オギラヒム攻略戦(2)
(どう見てもこれが拠点)
リリエルは訝しむ。
取り付いてみて改めて思う。あまりに巨大である。航宙船の比ではない。つまり生活拠点でもあるはずなのだ。
(ラギータ種ってのが人型生物である以上、生活拠点は不可欠。それをぶつけてくるってことは、いきなり決戦を仕掛けてきた?)
理屈的にはそうなる。なのに守りはお粗末だと感じる。取り付けば防御フィールドもリフレクタも機能しない。事実、足元へのビーム攻撃で大被害を受けている。
(勘違いしてた? 軸部分は中枢じゃない? 放棄してもいいところ?)
確かに手応えは薄い。誘爆を起こすような物がないのか、破片と溶解した金属の雫が固まったものが装甲を叩くだけに終わっている。
(焦りがなくもない。やってきたし)
傘の内側から続々とヴァラージが湧き出してくる。しかも今度は人型がメイン。危機感を覚えているといえなくもない。
(でも感触が違う。平気で撃ってくる)
生体ビームが防御フィールドを貫通してくる。当然軸の装甲にも着弾する。無頓着に攻撃は止まない。まるで自傷行為だ。
(なに考えてるんだかさっぱりわかんない)
衝撃波咆哮を放とうとした頭へ肩をかち上げて止める。腹から斜め上にブレードを突き入れた。痙攣する躯体に二発のアンチVを叩き込む。崩壊を始めるところまで確認した。
「ひえぁっ!」
ゼレイが力場鞭を躱しながら踵で火花を上げて逃げる。
「飛び込みなさい。逃げたら思う壺」
「っても、手数が違うます」
「ビビらない。口調が変」
フランカーを飛ばして背中を削る。振り向いたところで妹分が間合いを詰めた。気づいたときには脇を横一文字に薙いでいる。
「気持ち悪!」
「はい、すかさず撃つ」
断面にビームを着弾させて焼く。うごめいていた組織が突沸したように爆発した。空になった外殻が漂う。
「これ、中身なんなんですかね?」
「どっちかっていうと甲殻類系? 人間とか動物とか食ってない感じじゃない?」
肉エビのような培養生物を取り込んでいたように感じる。おそらくオギラヒムの内包するヴァラージは防衛用、もしくは攻撃用にここで増やしたものだろう。
「傘の中を叩かないと終わらなさそう」
「でも、あん中ぎっちり詰まってそうですよう?」
迫る金線からゼレイのゼキュランをラキエルの背中で押す。足元の装甲に破断面が刻まれていく。接触したまま話し掛けた。
「ここで迎え撃っても相手のペース。転調したいとこなんだけど」
「大穴開けないと中継子機が入れないです。補給が絶たれちゃいますよ?」
「冗談でしょ。あんたがそんな真っ当なこと思いつくなんて」
「うちも成長してるんです!」
フランカーを戻してチャージする。組み付いてきた人型のフォースウイップはフランカーに受けさせて首を刎ねる。切っ先を跳ねさせて上段から断ち割った。
「弾液はともかくアンチVがね」
断面に打ち込んで再生を止める。
「これがないと炭にしなきゃなんないのが面倒。補給線は維持しないと」
「でしょう?」
「今のやり方じゃ限界あるのよね」
アンチVカートリッジは持ち運びしやすいよう小型化しマグネット接着できるよう加工されている。現在はローテーションで中継子機をレイクロラナンに戻させて補給しているが、突入するとなると身近に置くしかない。いちいちレイクロラナンまで戻らせるとなると護衛に戦力を割く必要が出てくる。
「いっそのこと、コンテナごと運び込む?」
手っ取り早い。
「すぐに気づかれて集中攻撃されます。防衛編隊がもたなくないですか?」
「あたしたちでやるの。他は足止めると際どいけどゼルと二人ならなんとかならない?」
「買ってくれるのは嬉しいけど厳しいですぅ」
苦い声音で答えてくる。
「いいじゃない。黙って待ってるだけで敵が寄ってくるのよ?」
「それが大変なんですよー」
「なるほど。それはいい」
ジュネの声が挟まる。気づくと近くにいた。串刺しにした人型にアンチVを撃ち込んでいる。
「ぼくが拾ってくる。防衛は任せていい?」
青年が尋ねてくる。
「じゃ、それで。戻るまでに穴開けとく」
「よろしく」
「居候! そんな気楽に言うなー!」
ゼレイが後ろ姿に吠える。彼が周りの人型まで引き付けて行ってくれたので文句を言う筋合いはない。
「さあ、お仕事お仕事」
「エル様、なんでそんなに楽しそうなんですかー?」
軸は放棄して傘の裏側、つまり前方向きの部分へと向かう。抵抗が強まったところを見ると、やはりそこが本命か。
「ヴィー、ラーゴ、突破口を開く。回せる部隊を寄越して」
呼び掛ける。
「合点っす」
「後ろにつきました。ポイントの指示をお願いします」
「仕掛けてみてから。部隊リンク飛ばす」
損害確認をする。大破機も出ているが、いずれも腕や足といったパーツ。換装に戻らせていて再編もしてあった。
(さすがね、ヴィー。ラーゴも抜けがない。これなら作戦続行可能)
即座に判断して意識を切り替える。
(どこ? 抵抗が激しいとこが弱いと見る? それとも単に集まっているだけ?)
ヴァラージの本能的戦い方からして、普通なら後者と読む。しかし、裏にタンタルがいると考えると前者である可能性が高いと判断した。
(統率されてると思っていいのよね。なら、抜きに行く)
あえて数の多いところを目指す。フルチャージしたフランカーを放出した。弾幕で散らす。
「リンクスタンバイ」
『部隊リンクを構築します』
応射が来る。意識に走る金線を部隊リンクに流した。生体ビームなので躱すしかないが、どこに来るかわかっていれば余裕ができる。反撃も早かった。
「薙ぎ払え!」
「応っ!」
ここぞとばかりに集中攻撃する。突入作戦の山場だ。誰もが惜しげもなくビームをばら撒き、アンチVを撃ちまくった。一点集中の猛攻に人型ヴァラージの層が崩れていく。
「拡散モードぉ!」
ゼレイが前に出て拡散ビームを放つ。
「当ったれぇー!」
吠えているがそんなに甘くはない。一斉にリフレクタを掲げて防がれる。しかし、それも十分な足留めになった。一気に攻勢に転じたヴィーの隊が撫で斬りに行く。リリエルもフランカーを飛ばして仕留めに掛かった。
「高収束ぅ!」
細く絞られたビームがヴァラージの額を貫く。
「上手」
「いっぱい練習しましたもん」
「その調子」
動きを止めた人型に止めのアンチVを直撃させて蹴り飛ばす。打ち付けてくるフォースウイップをフランカーのブレードで受けて肩の根本から斬り離す。脇腹にアンチVを叩き込んで崩壊させた。
(さすがに弾体の消耗が激しい。どこまでいける?)
傘の裏側は見えている。宇宙空間なので近そうに見えて遠い。ましてや対象のスケールが違いすぎて錯覚しそうになる。
(あたしが不安になったら駄目。部隊全体が崩れる)
「突貫!」
フランカーを先行させてビームを撃たせる。思いがけず短い距離で着弾した。装甲に穴が開く。
(わりと近い。意識の問題だった。ここを抜く)
彼女の行動に勢いづいたアームドスキン隊が突進する。開けた穴に放火を集中させて広げていく。突入の足掛かりができあがりつつあった。
「やってくれる。猿の所業だとて、ヒュノスの性能は侮れんということか」
違う形態の人型が内側から現れる。それまでとは異質な空気を纏っていた。うねる二対のスラストスパイラルが異様を助長する。
「まさか……、タンタル?」
リリエルは背筋を走る悪寒に見舞われていた。
次回『オギラヒム攻略戦(3)』 「わずかでも揺らいでるように見えるか?」




