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神意の領域(5)

 ジュネがリンクで示していた場所で光の鞭が踊る。怖れていたものが出現するのがリリエルにも察せられた。


(あれを見て乗り込もうとか気がしれない)

 正気の沙汰とも思えない。


 天板が崩れると中で螺旋光がのたくっている。全高が22mほどの甲殻を持つ人型が螺旋力場(スラストスパイラル)の尾を引きながら姿を見せた。


「この僕に狂ってると思わせるとかどうなんだろうな?」

 皮肉交じりの声音でジノが言う。

「物珍しく見えたんじゃないかな? いや、ぼくの感性でも受け入れられるものじゃないね」

「安心して。それが普通。あたしなんか怖気が止まらないもん」

「警告するか? そもそも話が通じる構造になってるもんだか」


 ジュネが言ったとおり三体のヴァラージが現れた。つまりはあれも間違いなく生命体なのだ。今は乗り込んだ人間と合わせて二つの灯りを持つという。


「話せるのか?」

 ジノがオープン回線で呼びかける。

「無論ですわ。降伏すると言うなら考えなくもありませんことよ」

「そんなつもりはない。そっちこそ今のうちにそいつを捨てるのを推奨するね」

「愚かしいこと。アームドスキンなど比較にならない一体感。こんな素晴らしいものを放棄するなどあり得ませんわ」

 自信満々な女の声。

「どっちが愚かだっての。それがなにか知ってて言ってるんなら頭壊れてるから」

「これがなんだというの? 賢しらげに」

「知らないわけね」


 やはり知らないようだ。構造が大きく異なるだけで、アームドスキンのような機動兵器と同じものだと思い込んでいるのだろう。


「悪いことは言わない。それに食われないうちに降りるんだ」

 ジュネも冷たい声でたしなめる。

「食われるとはなんのこと? わたくしの身体として同一化していますわ。確かにこれの魅力に取り憑かれると他の無味乾燥な機体になど触れるのもおぞましいと思いますわね」

「どうやら精神から先に蝕まれてるね」

「つまらない脅しだこと。そんなにこれを奪い取りたいの? 絶対に差しあげませんわ」

 嘲りを含んだ言葉が届く。

「手遅れにならないうちに言ってあげてるのをわかりなさい」

「無用ですわ。お前たちこそ、この力を手に入れたわたくしの前に立ちふさがったことを後悔なさい」

「物分りの悪いオバさんね」


 舌打ちとともに告げる。しかし、相手の逆鱗だったようだ。


「言いましたわね? お仕置きが必要みたいですわよ、小娘」

 リリエルの張りのある声から察したか。

「教育してあげる、本当の戦場振る舞いってものを」

「言ってなさいな!」

「いくらでも! フランカー!」


 フレニオンフランカーを射出する。白く輝く生体ビームから身を躱しながら照準する。ビーム全門で集中攻撃した。


「あら、これは便利だこと」

 スラストスパイラルがひるがえってビームを弾き飛ばしている。

「ちっ、自己防衛反応まで働くなんて」

「汚い言葉。お里が知れますわ」

「言ってなさい。あたしは産まれたその日から戦士家業よ」


 残り二機が援護に動く気配を見せるが、それぞれに牽制のビームを浴びて二歩目を刻めない。夜色のフレネティとリュー・ウイングが動いていた。


「誰が先に潰すか競争するか?」

 不謹慎な台詞はジノに決まっている。

「あなた、勝てるつもり?」

「旧式と嘗めるなよ。協定機だ」

「それなら結構」


 ジノと遊んでいる余裕はない。まるで重力を感じさせない動作で女のヴァラージが跳ねる。叩きつけられた力場鞭(フォースウイップ)は施設の基部フロートをバターを切るように簡単に裂いた。


「自分の住処壊すとか!」

「誰の所為だと? わたくしの楽園を奪いにくるから放棄せざるを得なくなったというのに」


 手首の返しだけでフォースウイップがループを描いて基部が刻まれていく。ラキエルを逃がすとフランカーを連ねて突進させて押し戻そうとする。しかし、女のヴァラージはウィップを器用に使って跳ね除けた。


(上手い? どこまでがパイロットの腕でどこからがヴァラージの反射行動? 読めない)


 パイロットの技量であれば精神的な崩しが効く。しかし、ヴァラージの反射であるなら計算できない。逆に長引くほど学んで敏捷になる可能性も。


(やりにくい)


 性能的には自律タイプの人型と大差ない。フォースウイップは30mほどしか届かないし、生体ビームの砲門も両胸に見られるレンズ器官だけだろう。それなのに底知れなさを覚える。


(どこが違う?)

 見極めようとする。

(わかった。人間臭い誘いみたいなフェイントが混じってる。それが、ね)


 自律タイプは動物的な反射行動があるので攻め手が苦しむ。ただし、攻撃は闘争本能のままなので曲がったところがない。

 しかし、人の操るそれは懐に誘い込むようないやらしさを感じる。不用意に踏み込むと嵌められかねない怖さを覚えた。


「どうしたの? 避けてばかりでは面白みがありませんわ」

「気色悪い」


 砲火を浴びせて螺旋力場(スラストスパイラル)を使わせているので躯体は動きが鈍い。間合いを見切って鼻先をかすめるようにフォースウイップを避けつづける。それを揶揄された。


「やり方がエグいのよ。粘りつくみたいな攻撃に反吐が出そう」

「負け惜しみですわ」

「残念。手管で濁す、若さのない攻め筋だって言ってる」


 途端に光の鞭の動きに雑味が混じる。挑発に怒気を膨らませて手元が怪しくなっているのだ。切っ先に絡めて跳ね除け一足に踏み込む。跳ねた一閃は胸元の甲殻を削った。


「生意気な小娘ぇ!」

「どっちが負け惜しみ?」


 正面に長居はできない。女が吠えるとともにヴァラージの口も開く。リリエルの戦気眼(せんきがん)には金光の太い束が映っている。


衝撃波咆哮(ブラストハウル)。これがあるから)

 剣の間合いで勝負しづらい。


 一撃離脱になってしまう。身を引いた空間を貫いた衝撃波は海面で水柱を上げている。一直線に海をえぐっていた。


「よく躱しましたわね? もしかして、これのこと本当に知ってらっしゃるの?」

「その怪物、どれくらい危険かは身をもって知ってる」


 フランカー二基と入れ替わりフォースウイップを捌かせる。その間にまわり込もうとうかがったが、スラストスパイラルで叩きにきたので間合いを外すしかなかった。


「教えてくださる? うちの役立たずではなに一つ掴めませんでしたの」

 生体ビームで押し戻される。

「無理よ。それは人間の理解の範疇を超えてる。触れれば火傷で済まないから」

「それでこそ、わたくしに相応しい。今それを全身で感じてますわ」

「タチの悪い薬と大差ないって知りなさい!」


 両腕のウィップをフランカーに相手させ、滑り込ませたもう一基に生体ビームを誘わせる。入れ替わりにラキエルを飛び込ませ、肩口に矯めた一突きを浴びせた。

 半身で躱したヴァラージが頭だけこちらを向ける。放ったブラストハウルが海面を叩いて爆散させた。


(ここ!)


 退いたと見せかけて水の雫を目眩ましに再接近。飛沫を断ち切った剣閃は下から右肩を捉える。反射で引かれてわずかに浅く、切っ先が肩を半分近く断ち割ったに終わる。


「しくじった。もう一歩」

「このじゃじゃ馬娘! 躾けて差しあげますわ!」


 言葉とは裏腹に下がっていく女のヴァラージ。アジトの一部をフォースウイップで叩いて破壊している。


「なにしてる? 畳み掛ける!」


 かまわない。一気に詰めて仕留めるところ。しかし、大上段からの一閃を寸止しなくてはならなかった。


「やっぱり。甘いこと」

「こんのぉー!」


 突きだされた手には人が握られている。風体からして人質の一人のようだった。若い男は泣き叫んでいる。


「これで攻撃できなくなりましたわ。さあ、いらっしゃい。なぶってあげますわ」


 リリエルは動けなくなってしまった。

次回『神意の領域(6)』 「あいつに引き上げてもらえ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 手遅れだったかぁ。
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