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ハーフ&ハーフ(1)

 交わされる言葉は決して形式張ったものではないのに準備が整然と進められていく。レキストラはそう感じていた。


(これは?)

 自らの勘違いに気づく。

(ただの荒事師の集団(チーム)ではないというのでしょうか)


 彼女も父親である大統領の補佐官を務めている。自衛軍の観兵式に立ち会ったことくらいはあった。そのときに抱いた印象が今の景色に重なっている。


「ラーゴは側面、前掛かりに展開。武装貨物船を牽制しつつ援護なさい」

「うっす」

 カウントゼロと同時にリリエルが指示している。

「ヴィーはあたしと軌道制御ステーションを直接攻略。機能停止までは有りだけど、基本的には破壊しないように。防御フィールド無しを忘れない」

「承知いたしました」

「数だけは多い。流れ弾の一つも磁場発生器へ流れるのは厳禁よ。よろし?」


 命令に合わせて、武骨なはずの戦闘機械が形作る戦列(ライン)が美しくも見える。どれだけの訓練を重ねれば生まれるものだろうか。レキストラには想像もつかない。


(南天との同時攻撃作戦がスムースに進められていく。ジュネ・トリス様が使うだけのことはあるということ? 顔つなぎだけではないと)


 星間管理局の意図は理解できる。星間銀河圏に一大旋風を巻き起こしたゴート宙区は脅威でしかない。軍事的に凌駕するのではなく、御してみせるのが加盟国民に安心を与える材料として示すというもの。宥和政策の見せ方である。


(それを超えるなにかなのかも。遠謀が計り知れない。返す返すも底知れないお方。巨大機関の末端に置いておくにはもったいないですわ)


 青年ほど優秀であれば、惑星国家コンコリオを繁栄に導くことなど造作もないと思わせる。宙区の人流ハブを作りだし、ゆくは経済圏構築のモデルケースともなり得よう。彼をレキストラの傍らに置ければの話。


「ダレッティ、控え。北舷に切り込む」

「合点!」

 副官の指示が飛ぶ。


(人は使い方次第。情に流れても利に流れても上手くいかない。論を尽くせども機能するとは限らない。導き手で相は変わる。わたくしはそれを知っている)


 レキストラは政治の難しさを熟知しているつもりだった。


   ◇      ◇      ◇


「世も末よね、こんな環境テロリストどもがまともなアームドスキンを持ってるなんて」

 リリエルは呆れている。

「それくらいには浸透して安価になっていると言いたいところですが、現実はそこまででもありません」

「安くはない買い物のはず」

「つまり、こんな活動にも支援者がいるということです。まあ、支援者たちの本当の目的が環境保護とは限らないのですが」


 環境保護や自然保護といえば聞こえはいい。ところがそこにも利権が発生し、財閥や政治家の私財に化ける。利に敏い人間が群がり公金を貪る温床の一つになっている。


「で、乗せられた活動家は正義の味方気取りで自分の命も他者の命も軽いものに変えていくって?」

「ジュネでなくてもうんざりしますね」

 唾棄する主にヴィエンタは同調する。

「だからって勝手をさせるわけにはまいりません。速やかに排除いたしましょう。当然ですが、軍事(こちら)方面ではお世辞にもプロと呼べない腕前です」

「ええ、さっさと制圧。本物を教えてやりなさい」

「合点!」

 隊員たちが応える。


 事実、難しい敵ではない。通常の戦闘のように砲撃を混じえての序盤とはならないが、それはブラッドバウの不利には繋がらないのだ。彼らの本領はブレードアクション。接近戦を旨とする。


「お嬢、武装貨物船が退かないっす。沈めてもいいっすか?」

 プライガーが寄せても下がらないという。

発進させ(だし)てもこない? ハリボテだったのかしら?」

「かもしれないっす。でも、無視もできないっすね。ステーション攻略中に襲われるのは面白くないっす」

「そのまま押さえときなさい。いければ制圧まで。ステーションはあたしに任せて」

 リリエルは柔軟に手順を変えていく。

「了解っす。無茶せんでくださいよ、お嬢」

「大丈夫よ、ラーゴ。こっちはヴィーがいるから」

「そっすね」


 戦力を分散させるのはよろしくない選択だが、そもそも想定より敵が少ない。有名環境テロリスト『無垢の輝き』とはいえ資金が潤沢ではないということか。


(油断していいわけではないけれども、万全を期するのは無理というもの)

 状況が簡単ではない。


 接近戦に移行してからは混戦模様になる。テロリストのアームドスキンは意図的にステーションや磁場発生器を背負わせるような位置取りをする。別に破壊されてもかまわない素振りを見せる。


(ステーションにはまだ仲間が乗り込んでいるっていうのに。これだから自爆上等の思想犯どもは)

 手に負えない。


「悪足掻きね。引っ張ったところで仕方ない。こっちは一気に制圧まで進める」

 リリエルが決断する。

「勝負が早そうですね」

「ラキエルを着けて制御を奪うから」

「援護します」


 双剣が閃きビームが寸断される。彼女の主はどんな戦場でも斬り裂いていける力の持ち主。ヴィエンタは負荷が掛かり過ぎないようコントロールするだけでいい。


「ステーションを外して弾幕。道を作れ」

「応っ!」


 言わずとも牽制する編隊(チーム)と弾幕を張る編隊(チーム)に分かれる。ビームの斉射がステーションまでの円形の道を作る。そこにテロ機が混じっているが構いはしない。リリエルの敵ではない。


「命が惜しければ真っ直ぐ下がれ!」

「宇宙を汚すだけの愚か者に下るか!」

「だったら墜ちなさい!」


 ラキエルに蹴られたアームドスキンが回避を誤る。弾幕に飲まれて粉砕されていく。最後には爆散して消えた。


「お嬢に続け」

「合点」


 弾幕を広げつつ突進する。数秒と掛からずラキエルが取り付いた。外部端子を見つけると自在ケーブルを伸ばして物理接続する。


「エルシ、奪取」

『一秒でよくてよ』


 即座に制御が奪われ、各部のハッチが開放される。中の空気が放出され、湿気が白い霜になって吹きだすのが確認された。


「あらかた片づいたし、みんなつれて突入なさい、ヴィー」

 リリエルが命じてくる。

「お嬢は?」

「なんか嫌な感じがするから残る。フレニオンフランカー使って掃討しとくから中の連中の確保をお願い」

「ですが」

 一人にするのは考えものだ。

「生身相手は面倒。任せる」

「行ってください、ヴィー隊長。うちも残るから大丈夫です」

「あんたも行くの、ゼル。手勢は多いほうが早いんだから」

「えー」


 ゼレイが不平をもらしている。だが、リリエルの判断は間違っていない。生身を制圧するほうが手間が掛かる。


「すぐに済ませます」

 デュミエルを取り付かせて準備を始める。

「守っとくから。もしものときはラーゴを呼び寄せるし心配ない」

「はい。急ぎます」

「ふにゅー。んじゃ、中で鬱憤晴らしします」

「手加減してあげるのよ」


 笑いながら送りだす。ヴィエンタは予め用意していた拘束用具をシート下から引っ張りだして背負った。小銃型のハイパワーガンを抱えてバッテリーチェックをする。


「総員構え」


 アームドスキンから降りてきた隊員を指揮する。複数のハッチに張り付かせると同時に中に向けて斉射させた。ヘルメットの機能が応射のレーザーを可視化させる。


(そんな簡単に急所に当たるものではないわ)


 死なせないつもりだが死んでもかまわないくらいのつもり。縁からハイパワーガンだけ覗かせて照準カメラで内部を確認する。身体をさらしたテロリストたちが見えた。


(どこまで素人なの)


 ヴィエンタは呆れながらも足を狙って撃った。

次回『ハーフ&ハーフ(2)』 「あたしの見せ場を奪わないで」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 民間人(?)も破壊兵器を使う時代か?
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