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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
眠り姫の褥(しとね)
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鳥かごバトル(4)

 ゼレイのデュミエルを置いてけぼりにして加速する。リリエルのラキエルは機動性でこれまでの同型機種を突き放していた。


(しくじった。ジュネのガードに一編隊(チーム)くらい置いておくべきだったかも)

 そうは思うのだがリスクもある。ガードが窮地になれば彼は動いてしまうだろう。

(最悪枷にはめてしまう。このあたりの判断が難しい。決めてもらうしかないし)


 尋ねればジュネは拒むだろう。本人は個人戦闘に秀でている自覚を持っている。周囲にいるのが味方でも、スピードと狙撃タイプの青年にはバトルフィールド内の友軍機が阻害要因になりかねない。


「ジュネ!」

「戻って来ちゃったのかい?」


 ようやくまともに見える範囲まで到達した。対峙する人型ヴァラージには無数のエネルギー薄片が突き立っているが身体を震わせて振り払っている。

 そこへ彼女の取り逃がしたもう一体が加わろうとしていた。明らかに過負荷の状態になる。彼は制御空間内の薄片を全て操り、隊機の援護までしてくれている。


「そう見えているのは情けないね。でも、ちょっと厳しいかな」

「当たり前でしょ」

 Cシステムに精神力を奪われた状態で人型二体は無理だ。

「お願い。もたせて」

「心配ないさ」

「あたしに痩せ我慢なんてしないで」


 悲しいかな間に合わない。たどり着いた人型ヴァラージが力場鞭(フォースウイップ)を叩きつける。リフレクタでガードしているが、反動で機体が流れた分もう一体への対処が遅れる。ビームランチャーが半ばから断ち切られた。


「もっと!」

 すでに内臓が悲鳴をあげているが、さらにを望む。

「臓器の一つくらいあげるから」


 誘爆したビームランチャーの爆炎からトリオントライが逃れる。熱をまといつかせながらヴァラージが掴みかかった。ジュネは空いた手で殴り掛かる。

 首が跳ねるが、爪がショルダーユニットに食い込んでいる。首元から伸びた触手が機体を舐め取ろうとうごめく。リリエルの背筋を悪寒が駆け巡った。


(なんでジュネだけは大丈夫なんて思ったの? いつも一番負担している)

 悔いが胸を押しつぶす。

(対抗手段が増えるほどヴァラージだって組織化して応じてきてるのに。どこかで破綻するかもしれないって考えなかった)

 常に余裕のある態度が思い起こさせなかったのは言い訳でしかない。


 ビームランチャーを手放したトリオントライの右の拳が何度もヴァラージの顔面を打つ。しかし、両手の爪はさらに食い込み逃さない。拳に注意を引いたジュネの左手が死角でブレードを生みだす。


(一時しのぎだけどこれで!)


 ところが、その手首がフォースウイップで斬り裂かれた。もう一体が後ろからも組み付く。残った肘を叩きつけるが、金属を含んで強化された外殻が衝撃を弾いた。

 フィン支持架(アーム)まで使って突き放そうとしているものの、それほどの駆動力はない。深紫の機体がもがくだけしかできなくなる。


(脱出し……)

 叫びそうになる。

(今、そんなことしたら食われるだけ)


 その瞬間、向けられている背中になにかが衝撃した。トリオントライを押さえつけようとしていた人型に直撃する。


「ジャジャアー!」

 外殻に(ひび)が走り剥離する。

「アンチV!」

「エル様も早く!」

「ゼル?」


 想い人の危機に気を取られすぎて失念している。リリエルも一応は腰にアンチVランチャーをぶら下げているのだ。


「このぉ!」

 ブレードグリップを放り投げて抜き様に撃つ。

「このこのこのこの!」


 連射するとすぐに弾倉(カートリッジ)は空。十分に距離は稼げていたので換装する間も惜しんでフレニオンフランカーを飛ばす。スラストスパイラルに打ち落とされなかった弾頭が背中に何発か当たった。


「ジ……ジジ……」

 薬液が浸透しつつあるヴァラージが痙攣する。

「その程度でぇ!」

「避けて、居候!」

「許さないんだから!」


 ゼレイが撃ったビームを後ろの人型が受ける。その反動だけで一体を下がらせることができた。フランカーが苦しむヴァラージの首を刎ねる。

 全てのフランカーの火力を集中させる。デュミエルのビームまで加えて破砕した躯体のパーツを一つひとつ焼き尽くしていった。


「もう一つは贅沢か」


 まだ使える右手にビームランチャーを握らせた彼が逃げるヴァラージを狙撃している。しかし、トリオントライの影でアンチVを当てられなかった相手は推力も落ちておらず、巧みに躱しながら遠ざかっていった。


「ありがとう。もうちょっとで餌にされるところだったよ」

 内容と違って平静な口調。

「お礼なんて言わないで。ジュネがCシステムを維持してくれなかったら何人かやられてる」

「器用だからって居候は無理しすぎ。エル様に手間掛けさせないの」

「ああ、ごめん」


 まだエネルギー薄片は舞っている。人型二体を失って不利を察したか撤退に転じた。すでに倒していた一体のナクラ型に加えて、アンチVを撃ち込んでいた二体のナクラ型はふらふらと飛んで部隊の的になっていた。


「二体ずつ逃しちゃったか。追いたいところだけど中破しちゃってる」

「ヴィーも片腕やられちゃってた。小破機も結構いる。ここは控えて」

「あきらめないといけないね」


 リリエルはタッターに戦闘終了を告げた。


   ◇      ◇      ◇


 休憩を挟んで集合する。ジュネに方針を決めてもらわねばならない。


「失敗したな。脅威と感じさせたまま逃してしまった」

「ジュネの所為じゃない。この数で対処するには無策に過ぎただけ。ほとんど遭遇戦じゃない」

 リリエルは抗う。

「そうさ。でも、捜索が難しくなった。きっと分散する。もしくはひそんで待ち伏せを仕掛けてくるだろうね」

「叩く。工夫して作戦を練れば戦力的には撃滅可能だってわかったもん」

「そうだね、うん。好材料もある」


 ラキエル単体で人型でも倒せると証明した。ナクラ型への対処も効率が上がるだろう。アンチVランチャーの使い方も徐々に把握できてきている。


「あとは場作りか。これが難しい」

 青年は首をひねる。

「それこそ囮作戦だって可能よ。哨戒部隊を使っているフリをして、逆に罠に掛けることだってできる」

「それはお嬢が自ら餌になるおつもりでしょう? 承服いたしかねます」

「でも、ヴィー。一番安全策なの」

 咄嗟の襲撃にでも対処可能。

「レイクロラナンからの距離を制限すれば罠にならないっすよ。奴らが見通しの悪いところにひそんでくれるとは限らないっす」

「ラーゴの言うとおりでやんす。惑星系一つを捜索するのに適した策とは思えないでやす」

「じゃあ、どうするって言うの? 真っ当に捜しまわる?」


 どれくらい時間が掛かるかわからない。お世辞にも得策とは思えない。物資にも限界がある。


「補給は星間管理局に頼めばいいでやんしょう」

 タッターに視線を読まれた。

「逆にそういう動きが囮になるのも本当でやんす。こっちが待ち伏せするのも有りでやすよ」

「消極策だけど確実ね。そっちの方向でいくべきかしら?」

「うーん、いささか広すぎる。幾らなんでも流してるだけで何ヶ月掛かることやら」

 ジュネは否定的だ。

「補給艦を危険にさらすのは最低限にしたいね。効率的にいこう」

「効率って?」

「レイクロラナンとぼくで二手に分かれる。それぞれに補給をしながら捜索と罠で発見に努める。どう?」


 彼女は目を剥いた。ほんのちょっと前まで窮地にあったのは誰だというのか?


「反対! ジュネだけ孤立なんてさせない!」

 当然抗議する。

「あたしとペアで行くなら考えなくもない」

「なにを言ってるのさ。まともに対抗できるのはぼくと君だけなんだよ? 分けるに決まってる」

「あなたこそ間違ってる。一人で行ってどうにかなると思ってるの?」


 リリエルは額をぶつけんばかりに迫った。

次回『眠れる姫(1)』 「……頼ってくれてる?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 一部に負担がかかりすぎ……。
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