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異世界姫騎士転生おじさんと、アラフィフおじさん転生姫騎士

作者: 大橋東紀
掲載日:2021/08/07

ラノベ専門学校で「異世界転生」を課題に出された時の作品です。

もともと長編用に作っていたプロットを、5000字にまとめるのに苦労しました。

「だいたい、お主は肉体管理がなってない。暴飲暴食でたるんだ体、まったく不健康だ」


 お人形の様な美しい顔をゆがませ、セリアは文句を言い続ける。

 俺、なんで自分の娘みたいな女の子に説教されてるんだろう。

 こいつ確か十七とか言ってたから、ウチの娘より年下だよな。


「少し走っただけで息切れしおって。私が毎朝、走り込みと、剣の打ち込みをして、お主の体を鍛えておる」

「ちょっと待て、剣の打ち込みって……」


 セリアは必要以上のドヤ顔で言った。


「そちの世界が剣の所持を禁じておるくらい知っている。お前の娘が修学旅行とやらで買ってきた木刀でじゃ」

「あいつ、そんなもん買ってたのか……」


 事の始まりは、三か月ほど前だった。

 倦怠期の女房と、反抗期の高校生の娘を抱えて。

 役職はないけど一部上場企業の正社員だし。

 東京じゃないけど、四十年ローンでマイホームも買えたし、まぁ勝ち組かな、とは思ってた。


 でも通勤電車の中で、やっちまった。

 胸がチクン、としたかと思ったら、どんどん痛みが酷くなって。

 満員電車の中で倒れたら、周囲から悲鳴が上がって。

 それを聞きながら、意識が遠くなっていった。


 次に目が覚めたら、若い女の子に囲まれていて。死んで天国に来た!と思った。

 そしたら、自分の体を見て、更にビックリだよ。

 動揺して「鏡はあるか?」って聞いたら、手鏡を渡されて。

 自分の顔が、若い綺麗な女の子になってる。


 なんじゃこりゃ、とか、会社はどうしよう、とか言ってたら。

『頭を打ったんだ。休ませろ』と言われて。

 ベッドに寝かされてからも、えらい事になった、俺は死んだのか、とか思ってるうちに。

 人間、不思議な物で、布団の中に横になってると、いつしか寝てしまうもので。

 その夢の中で、この体の持ち主、セリアに出会った。


「私の体を、返せっ!」


 さっきまで俺だった美少女が、いきなり掴みかかって来て。

 夢の中で両者の体が触れ合った瞬間。

 俺たちは全てを察した。


 冴えないアラフィフのサラリーマンの俺と。

 剣と魔法の世界の、十七歳の姫騎士セリアが。

 どういう訳か、世界を越えて、互いの魂が入れ替わってしまったのだ。


 手が触れた瞬間に、相手の記憶が、頭に流れ込み。

 三倍ほど長く生きて来た俺の記憶を見たセリアは「い~や~だ~。私の体をか~え~せ~。元の世界にか~え~せ~」と、ずっと泣きわめいていた。

 やっとこさセリアが泣き止んだ後。

 俺たちは、自分たちが置かれた状況を確認しあった。


 どうやら俺たちは、肉体が眠っている時だけ、夢の中で会えるらしい。

 それから眠っている間は、一日にあった事の記憶を交換し、互いの存在に、なりきる為の注意事項を伝えあう大事な時間になった。


 セリアは〝姫騎士〟の呼称通り、高貴な家の出で、この年齢で一個小隊を任される身だったが、なかなかの苦労人だった。

 彼女の父親は、かつて第一王位継承権を持つ、この国の王子に仕えていたが。

 急遽、導入された選挙制度で、第二継承権を持つ王子が王になった。

 つまり、セリアの家は、負けた側についていたのだ。

 それ以来、彼女の家は何かと冷や飯を食わされている。

 セリアも不良女子の集まりみたいな、落ちこぼれ小隊の指揮を任されていた。


「あんた、ずいぶん酷い連中の指揮を任されてるね」


 夢の中で会った時にそう言うと、セリアはお得意の、根拠のない自信満々な態度で言った。


「ふん、元の体に戻ったら、あんな連中、すぐに従わせてみせるわ」

「あ、もう全員、忠実な部下にしといたから」


 俺の言葉に、セリアは美しい顔が台無しになるほど、大口を開けて驚いた。


「ど、どうやって?」


 いくら説教をしても、聞き流す連中に。

 隊長としての威厳を見せる為に、俺は言ったのだ。

 全員、罰として三日間、昼飯抜きだと。


「そ、そんなので連中がいう事を聞くのか?」

「聞く訳ないだろ。毎日大暴れよ」


 抗議したり反抗したりする連中を、適当にいなし。

 彼女らのストレスが最大になった三日目の昼飯時。

 ついに連中が、食堂に押し掛けた時。

 前もって頼んでいた事を、炊事係に言ってもらったのだ。


「隊長はこの三日間、朝も昼も夜も、食事を召し上がっていません!」


 そこにフラッと現れ、全員の注目を集めてから、フッ、と微笑んで言った。


「部下のお前たちが昼飯を食えんのなら、指揮官の自分は、三食抜かねばなるまい」


 そしたら皆、感涙にむせんで「隊長~」と抱き着いてきた、と話すと、セリアが食い気味に聞いてきた。


「お主、本当に食べなかったのか?三日間」

「いや、食堂で食わなかっただけで、自分の部屋で食ってたけど。ほんとチョロいな、お前の部下」

「な、なんと卑劣な!しかしセラという女は一筋縄ではいくまい。一番、反抗的な奴だ!」

「あ、セラは俺の事……厳密にはお前の事か。姉御って呼んでる」

「ど、どうやって手なづけた?」


 セラという娘は、確かに反抗的だった。

 反抗の為の反抗と言うか、何を命令しても。反対し、ふてくされる。

 だがこちらも、伊達に娘を育てたり、会社の生意気な若造の世話をしていない。


「お前の思う通りにやってみろ。全て任せる」


 目をパチクリさせたセラが言い返す前に、俺は畳みかけた。


「自分の考えがあるから言うのだろう。思う存分やるがいい。責任は、全て私が取る!」


 まぁ失敗しても、大した被害が無い事を確認して言ったんだけどね。


「そしてセラがその任務に成功したら、凄い、さすが、とベタ誉めした。それを数回、繰り返したから、彼女は俺の事を凄く慕っているよ」

「そ、それだけか?」

「あのね、反抗する子ってのは、承認欲求が強いんだよ。自分なら、もっと上手く出来ると思いこんでる訳。やらせてみて、成功したら大げさに誉めれば、こっちのいう事を聞く様になるよ」

「でも、失敗したらどうするのだ?」

「鼻っ柱が折れるからいいじゃん。適当に『成功するまで応援ずるぞ』とか言えばいいんだよ」

「全く、いいかげんな男だ……」


 一方のセリアは、その生真面目さで、俺の職場や家庭でも、うまくやっている様だった。

 不景気で、仕事の回答が先送りにされがちな中。セリアはせっかちに会社の各部署を回って調整し、取引先の要望にサクッと回答を出すので、ライバル他社に差をつけている様だった。

 倦怠期の女房と、反抗期の娘とも、女心がわかるからか、上手くやっている様だ。


「昨日、お前の娘が、美術の大学に行きたいと言ってきた」


 サラッと言われたので、俺は驚いた。

 あいつ、美術とか好きだったっけ?

 一緒に暮らしていたのに、そんな事も気づかなかった。


「『好きな道を行け。応援もする。ただし、選んだ道を悔やむな』と言ったぞ。そしたら『お父さん、大好き』と抱き着かれた。これは私ではなく、お前が受けるべき言葉だ」

「美術系の学校ってお金がかかるんじゃないかな……。まぁ、それを稼いでくれるのはセリアか」


 そうこうしているうち、セリアの小隊……すなわち俺の小隊に、大仕事が回って来た。




「す、すまんっ!」


 夢で逢うなり、セリアが土下座してきたので、俺は仰天した。

 な、なんだ?こいつ何をやらかしたんだ?


「今は私も男の体。劣情に任せて、その……。お主の妻を抱いてしまった!」

「なんだ、そんな事か。焦らせるなよ」

「そんな事だと?私は、お主の妻を寝取ったのだぞ?」

「う~ん、でも俺の体でしょ?それって俺が抱いたのと変わりなくない?それに、もう何年もご無沙汰だったしなぁ。あいつ喜んでた?」

「そりゃもう、『あなた積極的で、若い頃に戻ったみたい』って、何を言わせるのだ!」

「そうそう、そんな事より、お前の世界も大変なんだよ」


 セリアの小隊は辺境伯より、隣国との境にある山脈に潜む、山賊の討伐の命を受けたのだ。


「山賊は強敵だぞ。過去に三回、討伐隊が派遣されたが、いずれも全滅した」

「俺たちみたいに、大した部隊じゃなかったんじゃないの?」

「いや、王国でも選りすぐりの実力派部隊が派遣された。そう考えると、何故今回はお主の隊なのだろうな?」

「おいおい、お前の隊だろ……しかし山賊ってそんなに強いのか?モンスターか何か使うのか?」

「いや人間だけだ。地の利に長けているのだろう。山の中で暮らしている連中だからな。私が行きたいくらいだが、その日は新規の取引先へのプレゼンテーションが……」


 えっ、お前、そんなの任される立場になったの。 

 だが、なるほどね。

 セリアの話で、山賊の強さの秘密は、大体わかった。



 山賊討伐の朝。

 セリア隊は辺境伯と、その部下の役人たちの見送りを受け、出発の儀式を行った。


「国王の忠実なる部下、我がセリア隊。これより作戦会議で申し上げました通り、白鳥の谷を抜け、山賊討伐に向かいます!」


 貧相ながら鼓笛隊が奏でる行進曲に乗り。

 セリア隊は、山岳地帯への道を出発した。


 討伐隊を見送った辺境伯が先に帰った後。

 部下の役人達は用意された部屋でくつろいでいた。


「あまり優秀な部隊ばかり犠牲にすると辺境伯に疑われるからな。今回は大したことない部隊を選んだが、予想以上に愚かでしたな」

「まさか一番、狙われやすい白鳥の谷を通るとは!」

「あそこなら、上のヤビツの峠から襲えば一網打尽だ。今頃はもう、片付いているだろうよ」

「つまり、討伐隊が進むルートの情報を、事前に山賊に流していた、と」


 夏場なので使われていない暖炉の中から、俺がそう言ったので、連中は色めきだった。


「き、貴様、出立したのではなかったのか」


 隠れていた暖炉から這い出ながら、俺は思った。

 あ~あ、こんなに体を煤だらけにしたら、セリアは怒るだろうなぁ。


「あんた達に言ってもわからないだろうけどね。俺たちサラリーマンは、ライバルに出し抜かれても『向こうが凄い』とは思わないんだ。『内部に秘密を漏らした奴がいるな』と思う」


 腰の剣を抜き、役人たちを威圧しながら、俺は言葉を続けた。


「疑いが確信に変わったのは、作戦会議で『白鳥の谷を抜ける』と提案した時だ。辺境伯は『上から狙われるから危険ではないか』と言った。でもお前たちは『今までここを通った部隊はいないから、敵の裏をかける』と辺境伯を押し切った」


 煤だらけの顔でニヤッ、と笑うと、俺は言った。


「山賊と結託して、山道を通る商人の情報を流し、襲った儲けを山分けにしてるって所か。辺境伯もグルだったら厄介だったが、お前たちの独断の様だな」

「えぇい、殺せ!生かして返すな」


 俺は窓に駆け寄ると、大きく開け放った。


「もう遅い!」


 外では、セリア隊の部下達が、ひっ捕らえた山賊を連れて帰ってきた所だった。


「白鳥の谷を抜けるとは、辺境伯とお前らにしか言っていない。そして私の部下は、山賊が待ち受けているヤビツの峠……そう、白鳥の谷を襲うのに絶好なポイントを、さらに上から襲撃した。お前らが山賊と結託している事は、もう奴らが吐いたよ」



「なぁセリア、なんとかしてくれよ」

「我々の意志で元の体に戻れん事は、お主も知っておろうが」


 山賊と、彼らと結託していた汚職役人を一網打尽にした俺……というかセリアは。

 王から高く評価され、各地の貴族や名家から、結婚の依頼が殺到していた。


「お前の体が結婚しちゃうんだぞ?それでいいのか?」

「ふん。私はお主が三年前に挫折したプロジェクトを再開するので忙しい。新規のスポンサーも獲得したのだ」

「お前なにビジネスマンに染まってるんだよ」

「お主こそ、諦めて姫騎士として生きたらどうだ?なかなか似合うと思うぞ?」


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