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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
喜びの代価
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運び屋ニーグ(3)

 突如として現れた二機のアームドスキン。アニーグがどう応ずるべきか迷っていると本星とは反対側を指さす。早く領宙外へ出ろという合図だろう。


(逃してくれるって。どっかで売った分の恩返しか?)

 心当たりならいっぱいあるが。


 機動兵器と同じ金色の翅を持つ小型艇が接近してくる。二機ともそのカーゴスペースに帰っていった。アレグリン号より一回り小さい船体は一定の格納スペースしか持たない軍事用のものだろう。


『ブラッドバウ船籍の小型艇『ファナトラ』が航行リンクを求めてきています』

「リンク?」

 意味するところはわかる。

「一緒に跳ぼうってことか。まあ、助けてもらった手前、断るのは義理に欠くな」

「誰なんでしょう?」

「わからんね。さっさとトンズラこいてから話す気ってとこか」


 彼にしても領宙内でのんびりしていたくはない。連中の網から逃れて隠れるのが一番だろう。


(ブラッドバウ? 記憶にないな)

 そこが引っ掛かるが、縁などどこで繋がってるかわからない。


「許可だ、システム。とりあえず予定ポイントに一回目の超光速航法(フィールドドライブ)をする用意を」

『承知いたしました』


 ファナトラという小型艇は斜め後ろを並走してくる。プラズマジェットの光も見せず飛ぶ姿は、さながら宇宙の鳥か虫のよう。


「こいつは高級品、そうとうの優れもんだろう」

 うらやましくもある。

「出ました。民間軍事機構『ブラッドバウ』。軍事会社で星間管理局に登録あります。所属はゴート宙区ですって」

「本場もんか。そりゃ見慣れないアームドスキンを使ってるはずだ」

「そんなとこまで恩を売りに行ってるんですか?」

 セージュが小首をかしげる。

「いんや、あそこには行ったことないんだけどな」

「じゃあ、なんで?」

「さあ」


 本人に聞くのが一番手っ取り早い。時空間復帰(タッチダウン)ポイントだけリンクする伴走航法で、領宙を出ると同時に時空界面突入(ブレイクイン)する。


時空間復帰(タッチダウン)誤差50m以内です』

 虹色の泡とともに復帰する。

『ターナ(ミスト)を検知しました。これより電波通信および電波レーダーは無効です』

「マジか。隠密航法とは贅沢なことで」

「軍事利用される電波撹乱粒子のことですよね?」


 彼らのような素人にはほとんど縁のないものである。むしろ邪魔にしかならない。観測を阻害する、つまり宇宙を狭くする行為に他ならない。


「簡単に見つからなくなるからね。俺としちゃ都合がいいけどさ」

「なんだか怖い雰囲気するんですけど」

「言っちゃ悪いが、もしあれに悪意があったら俺たちとっくに死んでる」


 セージュは情けない面持ちになる。そんな危険な取材になるとは思っていなかったのだろう。ところが蓋を開ければ危険の連続である。目が「いつもこうなのか?」と訊いてくるので首を振って返す。


「聞こえてる? 話はそっちに行ってからするからダイレクトパスウェイを繋げる許可を出しなさい」

「わかった。なにもしないから手出しは無しでよろしく」

「なにビビってんの? こっちに来いとは言ってないでしょ?」


 荒事をする気なら問答無用で引き入れてからにするという意味。アニーグの権限の範囲内に入るのだから有利な状況を作れると告げてきている。


「ご配慮感謝しますよ」

「よろし」


(若い女の声だな。モテ期到来か?)

 不謹慎な軽口を思い浮かべるが彼女の手前口にしない。


 ファナトラから伸びたパスウェイがアレグリン号のハッチに接続される。礼儀として迎えに出向いた。


「リリエルよ。よろしく。なに?」

 彼は両手を上げている。

「いきなり銃でも突きつけられるかと思ってね」

「沈められたい?」

「いえいえ、逆撫でするようなつもりは。空気を和ませるジョークですよ」


(うお!)


 ヘルメットを脱ぐと見事なオレンジ色の髪が広がった。首に巻きつけていた髪を後頭部の高い位置でオートバンドで留める。ポニーテールをなびかせながら船内に入ってきた。


「あっちはジュネ。アニーグ・カッスルで間違いない?」

「正解だ、リリエルちゃん」


 言いつつギョッとしていた。彼女に続いてやってきた人物はさらに幻想的な外見をしている。首元までの暗い銀髪に浅黒い肌。スッキリとした顔立ちに右は紫、左は緑の瞳が嵌っていた。独特の雰囲気を醸しだしている。


「急なことで失礼、運び屋ニーグさん」

 微笑みの絶えない口元から涼しげな声がこぼれてくる。

「訳あって援護に来ました」

「援護?」

「簡単にいえばあなたを守りに来たんですよ。仕事がしやすいように」

 そんな頼み事をした覚えがない。しかし、口振りからして承知のうえらしい。


 その場で聞くのも礼儀に適わないので操縦室へと招く。客を招いてどうこうという場所でもない。無重力タンブラーのドリンクを渡す程度で勘弁してもらう。


「そちらの方は?」

 青年が尋ねてくる。

「フリーライターのセージュさん。取材が入っててね」


 リリエルが目顔で訊いているがジュネは肩をすくめただけで終える。どうやら彼女のことまでは承知していなかったらしい。


「実はとある人物に依頼を受けて警護しに来たんですよ」

 ジュネは続ける。

「どこのどなたさん?」

「スポンサーのことは明かさない契約になっています」

「誰にお礼を言えばいいのかわからないのは不自由だね」

 それとなくカマを掛ける。

「心当たりならあるでしょう? 慈善行為はあなただけの専売特許ではありません」

「もっともだ」

「ご理解いただけて幸いです」


 主導権を握っているのは青年のほうと見える。リリエルは黙って成り行きを見つめていた。軍人肌を感じさせる彼女のほうが与し易いと感じていたが、当てが外れる。


「とはいえ護衛が必要な仕事じゃないと思うんだけどね。品物を運ぶだけだぜ?」

 表情をうかがう。

「おや、さっきのがただのお遊戯だとでも?」

「今度の舞踏会で披露するダンスの練習さ」

「そんな特技があるとは知りませんでしたよ」

 ジュネはくすくすと笑っている。


(つまらん仕掛けには乗ってくれないか。こいつは厄介な男みたいだな)

 誤魔化しを怒るどころか不機嫌にもなってくれない。


「舞踏会のガードまでは承っていません。それまでに契約期間が終わることを祈っておきましょう」

 すらすらとそんな台詞が出てくるとアニーグも顔をしかめるしかない。

「期間とやらがあるわけだな。その間は付き合えって?」

「スポンサーの要望はそうです」

「誰かの気まぐれに付き合う義理はないんだけどね」

 皮肉の一つも交える。

「つまんないことを気にするのはおよしなさい。気に病むような額じゃないから」

「安くはないだろう?」

「戦闘艦規模ならね。それこそ富豪か大手企業、国家くらいでないとおいそれとは呼べない。ちょっと奮発した程度の契約だから二人で来ただけなの」


 ブラッドバウの事業規模はこんなものではないらしい。セージュに調べてもらうととんでもない数字が出てきたので目を剥いた。


「えーっと、じゃあ気軽に帰ってくれとは言えないんだ?」

 リリエルの迫力に押される。

「とんだ恩知らずになりたくなければあきらめることね。別にあんたの仕事を邪魔する気なんて欠片もないから安心なさい」

「君がツンケンしてたら依頼先の女の子が泣いちゃいそうでね」

「なんですって?」

 やはり彼女のほうが乗せやすい。

「エル、そのくらいで。彼女の言ってるのは本当です。お邪魔にならないようにしますので、しばらくはご勘弁を」

「へいへい、わかりましたよ」


(探りを入れる暇もありゃしない。こいつは難物だな。遠回しな妨害じゃなさそうなとこが救いかね)


 アニーグは受け入れざるを得ないと覚悟した。

次回『運び屋ニーグ(4)』 「それでも、戦争屋の世話になるようなもんじゃ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 怒って(いる様に)見せるのも駆け引き。
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