無垢の輝き(3)
「さて、説得は功を奏しませんでした。申し訳ありません」
「かまいませんわ。相手が折れるとは思っておりまりませんでしたもの」
(よく言いますね、ジュネも。安易に片づけるつもりはなかったでしょうに)
目論見までは読めていないものの、ジュネが話し合いで決着を付ける気はなかったのはヴィエンタもわかっていた。彼が関与する気になった原因のほうは判明していない。
「これから強制執行、つまり戦闘による奪還に移ります」
青年はわかりやすく投影パネルを確認している。
「ここで確認です。南北天の軌道制御ステーションですが、片方でも残っていれば磁場発生器の管理は可能なのですね?」
「ええ、二基の一方がメインでもう一方がサブとして機能するようになっています。メンテナンス時はメインを入れ替えておりますわ」
「両方が機能停止した場合は地上制御室から管理できるようにもなっていますね?」
機械的に独立させるための軌道制御ステーションだが、制御信号が失われれば地上からの通信も受け付ける仕組みになっている。危険性は高まるも、安全装置としては幾重にも機能するようになっている。
「占拠されている施設への攻撃になるので最悪の事態はあり得ます。その場合は管理局から緊急支援措置があります」
ジュネが万一の場合を説明している。
「もしかしたら、もう管理機能は破壊されているかもしれません。覚悟しております。ただし、磁場発生器だけは傷つけないよう配慮お願いしますわ。簡単に替えが効くものではありませんので」
「少なくとも、直接攻撃対象にすることはありません。ですが、絶対の保証ができないものとお考えください」
「そうですわね。『無垢の輝き』は破壊することに躊躇いはないのでしょうから。人的被害を出せばただでは済まないと思っているだけですわ」
最悪は落下させること。次は破壊されること。この二つは避けたいだろう。それ以外はリカバリが効く。
「以上を踏まえてのオプションとなりますと、どうしても南北同時攻略をしなくてはなりません」
二基のステーションを同時に奪還する作戦。
「片方を奪還してももう片方を占拠されていれば制御は奪われたままになります。その場合、焦りから危険な選択をさせてしまう可能性は高い。なので、両面で考える時間を与えないような作戦が必要になります」
「わかります。そのおつもりで追加の民間部隊をお連れになったのでしょう?」
「そのとおりです。レイクロラナンは以前からの契約も実績もある部隊なのでご安心を」
レキストラも想定していた様子。
「ぼくが駐屯GPF戦闘艦を用いて南天を攻略します。北天はこのままレイクロラナンに攻撃してもらいます。レキストラ嬢はこちらでご観戦ください」
「はい? あなたはこちらを指揮されるのではありませんの?」
「いえ、駐屯部隊は非常時の防衛行動を旨とした編成になっています。今回のような作戦行動を得意としていません。なので、直接指揮したほうがいいのです」
(方便ですね。彼女にあまり手の内を見せたくない?)
そんな意図が感じられる。
「わたくしは移乗しなくても?」
「ええ、戦闘能力ではレイクロラナンのほうが上です。安全なほうにいらっしゃってください。南天の情報も逐一伝わるようにしておきます」
令嬢はあてが外れたという面持ち。
(ジュネの実力を計るつもりだったのでしょう。そういう意味でも避けた?)
視線をうるさく感じたのでもないだろうに。
「では、ぼくは移動しますので。作戦は同時開始になるのでお待ちを」
「はぁ……」
レキストラが呆気に取られている間に青年は動く。ゲストシートを一礼して通り過ぎるとリリエルに作戦指示をして艦橋をあとにした。
「変な動きはないと思うけど一応警戒しといて」
σ・ルーン経由の個人回線で注意が届く。
「わかります。ですが、なんと言ってきても要求は拒否しますよ?」
「それでいいよ、ヴィー。しつこいようだったらこっちに回してくれていいから」
「承知しました」
パスウェイを解除したファナトラが窓外を通り過ぎてGPF艦と合流する。程なくして虹色の転移フィールドに包まれるとショートドライブで南天へと跳んでいった。
「なんでしょう、この対応は。抗議いたしますか?」
腹に据えかねたのか警護秘書官のドリーが令嬢に提案している。
「いいえ、筋が通った説明でしたわ。納得できます」
「しかし、民間部隊の中に放置されて補佐官殿になにかのことがあれば」
「人聞きの悪いことを言わないで。そのへんの荒くれ者とは違うのよ」
リリエルが聞きとがめる。
「承知しております。あの方が保証なされたんですもの。ドリー、失礼でしてよ?」
「すみませんでした。ですが、艦内では自分から離れないようお願いいたします」
「ええ、あなたの努めですものね」
(気持ちはわかるけども、主人に恥をかかせるものではないわね)
若いパイロットの先走りにくすりと笑う。
(でも、この感じ。国民が支持しているとおり、しっかりした人物に見えますね。部下もちゃんと御して、鷹揚に対してもいます。だったら、なぜ?)
ジュネはあからさまに彼女を警戒している。視察を拒まなかったのも、レキストラを地上で自由にさせておいたらどう転ぶかわからないから目の届く範囲に置いておこうという意図からだろう。しかし、ヴィエンタには彼女が黒幕である動機がうかがいしれない。
「リリエルさんでしたわね」
「うげ」
彼女にあとを任せて機体格納庫にでも逃げ込もうとしていたところを呼び止められている。あきらめたか、表情を押し殺して顔を向けた。
「ジュネ・トリス様とは親しいんですの?」
際どい質問が来る。
「ご愛顧いただいてます! 親しいといえば親しいほうなんじゃない」
「どういう方です?」
「興味あるの?」
「ええ、とっても」
令嬢は悪気のない朗らかな笑みで返す。
「あまり期待はしていなかったのですけど、ずいぶんと優秀な方がいらしてくださったんですもの。そうなのでしょう?」
「優秀という意味では飛び抜けて優秀よ。他にいないほど」
「やっぱり」
(嘘がつけるくらい器用ならいいんでしょうけど無理よね。ましてやジュネのことだと)
さすがに咎められない。
「もったいないですわ、星間管理局のような機関で大衆の雑務に忙殺されるなんて。あのような方こそ大衆を率いて素晴らしい国造りに邁進なさる立場にあるべきです。そうは思いませんですこと?」
微妙な質問を投げ掛けられる。
「政治家だって同じことでしょ? 国民の期待に応えるのが一番じゃない。そうでない政治家が多いのも事実だけど」
「そんな皮肉をおっしゃらずに。一面事実ですけれども、やはり大きな指針を示して大衆を先導できるのも政治家というものなんですのよ?」
「だからってジュネが政治家に向いてるなんて思わない。そんな小さい枠に捕らえておくほうが不利益」
顎を反らして答えている。
「将来的に星間管理局本部に席を置かれるのでしたら星間銀河圏にとって大きな利益になりましょうけど、あれほどの巨体ではなかなかそうもまいりませんのでは?」
「あたしも詳しくはないけど、権力抗争とか汚職とは無縁の機関よ。そこに到達するのは本当に優秀な人。彼みたいな」
「買っているのは同じですのね」
(落ち着いて、大人な対応ができているのは成長ですね)
昔のリリエルでは無理だっただろう。
ヴィエンタは彼女と出会った頃のことを思い出していた。
次回『二つの命(1)』 「リリエルのことなんだがよ」




