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[P-004-返す報い] ※ホラー注意!


 男は暗い部屋の中で、スマホの画面を見ながらぶつぶつと呟いていた。


「ははっ、あれからもう7日だ。警察が俺の所へ来る様子もないし、こりゃ楽勝だな。この辺じゃ監視カメラもないし、通り魔事件はお蔵入りだろ」

 口元は歪み、哄笑したいのをこらえている為引き攣った笑いが男からあがる。

 こんな時間に大笑いでもしようものなら下で寝てるジジィとババァがうるせぇからな、と己の両親の顔を浮かべる。困った様な、自分の子なのに気持ちの悪い物でも見る様な目で見てくる表情を思い出し、舌打ちをした。

 その下がった気分を晴らすようにスマホの画面を見直す。

 映っているのは7日前に男が刺し殺した女の画像だった。

 刺し傷だらけの無残な姿に、気持ちの悪さと、気持ちが悪ければ悪い程背中にぞくぞくとしたものが駆け巡る。


 この1週間は通り魔事件でもちきりだった。周りの小学校では親の送迎を求められ、夕方以降の子供の一人歩きは禁止されたと聞いた。

 連日マスコミが押し寄せ、事件現場等をうろついては人を捕まえ話をせがんでいた。

 それも7日を過ぎれば落ち着いてきていた。インタビューをされてみたい気持ちもあったが、この男には声は掛からなかった。

「残念だなぁ。こんな長閑な所で、怖いです…なんて言ってみたかったのに…っうぅっ」

 男は2時になった途端、痛み出した腹を抱えてトイレに駆け込んだ。

「くそっなんだってんだ」

 あの夜から連日夜中に腹痛になってトイレにこもっている。

 この所小さな事ではあるが何となくついてない気がする。

 昨日なんかは大学で(今度はこういう女を殺してみたいな)と思った途端オナラが出て大恥を掻いた。あの女の笑っちゃ悪いと思っている様な同情した顔が憎くて堪らなかった。

機会があれば次のターゲットはあいつにしてやろうと考えた。

 ようやく腹の痛みが治まって苛々しながら自分の部屋へ戻った。

 またあの画像を見て妄想して寝よう、そう思って。



 ずるり、とこの男の家の前で黒い影が動いた。

 大きな影に小さな影が寄り添うように居て、少しずつ家に近づいていく。

 鍵を掛けている筈のドアがゆっくりと開き、何事もなかったかのように閉まる。

 まるで血の塊の様な影は2階へと上がり、男の部屋の前まで来ていた。


 ぐふぐふと声を押さえて男が笑っていると、部屋のドアがぎぃっと軋らせて開いた。鍵を掛けていた筈と思い、驚いて振り返るがそこには誰もいなかった。

「何だ、鍵掛け忘れたかな…」

 まだ残っていた腹の痛みを抱えていたので、うっかりしたのだろうと考えドアを閉め、今度はしっかりと鍵を掛けたのを確かめる。またあの動画を見ようと振り向いた瞬間、男の目に、顔を血まみれにした女の顔が飛び込んだ。

「うわぁあああああ!!」

 大声で叫ぶとドアを背にしてその場にへたり込んだ。

 女がいつの間にか部屋の中に居て、男の至近距離に立っていた。座り込んだ事で女の足元に寄り添うように猫が居るのにも気が付いた。

 女と猫からは血がしたたり、男の足元にも広がって来ている。生暖かい感触が足の裏に届いた。

 男が歯をがたがた鳴らしながら、これ以上後ろに下がれないのに逃げようともがくと、口からも血を流している猫が鳴いた。

『にゃぁぁあぁ』

 その声に合わせる様に女も血まみれの口を開く。

『あ・あぁぁあ゛あ゛あ゛』

 それは言葉ではない、ただの叫びだ。

 だがそれに恨みが籠っている事だけは確かだった。


「雄太?雄太どうしたの?」

 母親のためらいがちな声が部屋の外からかかる。

 その間にも女と猫の絶叫は上がっていて、他の音が掻き消えそうな程の音量なのに、不自然にも母親の声は耳に入ってきた。

「た…たす…」

 殆ど音になっていない、掠れきった声で助けを求めた。猫と女の絶叫はずっと続いているのに母親の耳には届いていないらしく、「夜中なんだからあまり騒がないでね」と声をかけると一階に降りて行った。

(おいっふざけんなっ息子の俺が助けを呼んだのに帰るってなんだよくそばばぁ!たすけろくそがっ!)

 逆恨みも甚だしい感情をぶちまけながらも、目は女と猫から離す事が出来ない。瞼が痙攣して瞑る事も出来なくなっていた。

 するとぴたりと絶叫が止まる。

 虚空を見ていた女の目が数度ぐるぐると上下左右に周り、目だけで男を見おろした。

 口は相変わらず大きく開けたままで、中から血が流れ続けている。

 それは男のスマホに映っている女の姿そのままだった。

 その口の端が上へと弧を描く。笑みというには壮絶な顔で一言喋った。


『見ィつけタ』


 女が言った後、目玉が眼窩からぼとりと落ちた。


「ぎゃあああああああああ!!」


 喉も裂けよとばかりに喚いた後、男は意識を失った。


 手に握りしめていたスマホが、ぽとりと落ちる。

 その画面には何かのメッセージが届いていた。




*****************




 悠里は朝目覚めると洗面台で顔を洗い、悠里はTV画面から這い出てくる幽霊の映画の主題歌を歌いつつ景虎の居るベッドへ戻る。

「ねぇ知ってる?あの歌さ、『来る』じゃなくて最初は『Oooh』って感嘆詞なんだヨ。しかも結構明るい歌だよね」

「悠里ごきげんにゃ」

 景虎はまだベッドの上でごろんと伸びている。その横へぼすんと寝転がるとわしゃわしゃと背中を撫でた。

 昨日はせっかく用意してくれているし、豪華な天蓋付ベッドは乙女の憧れだー!と言って召喚出来るにも関わらず、寝なれた家のベッドではなく教会が用意してくれた部屋で眠っていた。

「んふふー。まぁちょっとだけスッキリする夢みたんだよねー。私達を殺した奴をビビらせてやったぜ。あれはちびってたね。ざまみろははは」

 夢だとは判っていても、喚き散らして怖がっている男を見て、少しは胸がすく思いだった。それに5個の願いの復讐があるのだ。神様の計らいでそれらを夢として見せてくれたのかもしれない。そして自分たちがどれほどホラーな姿であってもあまり気にはならなかった様だ。

「随分はっきりした夢だったしね。それにしてもまぁアレ位でビビって失神とか、良心のないサイコ野郎だと思ったけど、恐怖の感情は死滅してないのかよ」

 ふんっと蔑むように笑う。

「さてっと、今日からどうするか。霊脈の浄化ってもなぁ」

 まぁその場所に行ってみれば何とかなるかなーと楽観的に考え、のんびりしていると、ノックの音がして、アンネローゼが声を掛けてきた。

「ユーリ様、おはようございます。朝食をお持ちしました」

「あ、はいっ」

 慌てて起き上がって、身だしなみを整える。

「失礼します」

 返事を聞いた後、朝食の乗ったワゴンを押してアンネローザが入ってくる。

「昨日は大変申し訳ございませんでした。あの後はゆっくりお休みになれましたでしょうか」

 流れる様な動作でテーブルをセッティングしながら、アンネローザは昨日の事を詫びてきた。

「いえ、貴方の所為ではないですし、大丈夫ですよ。それに夜はちゃんと休ませて頂きました」

にっこり笑って言うと、アンネローザもほっとして、笑みを返しえてくる。

「後でリカルド様が来られます」

 そう言ってテーブルに朝食を並べ終えると部屋を出て行った。

「そうだった。話を聞かせてねって言ったんだっけ。…重い話じゃないといいけど」





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