偽りの未来(3)
デニスは呆然と中継を映している投影パネルを見つめる。そこには、あの日巨人の腕輪を損壊させた深紫色のアームドスキン。
(ジャスティウイングが司法巡察官? あのジュネ君がジャスティウイング?)
頭の中で繋がりが混乱する。
盲目だと言ったのは嘘ではないだろう。二度目に会ったときも意識して見れば素振りに違和感がある。むしろ彼が気を遣わせまいと視線を向けてきていると感じた。
「ロドニーが『手を出さないほうが身のため』って言ったのは、もう一人のジャスティウイングが司法巡察官だって知ってたから?」
ジャクリンも驚きに目を泳がせている。
「そういうことになる」
「じゃあ……、それで……?」
なにがどうなっているのか頭が追いついてこない様子。彼もなんと言うべきか言葉が出てこない。
「だ、騙されるな!」
ケビンことザド・イネスが声を張る。
「星間管理局はタイムマシンの実験を邪魔したいんだぜ。こいつはその手先だろ?」
「まだタイムマシンだなんて言い張るんだ。足掻くね?」
「そうじゃなきゃ困るのはハ・オムニだろう?」
二人が過去の人間なんかではなく、ただのストリーマーなのであれば話は変わってくる。急いで巨人の腕輪を稼働させる意味がなくなりかねない。
「だいたい、なんで俺たちがそんなことしなきゃいけないんだ」
徐々に口がまわるようになってきた。
「困ったんだろうね。ガライ教授の逮捕で制作費を回収できなくなったんだからさ」
「……ぐ」
「それどころか捜査が進めば詐欺に加担したと言われかねない。派手に騒ぎを起こしたかったんじゃないかな?」
ザドは二の句を継げない。
「だから一計を講じた。自分たちをタイムトラベラーに仕立てて目を逸らそうとしたのさ」
「だ、黙れ!」
「実は嘘でした、とかドッキリを暴露すれば叩かれるかもしれない。それでも、目をくらませるくらいの騒ぎにはなる」
ジャスティウイングの口から裏事情が語られていく。今や過去の人間を装っていたザドとダスティンは青褪めている。
「ガライ教授が関係しているのですか? それはどんな事情で?」
アナウンサーが真相を求める。
「この映像を一度くらいは見てると思うけど?」
「これは小規模実験のものですね?」
タイムマシンの話題で持ち切りだったこの期間にも何度も放映されたものである。宇宙に設置された15mほどの縮小版腕輪がワームホールを形成する映像だった。
内部にチリチリと光が舞い、画面内にある表示では時空が穿孔されて界面同士が近づいていく。最終的にはトンネルのようなワイヤーフレーム画像が出現していた。
「こんなものも残ってるんだよね」
ジャスティウイング側のパネルに別の映像が流れはじめる。縮小版の腕輪が稼働状態に入ろうとすると中央がくしゃりと潰れる。破裂したかのように両方の開口部が裂けたかと思うと、最終的には本当に爆発した。
「実際には実験は失敗してた」
ジャスティウイングは言い添える。
「ガライ教授に殺害された人物の中にはこれを知っている者が三名含まれてる。隠蔽したかったんだろうね?」
「そ、それは……?」
「彼は頑として邪魔されたのが動機だって言い張っているけど最初は口封じから。それでタガが外れて何人殺めるのも一緒だと思うようになってしまった」
大量殺人の真相に触れる。
「その手伝いをしたのが、そこの二人さ」
「馬鹿! 言うな!」
「実験は成功したことになっている。なぜかな?」
成功した実験映像が残っているからである。だが、それも隠蔽するための嘘だとしたら? デニスは真実に達していた。
「成功したことにしたかったガライ教授は証拠映像を作ろうとした。その依頼先がザドとダスティンの二人」
「それは本当なのですか?」
アナウンサーが質問するが彼らは目を逸らす。
「二人はアバター配信系だけど映像作成技術も持っている。皆が知っているとおり、実際の風景に嘘を織り交ぜてあり得ない映像を作り出して視聴者を楽しませるタイプのストリーマーだからさ」
「確かに」
「実物っぽい映像を作りだすのはお手のもの。教授から資料を譲り受けて証拠映像を作った。ところが支払い前に彼が逮捕されてしまった」
真実が滔々と語られていく。
「二人は面白くない。最悪は自分たちにまで罪が及ぶかもしれない。それならひと芝居打って誤魔化してしまえ、とね」
「そんなことを?」
「やり逃げすれば逮捕されるようなことにはならない。これだけ報道されればメイキング動画だって結構視聴数稼げるだろうからね。資金も回収できて一石二鳥さ」
それがザドたち二人がタイムトラベラーを自称した事情らしい。宇宙オタクだったダスティンがかねがね製作していた黎明期の旧式宇宙服や探査ポッドを利用することを思いついて。
「なんなら君たちを運んだ運送屋も連れてくるかい? そっちも星間保安機構捜査官が押さえてるけど」
完全に容疑が固められていた。
「くぅ……」
「どんな罪で裁かれるかはハ・オムニに任せよう。ぼくが裁定できるほどの星間法違反じゃないからさ」
「逃げ場はありませんからね?」
アナウンサーが釘を刺す。作業船の中にいる二人は戻り次第逮捕されるだろう。
(司法巡察官が裁定するほどの星間法違反がない?)
デニスはその言葉に引っ掛かる。
「ジャスティウイング、君が巨人の腕輪を攻撃したのはガライ教授の罪を暴くためじゃないんだな? なにが問題なんだ」
観測ドローンを飛ばしたデニスがオープン回線で問い掛ける。
「あの腕輪そのものが、だよ。実験失敗の映像を見ただろう? あれはきちんと作動しない」
「タイムマシンとして機能しないって意味じゃないよな?」
「そうさ。もし、タイムマシンとして作動するなら小規模実験のときもどこかの時代に接続されていたはずじゃないか。時空界面の向こうに過去も未来も存在しない」
青年は断言する。
「あるのは高次空間だけ。そこは時間が存在する場所だけど、根本的に性質が違う。この時空の時間は不可侵なんだ。決して自由に進めることも戻すこともできない」
「だとすれば、ワームホールとしても機能しないのか」
「そのとおり」
オープン回線で交わされる会話はそのまま中継に乗っていた。しかし、デニスはそれどころではなくなっている。
「人類の利用できるワームホールは人為的に作れないのかい?」
あきらめきれない。
「ゴート宙区にあるという移動用ワームホールは?」
「あれは時空界面の薄皮一枚で安定するように作られてるのさ。だから、一定速度で進入しないと転移できない仕組みになってる。固定されているから自由に跳び先を変えられるようなものでもない」
「そうだったのか」
縛りがあるという。
「じゃあ、巨人の腕輪を止めないといけないな。システム、緊急停止だ」
『停止できません。カウントダウンに従って自動的にシーケンスを実行します』
「なんだって!?」
権限は彼にあるはず。システムに拒まれた理由が思い当たらない。
「なんでだ?」
『そうプログラムされています』
愕然として「誰がそんなことを……」と続ける。
「止めさせるものか! これは僕の栄光の第一歩なんだ!」
「ドワン、君か?」
「知ってるぞ。お前ら二人が密かに管理局の誰かと会っていたのを」
ジュネのことだろう。
「僕が政府に密告した。途中で引き下がるかもしれないと告げたら、緊急停止させないようプログラムするよう言われたんだ。これでワームホール実験は成功する!」
「なんて無茶を! 人為的に停止させられない実験機の危険性を知っていてそんなことを?」
「うるさい! 邪魔するな!」
デニスはドワンにデモ隊と同じ狂気を感じた。
次回『偽りの未来(4)』 「これは君たちの選択なんだというのを忘れないように」




