気にしなくていいからこその策。単独戦闘能力を限界まで上げてあった。


「よくもまあ小細工を」

「さあ、相手してもらおうか」

「否。第二ラウンド開始だ」


 次に空から降ってきたのも異様だった。30m近い人型ボディはパワータイプにも思える。ただし、上半身に四対もの腕が生えていることを除けば。


(手数で攻めてくる形態? ボディが大きいのも腕の数を増やすために他ならなさそうだね)


 多脚タイプの次は多腕タイプ。歓迎の準備は万端だったらしい。手の内をさらさざるを得ないと感じる。


「第何ラウンドまであるのかな?」

「それを教えてやるほど間抜けだと思ったか?」


 悠々と構えるタンタルにジュネは不気味さを覚えていた。

次回『戦闘生命(3)』 「一人で踊るのが好みなのさ」

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