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井の中の蛙 大海を知らず

作者: 御蔵羊

今回も暗い話ですが、お目通しいただけると幸いです。お楽しみください。

 僕の体は頭から尻尾まで真っ黒黒。親は蛙で生まれは泡の中。つまるところ僕はオタマジャクシってやつだ。


 上手に独りで移動できるようになってからはため池の中をすーいすい。ため池の中にいたのはたくさんのメダカたち。


 淡い色合いの群れにポツンと黒がひとつ。そんなんだから浮きに浮く。遊んでいる最中に混ぜてはもらえるものの、何かどこか違っている。


 モヤモヤしたまま周りに合わせ、水の流れに逆らっていく。




 新しくたどり着いたのは大きな池。今までいたため池の三倍は広そうだ。


 見たことのないものがチャプチャプジャブジャブ泳いでいる。ブラックバスやドジョウ、フナやウグイなど、知らないタイプのものばかり。


 自分と同じような仲間がいるかもしれないと交流してみるも皆違う。しっくりこない。同じような仲間なんていやしなかった。


 成長し、自分の尻尾がなくなっていく。短い手足が生えてくる。自分の体が変化していくのを不快に感じつつ、更に上を目指していく。




 大きな池の皆と別れ、登り詰めた川の頂上には湖があった。


 生息するものたちは社交的かつ穏やかで、仲間のいない僕にも優しくしてくれた。鮭の友人だってできた。川の頂上だからか、息苦しかったけれども頑張れた。皆と自分の違いを感じつつも、今までで一番楽しかった地域だ。楽しかったはずの地域だ。


 ずっとこのまま皆と一緒に遊んでいたいと思っていた。だがそんな僕を置いて時間は進み、別れの時が来た。志の高い友人たちは海に行くと言う。大海を知りに行くのだそうだ。


 正直僕は皆を引き留めたかった。僕とずっと遊んでいようよって。だけど、それ以上に僕の思いだけで皆の将来を壊したくはなかった。


 僕自身が皆に付いていくことも出来たけど、僕にはそうする体力がもうない。海についていくだなんて、無理だよ。




 疲れちゃったんだ。


 皆に置いていかれないように泳ぐのも、将来を考えて行動するのも。周りと自分と言う現実とのギャップを見続けることも、もう嫌だった。




 皆が僕の知らない道を通って川を、山を下っていく。新しい世界を、知りに行く。


 僕は努力虚しく皆に置いていかれたわけだ。


 寂しいと、苦しいと思うが、この結末を選んだのは自分だった。






 僕は、蛙は、大海を知ることなく井戸に帰っていった。

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