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[P-006-里親募集]


「あの、本当にわたくしがお預かりしてよろしいのでしょうか…」

 クラリスが、戸惑いながらもハチワレ子猫を膝に乗せて撫でながら言う。

「ん?もちろん。きちんと最後まで可愛がって面倒見てくれる人にお願いしたいです」

 その問いに、悠里は答えるが、何か問題があるのだろうか?

「もしかして一緒にいられない理由があるんですか?無理矢理押し付ける訳にはいかないから、教えてもらえますか?」

 クラリスは教会に入ったからには、まずは修行でペットを飼うなどという自由がないのかもしれないと思い聞いた。

「いえ、あの、わたくしが教会に入ったのはまだひと月足らずです。いわば新参者ですわ。それなのに教皇様や枢機卿様たちよりも先に眷属を賜るなんて…」

 手はしっかりと子猫を抱きしめてはいるが、おそらく教会内での地位などを鑑みているのだろう。貴族としての地位を持ち出さないあたり、クラリスの人柄と、とにかく階級社会なのが伺えた。

 地位だけで言うなら、まず王族へ献上すべきだろう。

 その辺りは悠里は特に考えていなかった。

 まずは目の前にいる、この子達に優しくしてくれそうな人へ渡したかったのだ。

「そう、ですか?私にとってこの世界の地位や序列はよく判りません。人が決めたものですから。高ければこの子達にとって良いというものでもないでしょうし。ただ、自分が食べるだけで精いっぱいという方にお渡しするのは、むしろその方に無理をさせてしまうのでよくないですけど」

 その意見を聞いて、その場にいた教皇たちも悠里という神から遣わされた人にとっては、貴族や序列に大して重きを置いていない事が知れた。

「そのために軋轢を生むのも本意ではないですが、連れまわして眷属という事を己の権威として利用する者にはお渡しできません。この子達はそういう事をされると精神的に参ってしまって寿命を縮めてしまいます」

 ふむ、と教皇が深く頷いた。そんな事をしそうな心当たりでもあるのかもしれない。

「基本家の中に居て、大半を寝て過ごします。馴染みのない者が来たら物陰に隠れて絶対出てこない性格の子も多いです。かまい過ぎると怒りますしね。心安らかにお世話して頂ける方にお渡ししたいのです」

 きっぱりと言い切る。アホな貴族などに渡して、アホみたいな服やアクセサリーなどを着けられ、自慢の為に使い潰されるなどもっての他なのだ。


「ユーリ様、篤と判りました。我々は復活した聖水の感謝を心に持ち、このネコと共に生きるだけで良いのですね」

 教皇が子猫を眺め、ふ、と笑うと悠里に向かって言う。

「そうなんです。一緒に居て、一緒に幸せになってくれるだけで、それだけでいいんです」

 にっこり笑って悠里が言うと、教皇も笑った。

 ここにいた信徒たちは、悠里は霊脈の浄化と、この世の人達の幸せを第一にお考えなのだと感動していた。

 だが残念ながら悠里の心の中は第一が猫で、その次はまぁ善良な人なら幸せになるといいと思うよ!程度だった。


「ね、クラリスさん、この子は貴方が好きみたいですよ?」

 お腹をご飯でいっぱいにしたハチワレ子猫は、クラリスの膝でびろんと伸びて眠っている。安心しきっているのだ。

「は、はい…」

 クラリスはじっとハチワレ子猫を見つめていた。


「あら、教皇様、貴方の方にも子猫が向かいましたよ?」

「え?お、おお…」

 教皇は柵の外にいたのだが、そう柵の内側から教皇めざして手を伸ばしている子がいた。

 おそるおそるといった手付きで、その子猫を拾い上げると、子猫は教皇にしがみつく様に爪でしっかりと抱きついた。


(子猫になつかれるおじいちゃん。いい!)


 悠里はほのぼのとした雰囲気に心が和んでいた。

「三毛猫ちゃんですねー。額の茶色と黒が可愛いですね!」

「…」

 じいっと見つめる教皇の目には、霊獣だとか眷属だとかより、小さく可愛い物を見る目だった。

「確かに、とても心が癒されるものですな…」


 ああは言ったが、クラリスは別として、まずトップの人に行く。三毛ちゃんグッジョブ。地位なんて関係ないとは言ったものの、まず上から攻めていくのはこれからのネコチャン界にとっては良い事だと思っていた。

地位など関係ない、と言えるのは地位のある人からの発信でないと中々通らないのも世の常なのだ。世知辛い物である。



「さあ、皆さんも小さな動物が苦手でなけば見てやって下さいませ」

 これはお見合いです!とばかりにお勧めしていく。

 一応猫に触れている様子や、猫が嫌がるそぶりを見せていないかはきちんと見る様にしていた。

「よろしいのですか?」

「まあ可愛らしい…温かい…」

「皆さま、爪はするどいですし、噛んだりする子もいるかもしれませんから気を付けて下さいね」

 ここに居たのは教皇の他3名だったが、皆おそるおそる近寄って子猫を見つめていると、不思議な事に子猫の方からパートナーを見つけたかの様に寄って来た。

「いいえ、小さな傷など若い頃の修行に比べればなんという事もありません」

「そうですとも。まぁ小さなお口。あら貴方の尻尾はふさふさね」

 一人ひとりそうっと抱きしめて言う。

 その様子を見て、辛い思いをしてこちらに渡ってきた子達に、これからうんと幸せになるんだよ、と語りかけた。



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